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第165話 データと研究結果

プロジェクターに映し出されたのはグラフや数値、難しい文字列だった。正直私が見ても何が書いてあるのか分からない。恐らくここにいる人のほとんどが分からないんじゃないかなと思う。


華江先生はそのまま話を続けた。


「ここにあるパラメータは、耐ウイルス者と私たちの女子児たちのデータよ。数字だけを見てもらうと分かると思う。」


私達は二つ並べられた数字を見比べる。その数字はほぼ同じ数値となっているようだったがやはりよくわからない。


「ゲノム解析の結果この二つの遺伝子情報は似た生物と言う事。通常の人間とは異なった塩基の配列となっているわ。」


華江先生が言うと菜子様が手を挙げた。


「質問いいですか?」


「どうぞ。」


「先生。分かりやすく言えば、そのデータから考えられるのは…なんというか、人間では無いと?言う事ですか?」


言いづらい感じで聞く。


「ふふ。そう言う事ではないわ、れっきとした人間よ。しかし進化したと言った方がいいかしら。」


「進化…。」


「うーん、この病原菌に対して適合するようにDNAレベルで変化したと言ったらいいのかも。」


「変化…。」


華江先生が分かりやすく伝えようとしてくれている。


菜子様は良く分からないようだったが、みんなもポカーンとしている。言っている事はなんとなく分かるのだが、理解が追い付いていない感じだった。


「という事はあの女児たちは?」


代わりに吉永さんが聞く。


「推測ではあるけど彼女達はゾンビにはならないわ。そして恐らく率先して襲われる事もないはずよ。ただゾンビによっては、人間と認識して襲い掛かってくるものもいるんじゃないかしら?」


「噛まれたとしてもゾンビにはならない?」


「そうだけど、もちろん食べられたら死ぬわ。」


先生の言うとおりなら、女児たちも凄い力を持って生まれて来たと言う事だ。以前私たちは、女児たちにゾンビ消去能力が備わってない事に落胆した事もあった。しかし彼女らには他の希望が秘められていたのだ。


「ちょっとまってください。それなら遠藤さんや男児たちはどういう状態になっているんですか?」


栞さんが聞く。


「それが…。」


華江先生が言いよどむ。


「ごめんなさい、実は分からないの。」


「分からない?」


「ええ。」


「どういうことですか?」


華江先生がパソコンを触ってまたいろんなパラメータを出す。同じようなものを二つ並べていた。


「これが普通の人間のデータよ。」


「はい。」


「そしてこれが遠藤さんのデータ。」


「なるほど。」

「違いますね。」

「それがあの効果を?」


普通の人のパラメータと遠藤さんのパラメータは全く違うものだった。


「明らかに違うわよね。」


華江先生が言う。


「はい。」


「そしてこれが遠藤さんの塩基の配列と、普通の人の塩基の配列。」


「あれ?」

「これは…。」

「同じ?」


「ええほとんど差が無いのよ。要は普通の人間と同じ配列なのに、数値だけが違って来るの。」


「どうしてですか?」


「わからないわ。」


華江先生に分からない物を、ここにいる全員が分かるはずかなかった。


「それで、今回入手したデータを加味するとどうなるのです?」


菜子様が質問する。


「今までは、遠藤さんや男児たちのDNAがもつ配列を、どうにかワクチンに組み込ませる方向で研究していたんだけど、女児たちの方が可能性が高い事が分かったの。すでにある程度の段階まで来ているわ。」


「そうなんですね。」

「すごい!」

「ワクチンができる?」


皆が光を見だしたような表情をするが、華江先生が少し暗い顔をしてうつむいた。


「どうしたんです?」


菜子様が聞く。


「ごめんなさい、私の能力の問題もあるのだけれど…。」


「はい。」


「ワクチンは出来ないわ。」


「え!」


ざわざわざわざわ


「それは…どういう?」


「ラボの設備と…スタッフが絶望的に足りないのよ。」


「設備とスタッフ…。」


そればかりは仕方のない事なのかもしれない。どうしたって専門家は華江先生一人しかいないし、打開策は見つかりそうになかった。


「すみません。私たちも力不足で。」


あずさ先生が言う。


「いいえ、そんなことはないわ。皆よくやってくれている、ただこういう研究は一人で出来るものでもないし、専門家が集まってやる物だからね。私一人では膨大な時間を費やしてしまう事と、やはり設備の問題があるわね。」


「そう言う設備はどこかに無いんですか?」


未華さんが言う。


「残念ながら国内では限られているわ。2ヵ所くらいかしら。それも都心には無いのよ。ここからだとかなり遠いしその施設が無事かもわからないの。 」


「そうなんですね…。」


せっかく新しい可能性が見えてきたところで、やはり現状の施設や人員では出来ないと告げられ皆が落胆していた。


「でも…。」


華江先生が続ける。


「ワクチン開発はかなりハードルが高いんだけどね。官邸で入手した情報にはもう一つ気になる事があったのよ。」


「気になる事ですか?」


菜子さまが言う。


「ええ。最初にこの病原菌が出現したころの検体とデータがあったのだけれど、それはゾンビウイルスなどではなかった。」


「ゾンビウイルスではない?」


「そう。」


「どういう事です?」


「この病原体…いいえ、病原体と言うよりも毒に近い物かしら。」


「毒?ですか?」


「ええ、そう。毒よ。」


「ウイルス性の感染症ですよね? 」


「それが…最初はもしかしたら動物の毒だったかもしれないと言う事ね。」


「動物の?」


「ええ、毒蛇の毒よ。」


ざわざわざわざわ。


新たな情報にみんながざわつくのだった。


ウイルスが原因ではなく毒が原因?


その情報を聞いたとしても私はピンとこなかった。その情報によりこれから研究はどうなっていくのか?それをこれから華江先生が話してくれるようだった。

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