第15話 クリスマスイブ ー長尾栞編ー
唯人君とは水族館デートの後1度映画を見に行った。
でもそれっきり・・会っていない。
もう12月22日・・
もうすぐクリスマスだというのに何も連絡が無い。
私が誘わないと唯人君からは誘ってこない。
「しおりん、なんか唯人君連絡してこないね。」
「そうなのよ。彼は私の事を本当にただの友達だと思っている気がするの。」
「えーっと、私もそれは否定できないわ。だってクリスマスよ!誘うでしょ男なら。」
だよなあ・・・いくら消極的だって言ってもさすがにこれはどういうことだろう?
「私は、なっちゃんと一緒にクリスマス出来るからいいんだけどさ!」
「うれしいけど・・せっかく恋が進展するチャンスだっていうのにもったいないよ。」
「進展かあ・・進展するのかも怪しくなってきて。」
「映画の後でしおりんから手を握ったりしたんだよね。」
「もちろんよ!勇気を出して恋人つなぎしたわよ!」
「いやぁ・・普通はもう少し積極的になるはず・・」
「私としてはあと何をしたらいいのか分からなくてさあ。彼とはSNSで普通に話をしているんだけど積極的に誘ってはこないんだ。」
「よし!しおりん!確かめよう!きっとなにか訳ありかもしれないわ。」
「えっ?確かめるとかいってもどうしたらいいのか分からないし」
「仕方ないからクリスマスはこっちから誘おう!しおりんから誘ってイブに真意を確かめよう。」
「え・・どうかな?大丈夫かな?」
「放っておいたらダメな男よ。たぶん・・」
「わかった!まずはこっちから誘ってみるわ!」
スマホを取り出してすぐに唯人君にSNSで連絡をしてみる。
-こんばんわ。唯人君24日は空いてますか?
直ぐにSNSの返事が返ってきた
空いてるよ-
するとなっちゃんが脇から話をはさんできた。
「おいおい!空いてんじゃねぇか!!!」
「ほんとだ・・」
「空いてんなら誘って来いよ!」
「まったくだわ・・」
-クリスマスイブだし出来たら会おうよ?
いいよ-
-何する?
じゃあご飯でも食べに行こう-
-わかったー、じゃあ24日の夕方待ち合わせしよう。
駅前のファストフードで待ってるよ-
-OK
結局簡単に約束は出来た。というか唯人君のスケジュールは空いていた・・ということはなんだ?一人でいる予定だったんだろうか?私と一緒にいようとか思わなかったんだろうか?
「しおりん・・唯人君なーんかあっさりしてんねぇ・・」
「そうでしょ!会うと楽しいんだけどあっさりしてて、さらりと帰っちゃうの。」
「当日は少しあざといを通り越してだいぶ仕掛けていこう。」
「し・・仕掛ける?」
「もう化粧もいつものナチュラルメイクじゃなくて結構盛っちゃおうよ。フェイクファーのコート着てって脱いだら肩を出して行こう!」
「そ・・それは仕掛けすぎじゃない?」
「いや・・だめよ。唯人君の攻略は露骨なくらいでちょうどいいかもしれないわ。」
「でも・・私そんな服もってないわよ。」
「私の勝負服を貸すわ。」
「わかった!任せていい?」
「任せろ!」
二人でクリスマスイブに向けての作戦を立てていくのであった。
大学が冬休みに入った。
私が休みに入って早速の大きいイベントがクリスマスイブだった。
「さてと・・」
私は家を出て約束の町を歩いていた。
街の中はクリスマス一色であちらこちらにカップルがいる。
《リア充だ》
本来ならば今日デートもリア充の仲間なはずだった。
気になっていた男の人とふたりでご飯をたべるのだから、どこをどう切り取ってもリア充だ。しかし気分はリア充の気分ではなかった・・今日は彼の気持ちを確かめる日だ
私が・・友達なのか・・恋人候補なのか・・恋人なのかを
ファーストフードに行くと彼は既に待っていた。最初のデートで私の方が早く待っていたから、それからは凄く早く来て待っているようにしているようだった。
「ごめんなさい。唯人君待った?」
「いやいいんだよ。だって待ち合わせ時間よりまだ早いし」
「ううん。きっと早く来て待ってたんでしょ?」
「そんなでもないよ。じゃあ行こうか?」
二人でファーストフードを出て街を歩きだす。街は寒くて恋人たちは寄り添うように歩いていた。
私がわざと手袋を外して手を出している。しかし彼はそれを気づいてか気づかないのか?特に手を握ってくる気配はない。
「あの・・栞ちゃん。今日はなんだかとっても雰囲気が違うね。」
「まあクリスマスだし少しはおしゃれしてきたかな」
ニッコリと笑顔で唯人君を見つめる。しかし彼はすぐに目をそらしてしまった。
《ああやっぱりだ・・やっぱり友達なんだ。きっと仲の良い友達のひとりなんだ。でもなっちゃん!私は負けない!ここからよ!》
「唯人君!あの・・イルミネーション見に行かない?真っ青でね凄く綺麗なところがあるんだ。」
「あ、いいね。見てみたい。」
二人でイルミネーションの公園まで歩く。
「すっかりクリスマスだよー。これが終わったら今年も終わっちゃうんだ・・」
「そうだよね。夏から今日までが早かった気がする。」
「あっというまだったよね。」
「うん。」
真っ青な青の空洞と呼ばれるイルミネーション並木にやってきた。
「キレイ・・・」
思わず心の声がもれてしまった。はじめて見るたくさんのイルミネーションにうっとりしてしまった。
「ほんとだ・・綺麗だね。」
「なんだか別の世界にきたみたい。」
「歩いてみよう。」
すっと手が伸びてきて私の手を握りしめた。
《あれ?き・・来た!唯人君から来た!?きたぁぁぁ!》
沢山の恋人たちがイルミネーションを眺めて二人の時間を過ごしていた。
しばらくは無言であたりを眺めていた。すごく綺麗で・・それだけでロマンチックな気分が高まってくる。
《・・今日はハッキリさせなきゃならない。唯人君の気持ちを聞きたい》
「ここ恋人だらけだね?」
「そうだね。どこもかしこもカップルばかりだ。」
「私たちを見たらどう思うのかな?」
すると唯人君に沈黙があった。私には長い沈黙に感じた。
《なに!この沈黙!なんなの!》
「・・・やっぱり恋人に見えるだろうね。」
「いまの私たちってどういう関係なのかなぁ」
そんな事を聞いた。かなり思い切って聞いた。
今日は絶対に進展させる!彼の気持ちを必ず確認するんだ!
「俺・・あの日。あの日から・・」
「あの日?」
「暴漢に襲われたあの日。」
「うん。」
「悪い男からあんな怖い思いをさせられた栞ちゃんに、どう近づいたらいいか分かんなくなっちゃったんだ。」
唯人君はとても真剣な顔で私を見つめてきた。
「分かんなくなったの?」
「だって栞ちゃんはあんなに怖い思いをしたんだ、きっと男性恐怖症になってるだろうと思ってさ。周りの友達もそういうんだよ。」
「たしかに・・そういう部分もあると思うけど、でもそれなら唯人君とこんなに何回も会わないよ。」
「俺・・栞ちゃんが好きなんだ。だから傷つけたくなくて・・それだけで誘うのもためらっちゃって・・」
ぽろぽろぽろ
私の頬を涙が伝っていた。
《唯人君は私に興味が無いんじゃなくて、好きだから・・優しいから・・大事にしたいから素っ気なくしていたんだ。》
「えっ!えっ?ごめん栞ちゃん・・俺なにか傷つける事言ったかな?」
「ううん・・うれしいの。私も唯人君が好き。」
青のイルミネーションが光る公園にちらほらと雪が舞ってきた。
「あ・・雪・・」
「栞ちゃん・・」
「ん?」
唯人君を見ると、スッと唯人君の顔が近づいてきた。
唯人君の柔らかい唇が私の唇に重ねられた。
初キスだった・・・
私は瞳をとじるのだった。
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