第156話 脱出の手がかり
ベキン!
ドアの碁盤の目のようになっている一部からは折れたゾンビの腕が、その隣の板の部分が外れかけていた。どうやらもう一体のゾンビが押し込んできているらしい。
ベギン!
「破られる。」
吉永さんがモップで抑え込んでいたドアのもう一部が取れた。するとそこからゾンビの頭が入り込んで来た。腕じゃなく気持ちの悪い腐った頭が顔を上げようとする。
パン!
菜子様が至近距離からゾンビの頭を打つと、ゾンビの頭は動かなくなってしまった。どうやらやっつけたらしい。
「よし!どうやらゾンビが詰まったらしいわ。」
吉永さんが言う。
「とにかくこの状態を維持しましょう。」
あずさ先生が言った。
恐らく死んだゾンビの、(死んだと言っても既に死んでいるのだが)後ろからゾンビが押しているようで、もそもそと穴から突っこんで動かなくなったゾンビが動く。
「あちら側にもバリケードが出来たようなものね。」
「ええ。」
とにかくドアの向こう側にはゾンビがいるものの、詰まってしまって入り込めないでいるようだった。そんなとき私が周りを見ているとある事に気が付いた。どうやら窓の上の方に小さな換気扇のような丸いプラスチックの部分があったのだ。
「見てください!」
「あれ、換気扇かしら。」
華江先生が言う。
「そうじゃないですかね?」
「何か乗る台のようなものが無いでしょうか?」
愛菜さんが言う。
「いまバリケードで全部使っているから、乗れるものはないわね。」
「あの、私を肩車できますか?」
私が愛奈さんに言う。
「やってみる。でも私ひとりじゃ里奈ちゃんを支えられないかも。」
「じゃあバリケードは3人で押さえましょう。吉永さんお願いできますか?」
「なら私が土台になるわ。愛奈さんが支えてくださる? 」
「分かりました。」
吉永さんがバリケードを押さえるのをやめて、こちらに来る。
「それじゃあ、しゃがむので里奈さんがまたがって。」
「すみません。」
しゃがみ込んだ吉永さんにまたがって、愛菜さんが私のお尻を押して立ち上がる。
「と、届きました!」
「外せるかしら!」
「やってみます。」
私が換気扇のような部分の円形のプラスチックを両手でつかんで引っ張る。するとプラスチックカバーのようなものが外れた。中を見てみるとそれは換気扇ではなかった。
「すみません。換気扇ではないようです。」
「何があるの?」
「監視カメラでした。」
「監視カメラ…。」
吉永さんがしゃがんで私を下ろした。
「この部屋ずいぶん徹底しているのね。」
「重要機密が隠されているんだわ。」
吉永さんと華江先生が言う。
ガン!
ガン!
ドアから何かが打ち付けられるような音がした。
すると首を突っ込んで死んだゾンビがズルリと抜け落ちる。
「あ!」
すると向こう側からゾンビの目がのぞいた。後ろから何度も押したおかげで詰まったゾンビが落ちてしまったようだった。塞がった穴が広がったおかげでゾンビは私達をみつけたようだった。私達を確認したゾンビはつかみかかる勢いでまた穴から腕を突っ込んで来た。
「さっきより力が強いみたい!」
ドアとバリケードごとぐらりぐらりと揺れて来た。
バギン
「ど、ドアが壊れた!」
ドアの上部が少し曲がってこちら側に折れてきそうだった。2カ所の板が壊れたおかげで弱ってしまったらしい。吉永さんがモップで必死にドアを押さえていた。
「このままでは時間の問題だわ。」
吉永さんが言う。
「でもどうすれば!」
「突破するしかないんじゃないかしら?」
「でも吉永!向こうにどれくらいゾンビがいるかわからないのよ。」
「しかし菜子様!このままでは!」
吉永さんと菜子様が良い争いを始めると、皆が蒼白になり何をすべきか分からなくなってしまったようだ。
「とにかく、銃を!銃は3丁あります!それを構えて1体ずつ倒していきましょう。」
吉永さんが言う。
「でも!」
「やるしかありません!」
菜子様と吉永さんのやり取りを聞きつつ私は震えていた。既に渡された銃も思うように握れない。
「里奈ちゃん!貸して!」
それを見かねた、あずさ先生が私から銃を取り上げる。
「合図をしたら一斉にドアから離れましょう!」
「はい!」
「3、2、1!」
みんなでドアを押さえていたバリケードから離れて後ろに下がる。
ゴン
ドン
バキ
バリケードを離れてもすぐにゾンビがなだれ込んでくる事は無さそうだった。私たちはただ息を呑んでドアの方を向いている。菜子様と吉永さん、あずさ先生が銃を構えていた。
「ドアが。」
ガギ
どうやらドアノブが壊れてしまったようだ。木で出来た部分が破損して薄っすらドアが押される。
「開いちゃう。」
私が言うと皆に緊張が走った。
ガン
しかし…
ドアがいきなり開くことはなかった。テーブルやロッカーなどが置いてあるのでそうそう入ってくる事が出来ないらしい。吉永さんがそろりそろりとドアに近づいて行く。
「吉永!何を。」
「1体でも入ってきたら撃ちます。至近距離の方が当たりやすいですから。」
吉永さんがドアの前に立って私たちは後ろで見ていた。
ズッ
ほんの少しだけドアが開いた。
グッ
吉永さんの腕に力が入る。
ズッ
また少しドアが押されると、その隙間からゾンビの体が見えた。
ズズッ
更に押された。既に5センチくらいの隙間が空いている。
パン!
吉永さんが銃を撃つと、見えていたゾンビの眉間に弾丸が吸い込まれて倒れていく。
「私の銃は弾が無くなりました。」
吉永さんが言う。
するとあずささんが吉永さんに近づいて自分が持っていたオートの銃を渡す。
「すみません。私は撃ったことが無いので。」
「いえ、助かります。」
吉永さんはそのオートの銃を構えてまたドアに向かう。
ズズ
更に5センチほど開くと、体をねじ込ませるように1体のゾンビが入ってこようとする。
パン!
ドサ。
「皆さん!この状態でバリケードを押さえてください!」
吉永さんが言う。
みんなは慌ててバリケードの方に行き5人で押さえ始めた。
「1体ずつ仕留めます。」
「「「「「はい!」」」」」
5人でバリケードを押さえこれ以上ドアが開かないようにする。
吉永さんが集中してドアの外を狙うのだった。




