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第173話 夜の訪問者

罠を入手した私たちは、神奈川の丹沢山中に来ていた。麓の町にも人はおらず荒れ果てている。この山は栞さんが元カレから聞いていた獣害に悩まされた地域らしかった。


「いますね」


私が言う。


「そうね」


瞳マネが返事をした。


このあたりの地域は鹿が繁殖し、草木が枯れてしまうので管理捕獲などをして調整していたらしいのだが、人間が居なくなったため野生の鹿が大量発生しているらしく、我が物顔で跋扈していた。


「罠いりませんでしたね。」


あゆみが言う。


「でもくる前はわからなかったし、罠が多くて困ることはないわ。」


吉永さんが答える。


そう。私たちは一つの事実に気がついたのだった。罠を作っている会社を突き止めて、わざわざ檻を持ってきたのだが、既にあちこちに罠が仕掛けてあり、白骨化した野生動物の死骸が入っていたのだった。


「とりあえず俺達が持ってきた罠を仕掛けて、他の罠も復活させましょう。中の死骸を取り除いて仕掛けておけば、いずれかの罠に必ずかかりますよ。」


「確かにこれだけいればすぐね。」


自分達で持ってきた罠を仕掛けて餌を括り付け周りの罠も仕掛けはじめる。不慣れなため、近隣にあった罠を仕掛けるのに4時間くらいかかってしまった。


「そろそろ日が落ちるわ。何かあるといけないから麓まで降りましょう。」


吉永さんが言うので皆が賛成して、一旦車に乗り込むのだった。


あたりが薄暗くなった頃に麓の町についた。私たちはこのあたりのスーパーを探す。広い駐車場を見つけて一晩過ごすためだった。食料は持ってきているが、朝になったらスーパーを物色する事になっている。


しばらく走ると、地元のスーパーを見つけたのでその駐車場に入って、車のライトを切りエンジンを止めた。


「やはり暗いですね。」


吉永さんが言う。


そういえば後参入組はあまり遠征の経験が無いかもしれない。町はどこも夜は漆黒に包まれるのだ。


「静かですよね。」


私が答える。


「ええ。」


あたりは静かなのだが、少し開けた車の窓から野生動物の鳴き声らしきものが聞こえて来る。


「とにかく食べましょう。」


後部の荷台からニシンやサンマの缶詰と、カンパンを取り出してみんなに配る。となりに止まっているもう一台もどうやら缶詰を食べ始めているようだ。


皆が食べ終わりぽつりぽつりと話をしていたが、ひとりまたひとりと眠りに落ちていった。けっこう長い車中だったのと罠の設置で疲れているようだった。


・・・・・・


そんな深夜の事だった。


ハアハア


ガリガリ


チャッチャッ


何かの物音がして目が覚めた。暗闇の中を目を凝らしてみると、何かが動いているようだ。私は戦慄し全身が総毛だった。


まだみんな気がついていないようで寝ているようだ。


私はゆっくりと運転席で寝ている遠藤さんに、後部座席から手を伸ばして起こす。


「ん、何?」


「しっ!」


「どうしたの里奈ちゃん。」


遠藤さんが小声で話す。


「駐車場の周りに何かいるみたいです。」


私も小声で返す。


「みんなを起こした方がいいね。」


「はい。」


私と遠藤さんは他のメンバーをそっと揺らして起こす。


「…ン…里奈どうしたの?」


「静かに。」


「えっ。」


「何かに囲まれてるみたい。」


「本当だ。」


そして遠藤さんが車のキーを回してウインドウを閉める。さらに車のロックを確認していた。


「となりは気が付いてますかね?」


「いや…全員寝ているみたい。」


「知らせないと。」


「音を立てないように。」


運転席と隣の助手席までは1メートルくらいの距離があった。ドアを開けて降りないと届かない距離だった。


「降りるしかないか。」


大声を出すわけにもいかないので、そっと遠藤さんが言う。


「ちょっとまって。」


瞳マネが止める。


「周りを良く見て!光ってない?」


どうやら二つの光の点が、そのあたりに何個も動き回っているのがわかる。


「降りるのは危険ですね。ちょっとトランシーバーで伝えましょう。」


私が言う。


「そうね。」


私がトランシーバーを取ってスイッチを押して話しかける。


「もしもし、起きてください。」


すると隣の車でもぞもぞと動くのが聞こえた。


「絶対にドアを開けないで下さい。」


シー


トランシーバーの受信音が聞こえる。


「里奈ちゃん?一体どうしたの?」


トランシーバーに出たのは愛奈さんだった。


「静かに話しましょう。どうやら車の周りに何かがいるようなんです。聞き耳を立ててみてください。」


「‥‥‥」


愛菜さんが聞いているようだ。


「本当ね何かしら?」


愛菜さんが言う。


「目の感じから言うと恐らくは‥‥。」


助手席の吉永さんが何かに気が付いたようだ。


「なんです?」


「野犬か狐だわ。」


吉永さんが言う。


隣の車でもみんな起きて周りを見だしているようだった。


「刺激しないように。」


「はい。」


トランシーバーの音は皆が聞いているので、ひっそりと静かになった。


「私達が魚の缶詰を食べたから寄って来たんだわ。臭いが籠らないように窓も開けてたし。」


吉永さんの言うとおりだろう。私たちは窓を開けて缶詰を食べた。あと籠るといけないので、寝る前も少し窓を開けていたのだった。


「こちらは締めました。」


「私達の方も締めたわ。」


「とにかく飢えていると思うから危険よ。」


吉永さんが言う。


「わかりました。」


周りを嗅ぎまわり歩く獣たち。しかしその匂いがこの周辺から来ている事が分かるらしく、車の周りをウロウロしているようだった。


ガリ


時おり車をかじるような音がする。もしかすると臭いの元がここだと気が付いているのかもしれない。


ガツ


グッ


ガッ


どうやら車のバンパーのあたりをぐりぐりと引っ張っているやつがいるらしい。


「どうする?」


瞳マネが遠藤さんに言う。


「でもむやみにクラクションを鳴らしたり、ライトを着けたりして刺激を与えられないですよね。」


「確かに。」


するとトランシーバーから愛奈さんが言って来る。


「静かにしているしかないよね。きっとそのうち諦めるはず。」


「ですね。」


私たちは暗闇の中でじっと野生動物に怯えるのだった。


ゾンビの世界で二番目に怖いのが野生動物なのかもしれない。私たちはむしろこの世界では動物よりも希少な絶滅危惧種になっているのだから。

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