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第159話 生き残るために

私たちは首相官邸から救出された。


それから数日がたった…


私達は一度体制を立て直し、みんなで再び官邸に行ってサーバーを回収した。既にセントラル総合病院の華江先生の研究室にサーバーが設置され、鉛のトランクに入った検体も全て回収して保管してあった。


既に華江先生の研究は始まっているようだ。


「本当に良かったね。」


ホテルの一室であゆみが言う。


「本当に。もうだめかと思ったんだよ。」


「怖いね。」


「なんか実感した。やっぱりゾンビの世界に生きてるんだって。」


「この暮らしをしていると忘れるよね。」


「うん。」


そう、今回は私を含め華江先生とあずさ先生、愛菜さんも危険な世界に生きている事を再確認する事となった。菜子様も吉永さんは私達よりも憔悴しきっていたがようやく回復したようだ。


コンコン


部屋のドアがノックされる。


「はーい。」


ドアを開けるとそこに瞳マネージャーが立っていた。


「里奈、元気になった?」


「瞳マネ、入って。」


瞳マネージャーを部屋に入れた。


「本当に大変だったわね。でも今回の回収はかなりの収穫だったみたいよ。」


「やっぱりそうなんだ。」


「ええ、ワクチン開発はどうなるか分からないけど、何らかの糸口はつかめそうだって華江先生も言っていたわ。」


「苦労した甲斐あってよかった。」


「本当ね。」


私達はそれから部屋でいろいろな事を話し合った。華江先生の研究がどうなるのか、ゾンビの世界での食糧事情について、そして今後の回収担当から今回参加したメンバーは外される事。


「あれだけの事があったんだから、里奈はしばらく休むといいわ。」


「私は大丈夫。」


「いいからみんなの気持ちを受け取って休みなさい。」


「そうだよ、回収は私が代わりに行くからさ。欲しい物があったら言ってよ。」


「わかった。」


そして二人は私が熟睡できるようにと、自分たちの部屋に戻って行った。


私は一人になったベッドの上で寝転びながら今までの事を思い出していた。


…この数年で本当にいろんなことがあった。


数年前ただの女子中学生だった私は、あるとき芸能事務所にスカウトされて、いきなりCMに出る事になったのだった。そのCMで話題となり高校生になってすぐに、ドラマでヒロインの友達役として出させてもらった。それからはなぜかとんとん拍子に映画が決まり、主役がもらえるまでになってしまったのだ。そして映画のインタビューを受けるために行ったホテルで、ゾンビ騒ぎに巻き込まれて今に至る。


あのときあゆみに電話がつながらなければ、死んでいただろう。今回の官邸への回収作業でそのことを思いだす事となった。私の命の恩人であるあゆみ、そして遠藤さんと栞さん、彼らには本当に感謝していた。


しかし私は女優として成功する夢を無くした。


いまは唯一自分の息子だけが私の生きる希望だった。


普段は一緒に寝ているはずの息子を、麻衣さんにあずかってもらっている。この前の事故で憔悴した私は、集中して休むように言われているからだ。華江先生とあずさ先生もワクチン研究に集中するために、子供をみんなに預けていた。


「はあ。」


私はため息をついた。


「遠藤さん。」


ぽつりとつぶやく。


死に直面して私の意識が変わった。


とにかく無性に彼に抱かれたかった。彼の命を私に吹き込んでほしい衝動に駆られる、実はあの後で華江先生と話した時に、彼女もそうだと言っていた。


華江先生との話…


私は昨日話した内容を思い出していた。


華江先生曰く


「命の危険を感じて生存本能が強く働いているせいよ。当然の反応だからおかしくはないわ。彼の遺伝子を体内に入れたい、そして生命の安全を確保したい。そう私達が本能で思っているの。」


先生から聞いて私はその通りだと思った。その本能が更に自分の心理に強く働きかけており、私の遠藤さんへの愛情は燃え上がるほどになっている。この感情は私と華江先生だけではなく、あずさ先生も愛奈さんも感じているようだった。


「いまごろ…。」


愛菜さんは遠藤さんの受精を願って愛し合っている頃だった。


それがとても羨ましい。私も今すぐに抱いて欲しかった。彼の子供を宿したかった。


菜子様や吉永さんにはまだその意識は無いのかもしれない。実際に彼に抱かれて子を宿せば分かる。愛奈さんはまだ先で良いと言っていたと思うが、急にその考え方を変えた。菜子様を含めた皇居で救出した10人もそのうち分かる。


ゾンビを滅ぼす遺伝子。


まるで映画のよう。そしてその映画で私はわき役だった。主役は優美さん。彼女は遠藤さんの心を射止めて正妻の座についている。彼女自身は正妻と言う感覚はなく、彼をサポートできればいいと思っているようだ。


私は彼女のようにはなれない。


いま遠藤さんが愛奈さんを抱いていると考えると、狂おしいほど悲しい気持ちになってしまう。大人の女性たちのように割り切れなかった。


「シャワー浴びよう。」


私はシャワールームに行き、服を脱ぎ捨てて熱いシャワーを浴び始めた。


シャー


体を温めると少し気持ちが和らぐ。主役になれない自分…しかしこの時代を生きるためにはそんなことは重要ではなかった。


そして私は次の遠藤さんとの二人の時間を指折り数えて待つことになる。


「早く抱いて欲しい‥。」


シャワーを浴びながらつぶやいた。


さらに増えた人数を相手にするようになれば、更に自分の順番が遅くなってしまうだろう。


でも…それは皆が思う事だ。人数が増えれば増えるだけ彼との触れ合いは減ってしまう。自分もいつまでも最年少と言う立場に甘えるわけにはいかない。次の彼との時間には最大限に頑張って喜ばせようと思うのだった。


生き残るために。

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