第151話 首相官邸でゾンビに会う
私達はエントランスにある階段で二階にあがる。二階にも光が射しており懐中電灯が無くても歩けそうだった。
官邸に車で突入した私たちは、そのまま階段をあがり更に奥の通路に侵入する事になった。
前を歩く菜子様と吉永さんが銃を持って奥のドアに向かって歩いて行く。
「では開けます」
私は懐中電灯を灯して彼女らの後ろにいた。他の皆はボウガンを持っていた。
てきぱきと動く勇ましいプリンセスに我々は圧倒されていた。
ガシャ
スー
扉を開けた先は少し薄暗かったが、向こう側にも窓があるらしく見渡す事が出来た。
「何もいません。」
吉永さんが言いながらスッと先に進む。無造作に入っていくのが凄いと思う。
「大丈夫です。」
吉永さんに言われてみんなが先に進む。官邸内はとてもきれいだった、ずっと人の手は入っていないと思うが、何かが侵入したような形跡もなかった。
「恐らく検体やデータがあるのは4階です。」
菜子様が言う。
「ではいきましょう。」
華江先生が言う。
「エレベータは動きませんから階段で行く事になります。」
「はい。」
「里奈ちゃん大丈夫?」
「大丈夫です。」
あずさ先生が声をかけてくれる。どうやら私は震えていたようだった。声をかけられるまでそれに気が付かなかった。
二階は静かであの特有のにおいがしない。ゾンビがいるならあの腐ったような匂いがするはずだった。
「奥にも階段がありました。」
「登りましょう。」
銃を持った吉永さんが階段の上の階を注意しながら上がっていく。もう一人銃を持っている菜子様は一番後ろを歩いていた。
「里奈さん。後ろは大丈夫ですよ私が注意してみてますから。」
菜子様は自分の地位など関係なく気遣いをしてくれている人らしかった。
「菜子様、大丈夫です。私は何度もこうして来ましたから慣れています。」
「わかりました。注意して進みましょう。」
「はい。」
そのまま階段を3階まで登っていくが、階段を登りきる前に吉永さんが止まる。
「どうしたんですか?」
「しっ!」
皆に緊張が走る。先頭の吉永さんが何かを感じ取ったらしい。
パタ
ペタ
変な足音が聞こえる。
これは…ここにいるみんなが知っている。遠藤さんと巡り合う前に恐怖したあの足音だ。
ゾンビの足音。
「3階には何体いるか分かりません。」
吉永さんが小声で言う。すると菜子様が先頭にきて小さい声で言う。
「吉永、銃の弾数も限りがあります。ここはやり過ごしましょう。」
「はい。では皆さん音を立てずにいきましょう。」
吉永さんが階段出口から覗き込んでじっと見ていた。
「一人づつ。」
「はい。」
「菜子様どうぞ。」
手で合図をされ、銃を持っている菜子様が先に4階に続く階段を上り踊り場で待つ。
「次…まってください…。はい里奈さんどうぞ。」
私が足早に踊り場の菜子さんの所に行く。
「里奈さん。大丈夫ですよ。」
菜子様は落ち着いて私に声をかけてくれる。不思議と心が落ち着いた。
ゾンビに気づかれず全員が3階から4階に続く階段の踊り場に集まった。
「皆さんまずは落ち着きましょう。息を整えてください。」
吉永さんが私たちに小声で声をかける。
「里奈さん大丈夫ですか?」
「はい。」
「華江先生は?」
「大丈夫です。」
「愛菜さんは?」
「はい。」
「あずさ先生はどうです?」
「問題ないです。」
吉永さんがひとりひとりの目を見て冷静かどうかを確認しているようだ。
「では進みます。」
吉永さんがまた先に階段を上っていく。
今までになかったタイプの人だ。こんなに冷静に判断できる人は私達の仲間には居ないかもしれない。おかげでこちらが冷静になれた。
「4階にもいますね。」
4階の出口でも吉永さんは足を止めて確認していた。
みんなが息を呑んでその場に止まる。
「見渡せる廊下には2体、服装からはSPの成れの果てでしょうか?やはりこの階に重要な何かがあるかと思われます。」
「ゾンビですよね。」
「間違いありません。」
「強行突破するんですか?」
「いえ、見えているだけで2体が体を揺らして立っていますが、音がすれば奥から更に出てくる可能性があります。」
「部屋の場所は分かります。」
菜子様が言う。
「それはどちらです?」
「出て左の奥です。」
「ならば右のゾンビが向こうを向いているタイミングで出ましょう。追いかけて来るタイミングもズレれば対応がしやすくなります。なるべく足音を立てないように進みましょう。」
吉永さんがみんなに指示を出した。
「では部屋の位置が分かる菜子様が先頭に、あずさ先生と愛奈さんはボウガンを構えてください。いざとなったら私が護衛しますのでご心配なく。」
吉永さんは力強くいった。
「では、いきます。‥‥いまです。」
菜子様が吉永さんに言われたように足音もなくスッと廊下にでた。あまりにも無造作に出たので一瞬あっけにとられたが後について私たちも付いて行く。愛奈さんとあずさ先生が菜子様の両隣にいてボウガンを構えていた。
すると目の前のゾンビがこっちに気が付いて振り向く。
「ウッ」
私が思わず声を立ててしまう。
しかし体がだいぶ腐ってしまっているようで、動きは鈍かった。
「愛菜さん。」
吉永さんが冷静に指示をする。
愛菜さんの放ったボウガンは見事に目の前のゾンビに刺さる。
「後ろのゾンビも気が付きましたね。」
私達が後ろを振り向くと向こうに居たゾンビがゆっくりとこっちに向かって歩いてきていた。
「ボウガンで倒しますか?」
「いえ、あの歩く速度では私たちの方が早い。まだ放っておきましょう。愛奈さんは背中に背負った予備の矢を装填しておいてください。」
「はい。」
「さすが上手ですね。」
吉永さんが愛奈さんに言う。不思議と安心する声だった。
「こっちです。」
菜子様はさっさと奥に進んでいく。
冷静な二人に促されて、私たちも通路の奥へと進んでいくのだった。
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