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第160話 自分の立場が不安

しばらくして私はまた物資回収に出るようになった。人数が増えて26人になったため、食料や水そしてエネルギーがより多く必要になり、1回の回収でかなりの量を確保しなければならなかった。今日の私たちは湾岸地帯で、まだ人の手が入っていない倉庫を見つけ、そこで物資の調達中だった。


「本当にゾンビが出ないんですね。」


菜子様が言う。


ここにはゾンビ対策として遠藤さんと私の息子そして長尾栞さんの息子が居た。二人の男児は3歳と2歳に成長して、普通の食べ物が食べれるようになっているため、遠征でも十分行動できるのだが、目を離すとどこかに走って行ってしまうため、いつも見ていなければいけなかった。


「これが遠藤さんの力なんです。」


私が言う。


「改めて体験してみると驚くわ。」

「本当です。人類の希望だわ。」


菜子様と吉永さんが言う。この二人は物資回収に立候補して参加してくれたのだった。


「こんなに遠方まで来れるなんて、行動範囲が広ければ物資の調達もかなり有利でだわ。」


もう一人参加していた皇居組が言う。菜子様を助けた時にいた人のうちの一人で、ハーフの牧澤カレンさんと言う女性だ。ハーフらしく目鼻立ちがはっきりしていて、性格的に明るい人だった。


「はい、既にあの近場は物資の調達が厳しくなってますからね、こうして2日か3日かけて遠出しないと大量には手に入らないんです。」


遠藤さんが答えている。


「そうなんですねー。でもこんなに残っている人がいたなんて本当に驚きですね。」


カレンさんがニコニコしながら遠藤さんに言う。


「この力のおかげでだいぶ助かっていますよ。」


「頼もしい。」


うーん、ちょっとカレンさんは遠藤さんに近しいような気がする。この人は誰にでもフランクに接するからそう感じるのかもしれなかった。


「皆さん大型バスも運転できるんですね。」


菜子様が言う。


「この数年で皆がいろいろできるようにしてきましたから。」


栞さんが説明していた。


新しい人たちはこれから私たちの生活に馴染んでくるだろうが、まだ私たちが決めたルールを良く知らなかった。それをとやかく言う人はいないが、そろそろある程度のルールを守ってもらわないといけないと私は思う。


「でも、まさか女優さんが居るなんて驚きだわ。」


カレンさんが言う。


「本当ですね。もう少しで映画などに出るんじゃなかったんですか?」


菜子様もその話に乗って来た。


「いや私からすれば、まさか菜子様がいらっしゃるなんて思いませんでしたよ。」


「ホントそうです。驚きでした。」


私が言うと栞さんも同意してくれた。


「逆に私はいろいろな意味で守られてましたから、一般の人より生き残りやすかったかもしれません…。」


「あ、別にそういう意味じゃないですけど…。」


菜子様が気まずそうに言うので私が否定した。


「分かってますよ。ただ一般の人よりは恵まれた環境にいたのは確かです。そのため8名の人を助けられて一緒に生き延びる事も出来ましたし、結果としては良かったと思っています。」


「本当に良かったです。」


すると倉庫の奥の方から声がかかった。声をかけてきたのは麻衣さんだった。


「そろそろ休憩にしませんか?ここには食料もあるのでそれで一休みしましょう!」


「はーい。」

「そうですね。」

「わかりました。」


美白のアイドルのような顔をした麻衣さんが向こうで手を振っていた。私たちは手を止めて麻衣さんの所へ歩いて行く。


「なんか贅沢ですよねー。」


カレンさんが屈託なく言う。


「そうかしら?生きるのには最低限の事に思えるけど。」


吉永さんが言う。


「そうですかあー。今まではかなり食べ物を制限して来たので、私達からすればだいぶ贅沢に感じますよぉ。」


「はは、そうですかね?でも回収している人たちが体調を崩したら元も子もないですからね、遠征先でもきちんと食べられるときは食べる。これが我々のルールです。」


遠藤さんが説明していた。


「わかりましたー。」


カレンさんが言う。


私はこのカレンさんと言う人が苦手だった。芸能界にいた時にもこういう人はいたが、番組でお会いしても楽しい人だなーくらいに思っていた。でも実際こういう事態になってあっけらかんとされると、真剣にやっている私たちがバカみたいに思えて来る。


「里奈ちゃん。気にしない。」


栞さんがこっそり私に耳打ちする。


「大丈夫です。」


どうやら私は表情に出てしまっていたようだ。栞さんはそれを見抜いて窘めてくれた。女優として演じる事ができても、実際の世界では私はただの人。いままで一緒に暮らした人たちは私を女優橋本里奈ではなくて、普通の人として扱ってくれる。


そして今回の回収作業には本来私の名前は含まれていなかったが、私は自ら志願して遠征について来たのだった。


それは…


遠藤さんと一緒にいたいから。


そう私は私の欲求の為にこの遠征について来たのだった。


おそらく私は少し焦っているのかもしれなかった。しかし私の隣には遠藤さんとの子供がいる。それが私の中での新しい人たちとは違うアドバンテージになっていた。


最年少の私とあゆみはどうしても意見が出せなかったり、大人が決めたルールに従いながら暮らしている。ならばどうするべきなのか考え抜いた答えが、極力遠藤さんのそばから離れない事だった。


私のこの気持ちはまだ誰にも伝えていない。瞳マネにもあゆみにすら伝えていなかった。私は再び彼の子供を早く身ごもるために、どうすればいいのかをずっと考えている。


しかしあまり極端に近づいても嫌われるかもしれない。あまり女を出しすぎると引かれるかもしれない。自分としては、いいバランスを保ちながら遠藤さんにアプローチできていると思う。


それだけに、この牧澤カレンと言うハーフの女性は苦手なのだった。自然に遠藤さんの側にいる事が多いように見えるし、気楽に話しかける事も出来ている。


優美さんはどう思っているんだろう?


私は彼女のように余裕ではいられない。遠藤さんの中で私は何番目の女?そんなことを考えて今日も悶々としてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際こういう事態だと物資は東京だと東京の外郭の トラックターミナルに集積されているよ? 米に缶詰衣類等の消耗品は生活物資 トイレトペーパー、女性の生理用品子供の紙おむつ 粉ミルク乾物は武器は…
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