第149話 ゾンビの恐怖
どうやら華江先生と菜子様は知り合いだった。お互いがお互いの顔を知っていた。
私達は二人を囲んでその話し合いを聞いていた。
「まさか菜子様が生きていらっしゃったなんて奇跡ですね。」
「このような場所で華江先生と再び会えるとは思いませんでした。」
二人は抱き合って再会を喜んでいるようだった。
「あの?先生?」
奈美恵さんが華江先生に聞く。
「ああ、ごめんなさいね。私が研究でアメリカの施設に行っていた時があるの。」
みんながうんうんと頷いて聞いている。
「それでそこに留学生として見学に来たのが、当時…。」
「はい!中学生の私です。」
「ああ、あの時は中学生だったんでしたか。」
「そうです。語学留学でアメリカに行った時ですね。」
「そうでしたね。それで私の研究所に見学にいらっしゃったんですよ。私が日本人という事もあって菜子様にたくさん話しかけられて。」
「はい、最先端で日本人の研究者にお会いするとは思ってもみませんでしたので、凄く嬉しかった記憶があります。」
「それで向こうにいる時はたまに研究所内のカフェでお茶をしたりしたわ。」
「懐かしいです。」
どうやら華江先生と菜子さんは師弟関係のような雰囲気の様だ。
「私が日本に帰って来てからはお会いできてなくて、雑誌などで大角先生を見かけてました。」
「それを言うなら、ここに居る全員がテレビで菜子様を見ていたと思いますよ。」
「俺はそうですね。よくテレビで見かけてました。」
「私もきれいな方だなあと思っていました。」
「人気のプリンセスですもんね。」
遠藤さんと麻衣さん、瞳マネが言う。
「それを言うならもう一人驚いた方がいましたよ。」
菜子様が言う。
「もう一人?」
華江先生が聞く。
「まさか女優の方がいらっしゃるとは思いませんでした。」
「あ、私ですか?でもまだまだ駆け出しでしたので。」
「いえいえ。映画もされてましたよね?」
「はい。初主演映画のインタビューでホテルに行った時にあのゾンビ騒ぎに巻き込まれたんです。」
「本当に、これからでしたのに。」
瞳マネが残念そうに言う。
「でもこれからどんな生存者がいるか分かりません。日本の復興が可能であれば何とか実現したいです。」
菜子様はものすごい理想が高く、意識も高い人だった。私はそれに気圧されてしまう。
「いつかそうなるとうれしいです。」
私はその世界が来ないと思いつつもそう答えた。
「必ず実現させましょう。」
ニッコリ微笑んで菜子様が言う。
しかし…現実はそんなことにはならないと思うのだった。
「大角先生。」
「華江で良いですわよ。」
「えっとじゃあ華江先生。官邸には繋いでみましたか?」
「いえ。研究していたころ途中までは繋がっていたのだけれど、ある日を境に切れてしまったわ。」
「それから連絡をとろうとしたことは?」
「ネットと電話では。ただゾンビの世界になり直接行った事はありません。」
「それならば!そして大角先生、いえ華江先生ならばきっと何かの手がかりになるかと思うものが。」
「え?手がかり。」
「恐らく日本で一番最初に感染したであろう人の検体です。」
「!?」
先生が驚いていた。
「え、官邸にそんなものが?」
「やはり聞いていませんでしたか。官邸の関係者と皇室だけがその秘密を知っていました。」
「私は聞いていませんでした。」
「そうなのですね?」
「はい。」
私達には何がそんなに驚く事なのかが分からなかった。
「先生どういうことなのですか?」
遠藤さんが聞く。
「ええ。恐らく今のゾンビウイルスは変異に変異が重なりすぎて生まれた、超変異ウイルスなの。だけど最初はそういうウイルスじゃなかった。官邸にはゾンビウイルスに変異する前の1番最初の検体があるという事よ。」
「それがあるとどうなんですか?」
「私が知りたかった情報がたくさん知れると思うわね。」
「知りたかった情報?」
「ええ正確には消えてしまった情報がそこにはある。それがあれば…。」
「それがあれば…?」
「ワクチンが完成するかもしれないわ。」
「本当ですか!?」
みんなが驚いていた。どうやら今まで華江先生が分からなかった秘密がそこにあるらしい。
「ではそこに回収部隊をやったらどうでしょう!?」
遠藤さんが言う。
すると華江先生の表情が少し曇った。
「どうしたんです?」
「遠藤君や子供たちが行けば下手をすると消滅する可能性があるわ。」
「え!」
「ゾンビの中を遠藤君の遺伝子無しに、取りに行かなければならないという事よ。」
「そんな…。」
私達はその困難さが痛いほどわかる。私たちは何もできずにホテルの一室に閉じ込められた。武器も持たずには行く事は出来ない。
すると栞さんが言う。
「スタンドアロンのカーナビを元に、官邸の周り1キロの範囲を遠藤さんと子供達で囲めばいいのではないでしょうか?」
「なるほど…。だとすれば官邸の中だけ何とかゾンビをしのげば行けるのか。」
「しかし武器が。」
すると菜子様が言う。
「SPの事務所に銃があると思います。赤阪御所に行って見ませんか?」
「そこには武器が?」
「はい、あと周りには24時間の警察の詰め所もありました。」
「なるほど。そこには武器がある可能性が高いですね。」
遠藤さんが言う。
「はい。ですから何とか武器を調達して官邸内で、研究データを入手すればよいのではないでしょうか?」
「そうね。充電したPCを持っていけばある程度の情報を持ってこれる可能性があるわ。あとは検体なのだけど。」
「そればかりは状態がどうなっているのか?」
「私の研究所と同じように鉛のケースに入っていると持ち出せるんだけど。」
「それを確認する為にもいって見なくてはいけませんね。」
「そうですね。」
菜子様が来た事で一気に事が動きそうだった。しかしゾンビがいるかもしれない官邸に侵入しなければならない。
私達は一気に緊張しだすのだった。