第17話 ウイルス蔓延 ー長尾栞編ー
冬休みが終わり試験の時期がやってきた。
《まあきちんと勉強はしていたので、単位を落とす事はないと思うけど。》
気をつけなきゃいけないのは、最近流行ってきている風邪のような病気だった。
世界中でパンデミックが起き、あっという間に広がったのだ。日本でも蔓延しはじめているようで、学校でも感染防止のために結構な数の人がマスクをしている。
私も予防のためにマスクをしていた。なっちゃんも常にマスクをするようになっていた。
「ああー、しおりんのかわいい顔が隠れてるぅー」
「なっちゃんだって!可愛い顔が見えないよ!」
「本当にウイルスが厄介だよね。変な病気が流行ってさ」
「マスクがうざいわ。」
「感染して試験受けられなくても嫌だったしね。」
「だよね。私も嫌なことは早く終わらせたかったわ。」
「とにかく今日の試験を乗り切って、楽しい春休みをすごすんだ!」
「がんばろうね。」
それからの2週間、私達は無難に試験期間をきりぬけた。
私もなっちゃんも、なんだかんだと優等生なので、すべての科目の単位をとった。
おかげで楽しい2年生ライフを送れそうだった。
「しおりん。今日バイトだっけ?」
「うん。」
「そういえば、バイト先変わったんだよね?」
「そう、今はホテルの給仕のアルバイトしてるよ。」
「すっごいところで働いてるよね?」
「なっちゃんもしてみない?」
「えー。じゃあしてみようかな?」
「じゃあ職場の主任さんに話してみるね!」
「ありがとう。」
その夜にバイト先で主任に聞いてみると、その返事はあまりいいものではなかった。
《てか・・私もだめなんじゃん・・》
次の日、私達はなっちゃんの部屋にいた。
「なんかごめんね。なっちゃん。」
「仕方ないよ。しおりんも仕事休みになっちゃったんだし、このご時世だから。
「なんかさ、感染拡大防止の為ひと月休業するんだって。私もヒマになっちゃったわ・・」
「ホテルの社員さんとかも辛いよね。」
「助成金の申請してるんだけど、いつ通るかわからないって。通ってもお金がでるのは数ヶ月先らしいし、私達バイトはしばらく休みだってさ。」
「まあ仕方ないか。じゃあヒマだしさカフェいかね?」
「いいね!行こう。」
2人は暗い気持ちをリフレッシュするため、お気に入りのカフェに足を向けた。街は人も少なめだが、まだまだ歩いている人は大勢いた。
サラリーマン、私服のひと、若い人、年寄りとさまざまなな人達が町を行きかっている。
みなマスクをして歩いていた。街並みは変わっていないのに、違う世界にでも紛れ込んでしまったかのようだ。人々の様子がすっかり変わってしまった。
繁華街を抜けていつものカフェに着くと・・
・・カフェは閉まっていた。
-しばらくの間休業とさせていただきます。再開は現在未定となっております。またのおこしをお待ちしております-
店主
「えー!やっぱ家でじっとしてろって事なんかな?」
「たぶんそうだよ。」
「どうしようか?」
「いったん家帰ろう。そうだ!なっちゃん!今日うち泊まりなよ!」
「おっ!いーねー。じゃ一緒にご飯つくろーよ。」
「何作る?」
「まだ肌寒いし・・あ!じゃあさ鍋にしようぜ。しおりん家に電気の鍋なかったっけ?」
「あ、電気グリル鍋あるよ!」
「お魚の鍋にしようよ!」
「いいねー!じゃあ買い出ししよう!」
2人でスーパーに買い出しに行く事になった。
スーパーにもわりと人がいたが、平日の午後なので混んでいるっていうほどでもない。スーパーの人々はやはりマスクをしてウイルス感染対策をしていた。
「まずタラ買おう。」
「タラ!買う!そして・・なっちゃん白子いける?」
「あーたべるよー!!」
「白子いっちゃおう!」
あとは豆腐、長ネギ、白菜、しめじ、椎茸、みつ葉、乾燥くずきりを買った。
「鱈鍋じゃぁ!」
「飲み物買おう。」
「炭酸とお茶を買おう。」
「ポン酢は家にあるよーん。」
「調味料系は買う?」
「全部揃っとるよ」
「いやーん、さすがは女子力高いしおりんだわー。」
2人はテンションマックスで買い物を済ませ、なっちゃん家に着替えを取りに行ってから、私の家にむかった。
「もうすでにお腹ペコペコじゃて。」
「しおりんさんよ・・わしもじゃ。」
家に着いたので早速、電気グリル鍋を出す。
「ちょっとさ・・熱が上がるまで時間がかかるから、鍋に水入れてコンセントいれとくね。」
「じゃあ私材料切っとくわ。」
「あいよ」
私はグリル鍋に水を入れて、そこに昆布を1枚丸ごと入れた。だしを取るために沸騰させる。
「電気グリルは沸騰するまで少し時間がかかるのでお待ちくだされ。じゃあ私も野菜を切るとしますか。」
「あ、野菜きり終わっちゃった。あとは豆腐とキノコだよーん。」
「じゃあキノコを手でほぐすわ。椎茸は飾り切りしたるよ。」
「すごーい!しおりんの女子力・・早く唯人君に見せつけたいものだわね。」
「そんな日がくるんだろうか・・そうなんだろうか?」
「わいがセッティングしてやろうかあ?」
「えーおねがいしちゃおっかな。」
なんて話をしながら鍋の用意をした。
具材に火がとおりグツグツいっていた。湯気が出てきたので少し窓をあける。
二人で鍋をつつきはじめた。
「おーいしいー!」
「んー、さいっこう!」
「白子うまいわ。」
「マジで最高だね!」
二人で鱈鍋を堪能した。
テレビをつけてみると、またウイルス蔓延のニュースだった。
「最近さあ・・テレビのニュースこればっかだよね。」
「ホントだよね・・大丈夫なのかなあ?」
「どちらかというと男の人がなるらしいけどね・・」
「でも女性もかかるんだよね。気をつけないと入院とかしたくないしさあ。」
「しおりんが入院したら私生きていけないわ。」
「なっちゃんが入院したら私もいやよ。」
「お互い気を付けて予防しなくちゃね。」
「うん・・ただね・・なっちゃん。いつもマスクしてるからって目元だけを化粧するってのも・・なんだか。」
鍋を食べるためにマスクを外していたのだが、なっちゃんの鼻から下はスッピンだった。
「えっ!どうせ見えないし、化粧品の節約にもなるし!いいよ!」
「てか、今日もしカフェ開いてたらどうするつもりだったのさ。」
「あっ・・・・それはさあ、マスクで隠しながら・・無理か?」
「まあマスク会食なんてもあるし、ありかもね。」
「でしょ」
なっちゃんはやっぱり天然な可愛さを披露してくれるのだった。
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