第174話 狂犬病の恐怖
ハァハァ
ガフガフ
カチャカチャ
車の周りを回っている動物の気配が、どんどん増えているような気がする。二つの光る目があちこち食べ物を探しているようだ。
「相手からは私達が見えているんですかね?」
「認識はしているかもしれないけど、どういう風にとらえているのかしらね。」
私と瞳マネが話をしていると吉永さんが言う。
「もしかすると得物ととらえている可能性もあるんじゃないかしら?」
背筋を冷たいものが流れる。
私たちが餌…
「危険である事に変わりはないですね。」
遠藤さんが言う。
あゆみは震えて私にしがみついているが、もしかしたら私も震えているのかもしれなかった。しかし動物たちは今の所、私たちに襲い掛かる様子が無かった。
「やっぱり山に草食動物もいるし、エサがあるから繁殖したんじゃないのかしら?」
吉永さんが冷静に話していた。
「とりあえずこのままでは危険ですね。」
「どうします?」
私が言う。
「このRV車なら突破できると思うわ。愛菜さんにトランシーバーで、ここから出るように伝えたほうが良いんじゃないのかしら?」
吉永さんが言う。
「わかりました。」
私が震える手でトランシーバーを持って連絡をする。
「愛菜さん。」
「はい。」
「動こうと言う事になりました。」
「そうですね。こちらでも動いた方が良いんじゃないかと話してました。」
「わかりました。」
遠藤さんは今のトランシーバーのやり取りを聞いていたので、すぐにエンジンをかけた。すると隣の愛菜さんもエンジンをかける。
チュチュチュブーン
ガサガサガサガサ
ガッガッガッ
エンジンの音に合わせて暗闇の中の動物たちが驚いて動いたようだ。
「ついて来てって伝えて。」
「愛菜さん!ついて来てください。」
「了解。」
カチ
ライトを着けて皆が引き攣った。おびただしい数の犬、いぬ、イヌ!
「うわっ!」
しかしライトを着けて一瞬ひるんだのか、犬がわさわさと逃げる。しかしそれも一瞬で、あっという間に集まってくる。もしかしたら車に対する恐怖などが無いのかもしれない。
「遠藤さん。」
吉永さんが言う。
「はい。」
「ゆっくり…いざとなったら轢くつもりで良いと思う。」
「わかりました。」
ブゥゥゥ
車をゆっくり進めると前にいる犬が避けて前が開く。しかしそれ以外の犬は直ぐにどけようとしなかった。
「愛菜さんにも伝えて。」
「はい。」
私はトランシーバーで今の事を隣の車にも伝える。すると愛奈さんが運転する車もゆっくりと動き出した。犬がそれにつられてどけていくが、やはり逃げようとはしなかった。
「何か少しおかしいわね。」
「逃げませんね。」
「どうしたんでしょう。」
「なんでしょう。」
そんなことを話していると気だった。
ドン!
ガァガァ
窓ガラスにいきなり立ち上がった大型犬がへばりついて、口を開けて噛もうとしている。涎が窓ガラスにべっとりとついた。
「ひっ!」
「わあ!」
「きゃあ!」
瞳マネと私とあゆみが思わず叫ぶ。
「まさか?」
「ゾンビ化してる?」
「いえ、それなら遠藤君が居るから。」
瞳マネが言う。
すると隣の車からトランシーバーに連絡が入る。
「翼です。」
「どうしました?」
「里奈ちゃんこれ、狂犬病よ。」
「狂犬病?」
「なんか海外から来た犬が、狂犬病で隔離されているのを見たことがあるけど似てるわ。」
「仕事でですか?」
「そう。あと家でも犬を飼っていたけど、狂犬病について調べた事もあってね。こんな風に狂暴になるのよ。」
「確か狂犬病って人間は100%死にますね。」
吉永さんが言う。
それを聞いてみんなが背筋を凍らせる。
「恐らく予防注射をしていないので蔓延化したのではないでしょうか?」
「とにかく速やかに離脱しないとですね。」
暴れてかかってくる犬も車のガラスをぶち破るほどではなく、よほど大きな犬じゃないとかかってくる事も無さそうだった。
「少し速度を上げて見ます。」
遠藤さんは、いままで10キロくらいで徐行していたのを20キロくらいまで上げる。
ブロロロロロ
流石に狂暴になっていても犬は車をどけるらしい。しかしふらふらになっている犬もいるようだった。
「あ、だめだ。」
遠藤さんが言う。
ボゴン
車体が揺れる。どうやら死にかけた犬を踏んでしまったようだった。
「遠藤さん!とにかく犬を踏んでも車をとめないように!隣にも伝えて。」
吉永さんが言う。
私はトランシーバーで隣にも伝えた。恐らくRV車で来て正解だったかもしれない。犬をものともせずに進んでいくのだった。
「抜けた!」
遠藤さんが言う。
「後ろの車が来るのをまって!」
瞳マネが言った。
そして後ろのライトが犬の群れを抜けるのを見て、瞳マネが言う。
「抜けたみたい!」
「行きます!」
ブオオオオオオオ
RV車が勢いよく走り出すと後ろのライトもついてきたようだった。麓から更に街中へと移動して路上に止まる。
ワオオオオオン
ウォオオオオオン
遠くから犬の遠吠えが聞こえた。
「もう少し移動しますか?」
「そうね。」
「街中のスーパーの屋上駐車場なら犬も来ないんじゃないですかね?」
遠藤さんが言う。
それを後ろの車にも伝え、スーパーを探して市内を回ると駐車場の登り口があるスーパーを見つけた。
「あった!」
そして遠藤さんはそのままスーパーの二階を目指して斜めに登っていく。きちんと後ろの車もついて来ていた。
「さすがにここに動物は来なさそうです。」
遠藤さんの言葉を聞いてみんながホッとするのだった。
犬が野生化して群れを成していたのだが、ゾンビ以外にも脅威がある事を再認識するのだった。