第150話 首相官邸に突入せよ
私達はグループを作って首相官邸に来ていた。
ここにワクチンの秘密が隠されているらしい。いったいどんな秘密なのか…
そしてもしかすると、一番最初に感染した人の検体があるかもしれない、という情報を菜子様から聞いてそれを採取するために計画を立てた。
4つの方向に遠藤さん、そして栞さんの息子、そして麻衣さんの息子、そして私の息子が官邸から1キロ先をカーナビで計算してギリギリに配置されている。それぞれの子供を車に乗せ、一人が面倒をみて一人が車を運転するのだ。
本来なら私が息子の面倒をみる安全な役回りだったのだが、私は志願して官邸に乗り込むことにした。私の息子は友達のあゆみに預けて潜入する。
「里奈。私が行くのに…。」
「ううん、あゆみ。私このところ遠征や探索に駆り出されてるでしょ。だからだいぶ慣れてきたんだ。出来れば慣れている人が良いと思うから私行って来る。」
私はあゆみに決心を伝える。
官邸に侵入するメンバーは、華江先生、菜子様、付き人の吉永さん、愛奈さん、あずさ先生、そして私だった。実は官邸に侵入する前に菜子様の案内で、赤阪御所に隣接された派出所に行って武器を入手したのだった。拳銃は2丁あり付き人の吉永さんと、実は海外で実弾射撃の経験のある菜子様が持つ。
「菜子様が実弾射撃経験があるのは意外でした。」
私が言う。
「もちろん報道はされていませんが、海外で実弾射撃をしたことがあるんです。」
「それはどうして?」
「あまり公に言えなかったのですが…観光です。」
私達は唖然とした。まさか菜子様にそんな趣味がおありだとは。
「でも実際にゾンビを撃ったことはありません。中にいればちゃんと当てれるかどうか心配です。」
「とにかく慎重に行きましょう。」
官邸を中心に遠藤さんとその遺伝子を持つ子達を配置しているので、官邸までは1体もゾンビは居なかった。ここでも遠藤さんの細胞の効果が見られる。
私達は裏の車の侵入口から内部に侵入した。簡易なバリケードがあったのでそれを避けて入る。
官邸の入り口について菜子様と吉永さんが銃を構えた。
「では、開けます。」
愛菜さんがドアの隙間に指を入れて言う。
「はい。」
「はい。」
緊張が走った。
「あ、すみません。開きません。」
愛菜さんが言うと、一瞬緊張がほどける。
「じゃあ割って入るしかないですね。」
菜子様が言う。
首相官邸はガラス張りになっているので割る事になった。
「でもどうやって? 」
あずさ先生が菜子様に聞く。
「私に考えがあります。一旦車に戻りましょう。」
菜子様が言う。
私達は菜子様が何かを考えているらしいのでいったん車に戻った。
「私が運転しても良いですか?」
吉永さんが言う。
「どうぞ。」
愛菜さんが自動ロックを解除して車のドアを開ける。
「では。」
キキキキ
みんなが乗り込んだのを確認して吉永さんが車の発進させる。すると簡易バリケードの方に車の前方を向けた。
「えっ?」
吉永さんは一気にバリケードの方に車を走らせる。
《うそ!》
すると車はバリケードの丁度、境目の所にめがけて一直線に進んでいくのだった。
「ぶつかる!」
あずさ先生が叫ぶ。
しかし吉永さんは車のスピードを緩める事はなかった。
ガシャーン
バリケードがねじ曲がって内部に押し込まれた。吉永さんは車をいったん止めてバックし始めた。
キキキキキキキ
一気にバリケードに向かって突進し始める。
ガシャーン
バリケードは大きな音を立てて車が通れそうな隙間を空けた。車はそのままそこを突っ切って内部に侵入していく。
すると縁石を乗り越えてそのまま官邸の前の方にまっしぐらに突き進んでいくのだった。
「きゃあぁぁぁ」
「わぁぁぁぁ」
私と華江が思いっきり叫んだ。
吉永さん。実はおとなしそうに見えて物凄い事をやる人だった。
「吉永!そのままガラスに!」
「はい!」
菜子様の指示で吉永さんはそのまま官邸のガラス面に車を突っ込ませた。
ガッシャアアアアン
ガラスはおもいきり割れて砕け散り、車は無事?官邸内に侵入する事が出来たのだった。
シュ――――
RV車のボンネット付近から湯気が出ている。
「すみません。車が壊れました。」
吉永さんが謝る。
「いえ、無事に入れました!さすがは皇室の方ですね。」
「ええ、訓練を受けてますので。」
どうやら吉永さんは菜子様のSPらしかった。
「では、降りましょうか…。」
菜子様が言う。
「はい。」
みんなに緊張が走った。ガラス張りの外側から見る限りゾンビは見えなかったが、どこに潜んでいるか分からなかったからだ。
「ではこっちです。」
どうやら菜子様はその場所を知っているようだった。
「知っているんですか?」
「はい、ホットラインが繋がっていた時におじい様から聞きました。」
「上皇様から?」
「はい。」
次から次へと意外な人の名前があがってくる。
「ここからは危険です。皆で固まっていきましょう。私と吉永が前を行きますのでついてきてください。」
拳銃を持つ二人が前を歩くことになった。
私達はプリンセスに守られながら官邸内に侵入していく。
「ガラス張りなので光が入りますね。」
「はい。ただ扉の向こうは暗いかもしれませんので、皆様の懐中電灯が頼りになります。」
「わかりました。」
頼もしい二人だと思った。普段からこういった有事に対して学んでいたのかもしれない。
彼女たちが生き残れた理由を垣間見たのだった。