第169話 ゾンビ捕縛
「聞こえる?」
「はい聞こえます。」
あずさ先生がトランシーバーに向かって話している。
私達は大型バスに武器や回収道具を詰め込み、ゾンビから体液や血液を回収するために出発するところだった。以前のような失敗が無いように、トランシーバーであずさ先生が後ろの車に乗っている優美さんに連絡をしていた。
大型バスには13人が乗っている。後ろについているRV車には遠藤さんと優美さんと栞さんが乗っていた。ホテルには子供たちを面倒見る人と、妊娠している人が残った。
「とにかくメーターで1キロ過ぎたら連絡するわ。そしたら時速30キロで出発してくれる?」
「了解です。近頼も聞いてます。」
「了解。」
もしバスがどうしようも無くなったら、遠藤さんの車が走ってきて皆を助ける事になっていた。前回もきちんと保険をかけていたのだが、官邸の窓が開かないというアクシデントに見舞われたので、今回はそんなことにならないように念入りに確認している。
「皆さん!今回参加してくれてありがとうございます。」
あずさ先生はバスの中の人たちに向かって言う。
「半分は回収に不慣れな人だけど、志願してくださって本当に助かります。」
「いえ、私たちもなにか協力したいのです。」
「ええ。でも無理はしないで、危険を感じたらすぐに遠藤君を接近させるわ。」
「はい!」
皆が頷いたところで、愛菜さんが大型バスを発進させる。
「里奈ちゃんもメータを良く見ていてね。」
愛菜さんは私に言う。一走行距離と速度をドライバーと一緒に二重に確認する事になっている。
ブロロロロロ
バスが進んでいく。
メーターを見ていると1キロが過ぎた。
「あずさ先生!1キロです。」
「優美さん!1キロよ出発して!」
「了解。」
トランシーバーで連絡すると優美さんが答えてくる。
恐らく1キロ後ろを遠藤さんが運転するRV車がついて来ている頃だろう。
「出ますかね?ゾンビ。」
未華さんが言う。
「おそらく。ただしばらく拠点から離れないと難しいかも。」
あずさ先生が答えた。
「そうですよね。私たちがこの周りを散々動き回りましたからね。」
「ええ。だからかなり距離を稼がないと難しいかも。」
「はい。」
皆が緊張の面持ちだった。ゾンビに会いに行くという作戦自体怖いのに、ゾンビから体液を回収しなければならないのだ、固くなるのは当然だと思う。
「あれからゾンビが怖くなってしまって。」
菜子様が言う。
「私もです。」
私が答えた。
「でも今回は密室じゃないわ。しかもバスの中から確認しながら行えるからどうにかなるはず。」
「ですね。とにかく皆さん十分注意しましょう。」
私が言うと皆が頷く。私はすっかり慣れてしまった、みんなにおんぶにだっこが嫌で頑張っているうちに、こういう事に動じなくなってしまったのだ。
1時間ほど走った辺りで皇居組が言う。
「あそこに動いていたのがいたような気がします!」
「本当?」
華江が言う。
「優美さん!バスを止めるわ!そちらも止まって!」
「はい。」
トランシーバーで後方の車にも伝えた。
「どこ?」
「あそこのビルの中にいたような気がしました。」
「愛菜さん!クラクションを!」
「はい!」
ププー―――――
大型バスのクラクションが鳴る。
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
皆が沈黙して当たりを見ていた。
10分ほどたっても動きはなかった。
「見間違えでしょうか?」
見たと言っていた女の人が不安そうに言う。
「もしかしたら光の加減とか?いずれにせよ建物の中には危険だからいけないわ。」
「もう少し先に行って見ましょうか?」
愛菜さんが言う。
「そうね。出発しましょうか?」
「見間違えじゃなかったとしても、外に出てこないのでは危険だわ。出てくるところまで行った方が良いと思う。」
吉永さんもいう。
「優美さん!また出発するわ!」
「了解です。」
トランシーバーから返答が聞こえる。
ブロロロロロロロ
またバスが動き始めた。それからまた30分がたつ。
「いつもの私達の行動範囲の外に出ます。」
「そうね。そろそろ出て来る可能性があるわ。」
「いました!」
私が見つけた。
「本当だ!車を止めて!」
「はい!」
「優美さん!ストップ!」
「了解」
そしてバスを止める。
ゾンビだ‥‥間違いなくゾンビがいる。しかしそのゾンビは変わってからかなり立つようで、ようやく動いているような感じだった。
「1体だけかしら?」
「他に動いているのは見えないけど。」
あずさ先生と吉永さんが言う。
ゾンビは1体だけだった。他に動いているのは見えない。
プッ
軽くクラクションを鳴らすと、ゾンビはこちらに気が付いてゆるりと近づいて来る。
「き、来ました!」
菜子様が言う。
「落ち着いて!」
そしてみんながゾンビを押さえつけるための、さすまたを構えてバスの中で待つ。吉永さんと菜子様とあずさ先生が拳銃を構えている。
トン
ゾンビがバスの前に来た、フロントからバスの中を見ているが、ただ力なくボディを叩いている。
「この位置じゃあまだ危険ね。」
吉永さんが言う。
「みんなバスのドア側に集まって!」
皆がバスの中でドア側に移ると、それについてゾンビがバスの脇に移動して来た。
「捕縛する人以外は周りの様子を伺っていて。他のゾンビが来たらすぐに大声で知らせて!」
「「「「はい!」」」」
皆が恐怖に顔を引きつらせてゾンビを見ている。ゾンビは焦点があっているのかあっていないのかぼんやりした顔で人が居るほうへ動いた。
「愛菜さん!ドアを!」
「はい!」
プシュッ
外にゾンビがいる状態で、バスのドアが開いたのだった。