第170話 ゾンビの血液採取
「ドアを開いたわ!」
愛菜さんが運転席を立ってさすまたを掴む。
「みんな気を付けて!」
吉永さんが言う。
しかしゾンビはドアが開いた事に気が付いていないのか、バスの中腹あたりでのたのたと窓を見上げている。
「いまのうちに!」
さすまたを持った人6人と拳銃をもった3人。そして華江先生が医療キットを持ってバスの外に出て行った。私はバスの上からその光景を見ている。
「不用意に近づかないように!」
吉永さんが声をはる。
ゾンビは出て来た人に向かってノロノロと歩きだした。
「後ろに回るわ。」
あずさ先生が拳銃を一人に渡してさすまたと交換し、後ろに回ってさすまたでゾンビを押す。するとゾンビは後ろを振り向いてあずさ先生に手を伸ばす。
「うっ。」
あずさ先生は小さく声を出す。
「みんなもかかって!」
吉永さんが指示をだすと、皆がゾンビを押し込みグイっと横に振る。するとゾンビはそのままドサリと地面に倒れ込んだ。
「周りは!?」
愛菜さんが私に聞く。
「何も動く者はいません!」
そして全員のさすまたでゾンビを地面に押さえ込んだ。じたばたとしているが払いのけるほどの力は無いらしい。
「そのまま押さえてて!」
華江先生が言う。
「先生!できればゾンビの視界の後ろから!」
吉永さんが拳銃をゾンビの頭に向けながら言う。
「分かっているわ。」
そして華江先生が腹ばいに倒れたゾンビの足元の方から近づいて、注射器を背中辺りに差し込んだ。
「感触的に心臓は動いていないわね。」
華江先生が注射器で吸い取るようにひくと、注射器の中に黒い液体が入ってくる。その注射針を引き抜いて外し蓋をした。そしてもう一本の注射針を背中に打ち込み、もう一本分の血を取り出す。
「血は取れたわ。」
次に華江先生が取り出したのは、注射よりずっと太い金属製の杭のような物だった。
ズボ
再びゾンビに差し入れる。それでもゾンビはバタバタともがいていた。
「よし!取れたわ!」
そう言って華江先生がゾンビの血が入った注射器と、肉を取った杭を持ってバスの中に戻って来た。それを鉛で出来たトランクの中に収めて鍵をかける。
「里奈ちゃん!」
華江先生が私に言う。
「はい!」
私はトランシーバーを取ってすぐに優美さんに連絡を取った。
「近づいてきてください!採血できました!」
「了解。」
少し経つと、皆がさすまたで押さえていたゾンビが燃えるように消滅した。遠藤さんの圏内に入ったらしかった。
ブロロロロロロ
遠藤さん達が乗るRV車がバスへと近づいて来る。
バタン!
車を降りて遠藤さんと優美さんと栞さんが走り寄って来た。
「皆さん!大丈夫ですか?」
「ええ、何とか採血できたわ。」
「とにかく長居は無用よ。すぐに戻りましょう。」
皆が返事をして、RV車と大型バスは拠点へと引き返すのだった。
「まもなく拠点につきます。」
私がトランシーバーで拠点に連絡を入れると麻衣さんが返事をくれた。
「いま迎えを出します。」
そしてみんながホテル前のバリケードについた時、大型バスやトラックが左右に割れて私たちのバスとRV車が中に入っていく。私たちが通り過ぎると再び大型バスやトラックが元に戻ってバリケードを作った。
「里奈!」
バスを降りた私にあゆみが駆け寄って来た。
「大丈夫だよ!」
「よかった。」
栞さんの元には夏希さんが来ている。この二人も凄く仲が良くていつも一緒に居るようだった。
「みんなありがとう。まずはゾンビの素材を採取できたわ。」
「良かったです。」
奈美恵さんが華江先生からトランクを受け取って、そのままみんなでホテルの中へと入っていく。
そして展望台にみんなが集まった。
「皆さんお疲れ様。今日は疲れたと思うので休みにしたいと思うのですがどうでしょう?」
華江先生が言うと皆が頷いた。
「賛成です。」
「そうしましょう。」
「はい。」
それぞれが答える。
流石に今回の回収はかなり疲れた。普通の回収の時より体は動かしていないが、精神的にかなり来ていたらしい。
「私は明日からこの研究に取り組むわ。」
「だとセントラル総合病院にいく訳ですね。」
「ええ。遠藤君や男児、妊婦以外の方に手伝ってもらう事になります。」
「「「「「はい!」」」」」
私も華江先生を手伝う事にしている。あとは医療組と体力に自信のある愛奈さんとみなみさん、セントラル総合病院の施設を確認する為に未華さん、吉永さんと菜子様と皇居組から3人が病院に行く事になった。
「じゃあ今日は解散しましょう。」
そして私たちは解散した。私はあゆみと一緒に部屋に戻る。
「どうだった?」
あゆみが言う。
「現れたゾンビは1体。しかもノロいやつだからそんなでもなかったよ。」
「それでも怖いよね。」
「うん。さすがにキモかった。」
「だよね。」
これからはまたしばらく普通の生活に戻る事となる。最近見つけた西方50キロほどにある大型の食料品倉庫のおかげで物資も十分に確保できていた。
「今回取れた素材でなにか解明できるといいよね。」
「だよねー。」
「でもゾンビに血とかあるんだね。」
「真っ黒だったよ。」
「やっぱそうなんだ。腐ってるんだよね?きっと。」
「たぶんそうだと思う。」
私たちのその努力が報われるように祈るだけだった。
その日はそのままあゆみと一緒にお風呂に入り、そして一緒のベッドで眠る事にした。あのゾンビの顔が目に焼き付いているので一人が怖かったからだ。
それから数日の後。
華江先生から衝撃の事実を知らされることになるのだった。