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第166話 効くのはワクチンじゃなくて血清?

華江先生の話は続く。


「そうよ。ウイルスではなくて毒。毒蛇由来の毒と言う可能性よ。」


「でもあれって飛沫感染する物じゃないですか?」


「パンデミック前まではそうよ。」


「どういう事でしょう?」


華江先生と菜子様が話す。


「最初の検体やデータを見る限りでは、どちらかと言うと蛇に噛まれた人から発症した病気の可能性があるのよ。」


「蛇に…。」


そして華江先生はパソコンをパチパチといじって他のデータを出す。すると画像には毒蛇に噛まれて壊死した足や手、死んだ人の背中などが映し出される。


「蛇に噛まれた人だけど、どこかで見たことない?」


「ゾンビ…。」

「ゾンビのようです。」

「これがゾンビと関係があると?」


どういう事だろう。


蛇に噛まれた人がそれで病気になり、そして飛沫感染するようになって広がったと言う事だろうか。よく思い出してみるとゾンビの体はまるで壊死したようになっている。


「そういえば。」


「なに?」


「最初の風邪のような症状に感染する時は飛沫でしたが、ゾンビに感染するのは噛まれたらですよね。蛇も噛まれれば毒に感染しますが、もしかしたらゾンビのそれは、毒蛇と同じという事ですかね?」


菜子様が気が付いたようだ。


「その可能性が高いわね。ただふつうは毒蛇に噛まれた後で、体内からその毒が飛び散ったりはしないわ。でもゾンビの場合は血から感染したり、裂傷した皮膚から飛び散った体液で感染する可能性もあると言う事よ。」


そしてまた華江先生はデータを映し出す。画面に映っているのは傷が治って笑っている人達だった。写真の状況からすると古い写真のようだ。


「これは?」


「毒蛇に噛まれて血清を打つことで治った人。」


「血清。」


「そうよ。」


そんなデータが官邸のサーバーの中にあったなんて。


「データの日付を見ると、私とのホットラインが途絶えた後で、外国の有名な感染症の博士から送られて来たものらしいわ。送られて来た日付はそれほど古くはないわね。」


「でもこの写真には日付が。」


「1969年8月と手書きで書いてある。この写真はスキャンしてデータで送ったものよ。」


「古いものですね。」


「ええ。」


私達が見るプロジェクターの画像には古い写真が映し出されている。なまなましい傷跡が残っているものの、治って笑っている人々の顔が並んでいた。


「私はこの人を知っているわ。」


華江先生がひとりを指して言う。


「誰なんです?」


「帝都大学の有名な教授で沢田さんと言う人。でも海外で病気で死んだと聞いているわ。」


「何をした人ですか?」


「ある毒蛇の血清を作ってたくさんの人の命を救った人ね。」


「どうしてデータの中にその人の写真が。」


「私はこれがヒントだと思っているの。もしかしたらワクチンではなく…答えは血清なんじゃないかって。」


ざわざわざわ。


皆がざわついてしまう。今までウイルスが原因で対策をしてきたはずなのに、もしかしたら毒が原因で、その治療はワクチンではなく血清かもしれないという事だ。


「驚くのも無理はないわ。」


今までその事実に気が付いて研究する人は居なかったのだろうか?


私は素朴な疑問を思い浮かべる。


「あの先生。」


「里奈ちゃん。」


「私が聞くとそれはもっと簡単な事だったように聞こえるのですが。」


「簡単な事?」


「ウイルスとかワクチンとかじゃなくて、血清があれば助かっていた命がたくさんあるという事なんじゃないですか?」


「言う通りよ。」


うそ…。もしかしたら感染症から進化したゾンビになる病だからウイルスが原因で、それを治療するのはワクチンしかないと考えられていたと言う事?それをしなかったが故に世界は滅んだ?


ざわざわざわ


「私ももっと近くに検体があったら気が付いたかもしれない。でもゾンビの世界でその検体を採るのは至難の業よ。」


「そうですね。」


吉永さんが言う。


「ゾンビを捕えるか、もしくは噛まれてなりかけの人の血を取らなければならない。更にゾンビの毒がどこから出ているのかを調べる必要もあるわ。」


聞けば確かにそんなこと無理だった。


人々は暴徒のように荒れ狂う生ける屍から、逃げまどう事で精いっぱいだったのだ。その事実に簡単に気が付く事の方が難しかったはずだ。それを医療従事者や研究者にやらせると言った事の方がひどい考え方だ。簡単な事だったんじゃないかと言った自分を恥じる。


「すみません。」


「里奈ちゃんが謝る事なんてないわ。」


「でも。」


「当事者じゃなければ、誰もがそう思うんじゃないかしら。ただ私たちはこうして厳しい世界を生き抜いて来た。だからこそ分かるその検証の難しさだと思うの。」


「はい。」


「要はなってみないと分かんないってやつよ。」


あずさ先生が笑って言う。


「先生。」


遠藤さんが手を上げる。


「遠藤君。」


「ならばゾンビから血が取れれば、もしくは噛まれてまだゾンビになっていない人間から、血を採取出来れば研究ができるって事ですか?」


「まず第一段階はそうなるわ。」


「となると、俺や息子たちは行けないって事ですね…。」


「ええ。」


今の話を聞いてみんなに戦慄が走る。そうだ…遠藤さんや男児たちが居ればゾンビや感染者は消滅してしまう。採取するならばゾンビを消す能力の無い人だけでやらなければならないと言う事だった。


「また…。」

「嘘…。」

「そんな…。」


それぞれに恐怖で青ざめる。


「とにかく次はもっと作戦を練りましょう。トランシーバーや連絡方法を用意し、安全な方法で捕獲できないかをやってみるしかないわ。」


あずさ先生が言う。


「計画をじっくりと練っていきましょう。」


吉永さんも言う。


皆はまたゾンビに近づかなければならない恐怖に顔をゆがめるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先ずは近年増えた女性自衛官を確保せんとね! だと練馬の第一師団の基地に行くべきだよ? 第一師団は非常事態時に 皇族の安全を守るのが第一義ですから 優秀な女性自衛官が積めているよ? 宮家や皇族…
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