第152話 ゾンビに囲まれる
通路の奥に進み角を曲がるとその奥に1体のゾンビがいた。
「わ!」
つい声を上げてしまった。
その声に気が付いてこちらに振り向いて向かって来るが、動きが襲い。どうやら体が腐ってしまい筋力が衰えているようだった。
「ボウガンを!」
吉永さんの指示で愛奈さんとあずさ先生がボウガンを撃つ。愛菜さんの矢が胸に刺さりあずさ先生のが目に刺さった。しかし動きを止めることなく近づいて来た。
「華江先生!」
華江先生がゾンビの顔に向けてボウガンを放つと口から入って、首の後ろから抜けたようだ。すると吉永さんがゾンビに向かって走り出して蹴り飛ばす。
ドサ!
ゾンビは仰向けに倒れたが、それでも吉永さんの足を掴もうと手を伸ばして来た。吉永さんがゾンビの腐った首辺りをおもいきり踏みつけると、首がちぎれて皮だけでつながり手足が動かなくなる。目と口だけをパクパクさせているが追撃は出来なくなったようだ。
ドス
そこにボウガンの矢を装填したあずさ先生が来て眉間に一発撃ちこんだ。
「ふう。」
吉永さんが息を吐く。
「すみません。」
「いえ、命中させただけでも凄いと思いますわ。」
あやまる愛菜さんに向かって吉永さんが言う。
「吉永!急ぎましょう。この先です。」
「はい。」
そして更に通路を奥に進む。通路には扉が数か所ありその先に目的の部屋があった。
みんなが扉の前に立って後ろを振り向くと、さっき階段の向こう側に居たゾンビがゆっくりと角を曲がってこっちに向かうところだった。
「き、きた!」
「おちついてください。」
吉永さんに言われる。
「いいですか?部屋に入りますよ。」
「はい。」
みんなが頷く。
「3,2,1」
吉永さんが扉をおもいきり開けて銃を構えて中に入った。
パンパン!
銃声が2発。
パンパン!
更に2発。
「入って!」
通路の向こうから追いかけて来たゾンビは、まだ距離があった。
動きは遅そうだ。
「反対側からも!」
逆方向を見ると更に数体のゾンビが音を聞きつけて向かってきているようだった。
「早く!」
全員が急いでその部屋に入り込んでドアを閉めた。
「鍵を!」
ドアの鍵をかけてみんなが室内を見る。窓から薄明かりが射しこんでいて床には2体のゾンビが転がっていた。
「えっ!」
「まさか!」
「そんな!」
何と眉間に穴をあけて床に転がっているゾンビの1体は、日本の総理大臣の田敷首相だった。腐ってはいるが間違いなくその顔をしていた。更にそばに転がっていた女のゾンビはファーストレディその人だった。
「残念です。」
菜子様が言う。
「菜子様!この部屋に情報が?」
華江先生が慌てた様子で菜子様に聞く。
「その奥です。そこに機密の部屋があるはず。」
窓から陽が射す奥にもう一枚のドアがあった。そこに近づいて吉永さんがドアノブを回す。
ガチャガチャ!
「鍵がかかってますね。」
「この部屋のどこかにあるのでは?」
「探しましょう。」
ドン
ドン
どうやら先ほどのゾンビ達がドアの向こうでぶつかっているようだった。鍵がかかっているのでひとまず入ってくる事は無いだろう。私たちはそのまま鍵探しを続けた。
「どこにもないですね。」
「そうですね。」
壁やデスクの机を見て回るがどこにも鍵が無かった。
「もしかしたら‥‥。」
私がつぶやく。
「何か気が付きましたか?」
菜子様が聞いて来る。
「総理が肌身離さず持っているとしたら?」
「あ、その可能性が大きいですね。」
吉永さんが総理の死体に近づいてしゃがみ込みポケットなどを探す。一通り探すが見当たらないようだった。すると華江先生が近寄って汚れたワイシャツの胸元のボタンを空ける。
「あったわ。」
どうやら胸にストラップでぶら下げていたようだった。
「まるでゲームね。」
あずさ先生が私の緊張をほぐすために声をかけてくれた。
「本当ですね…。」
吉永さんがそのカギを取って、奥の部屋のドアの鍵穴に差し込んだ。
ガシャン
開いた。
「開けますよ。」
ガチャ
ギィ
どうやら鍵が開いたらしい。吉永さんが中をのぞいてみんなに言う。
「こちらの部屋には何もいません。」
その声に誘われて皆が隣の部屋に移った。その部屋は無機質な雰囲気の研究室のような場所だった。PCやアタッシュケースなどが置かれている。
「鉛のケースが数個置いてあるわ。」
華江先生が近づいてケースを開けようとするが、ダイヤル式ロックがかかっていて開かなかった。
「開きませんか?」
吉永さんが聞く。
「そのようです。」
「どうしましょう?」
「恐らくこの状態で保管されているのであれば、遠藤さんの近くに持って行っても開けなければ大丈夫です。」
華江先生が言う。
「では運び出しますか?」
「全て運び出したいです。パソコンも全て。」
「わかりました。」
そんなやり取りをしている時だった。
バギン!
隣の部屋から物音が聞こえて来た。
「!?」
皆が驚いて息を呑んだ。吉永さんが急いで部屋のドアに向かって隣の部屋を覗く。
「え‥‥。」
吉永さんが絶句している。
バタン!
慌てて隣の部屋と繋がるドアを閉めた。
「数体います!」
「どこからきたの!?」
「まずは落ち着いてください!」
流石の吉永さんも少し動揺したようだった。
ゾンビがなだれ込んできて、私達はその研究室のようなところに閉じ込められてしまったのだった。
「他に出口は無いようですね。」
「とにかくここの資料やPC、そしてこのアタッシュケースを全て運び出さないといけません。」
華江先生が言う。
「しかし状況はだいぶ危険になりました。ここは一度ひいて建て直しを。」
吉永さんが言う。
ドン
ドン
どうやらこの部屋のドアにまでゾンビが迫ってきたようだった。
「何体いたんです?」
「それが…10体は居たと思います。」
全員の顔が青くなった。
「吉永。私とあなたの銃で残弾はどのくらいあるかしら。」
「わたくしのが2発、菜子様のが6発でしょうか。」
「足りないですね。」
私達はいきなり窮地に立たされてしまったのだった。