第145話 皇居に侵入
私達はさらに皇居の奥に向かって歩いて行く。
私達が移住先を田舎に設定したとしても、当面の農作物の栽培などが出来ないかを確認するためだ。
「初めて入ります。」
私が言う。
「私だってそうよ。」
栞さんも答えた。
「何言ってるの?私達全員これ以上は入った事はないわよ。」
あずさ先生が言う。
私達は皇居の更に奥にあるはずの、宮内庁の畑を探して進む。
「ニュースで見たんですよね。」
「私も見た事ある。」
未華さんと愛奈さんが言う。
「きっと荒れ果てているでしょうね。」
遠藤さんが言う。
「そうね。」
「しかし都心なのにこんな手付かずの自然があるんですねぇ。」
私が言う。
「手の入った山林よりよっぽど原生林に近いみたいに思うね。」
「これだけ自然があるなら農作物の栽培も可能だと思う。雨が降るだろうから何とかならないかしらね。」
「やはり水質調査をして華江先生にウイルスが含まれているかどうかを調べてもらいますか。」
「そうしましょう。」
田舎への移住先を見つけるにしろ簡単に拠点を変える事は出来ない。今はこの周辺でどうしても農作物を栽培する必要がある。
いずれ破綻するかもしれないが、お堀の水が使えるならまだ数ヵ月は持つかもしれない。
「ビニールハウスとかの知識とかある人いないわよね。」
「たぶん今のグループには居なそうです。」
あずさ先生と栞さんが言う。
とにかく進むのだがここが本当に東京なのかと言うくらい手付かずの自然が多かった。ここならゾンビも人間もいないのではないかと思えた。
「木の実とか無いですかね?」
私が言う。
「どうかしらね。食べれるものがあるかどうか…」
「確かロシアでは松ぼっくりをジャムのようにして食べたような気がします。」
「作り方知ってる?」
「いえ。」
私がクイズ番組か何かに出演した時に聞いたのだが、忘れてしまった。確か砂糖漬けのような物だったような気がする。
「とにかく木や草が凄くて進むの辛いですね。」
遠藤さんが言う。
「どこに畑があるのかしら?」
とその時だった。建物らしきものが見えたような気がした。
「えっと、建物があるような気がします。」
「どっち?」
「向こうです。」
私が言う。
そっちの方に向かって歩いて行くと…
「あった!建物です。」
「本当ね。」
そして私たちが雑木林から出た時に目の前に広がった物は…
「えっ?」
「これって…」
「ちょ、ちょっと慎重に行きましょう。」
「森に!」
私達は一旦森に潜んだ。
それは…
目の前に人の手が入った畑が広がったからだった。
「これは。」
「ええ、人がいるわね。」
みんなに緊張が走る。ボウガンを構えて様子を見る。
「でも今は人がいないみたい。」
「もしかしたら建物から見張っているかもしれない。」
遠藤さんが警戒している。
「建物の方に回って様子を見た方が良くないですか?」
愛菜さんが言う。
「森の中を歩きましょう。まだ恐らく気が付いていないんじゃないでしょうか?」
「そうね。」
私達はまた草木が生い茂った森の中を建物に向かって歩くことにする。
「生存者ですよね…。」
「まちがいないわ。」
私達が建物を回るように森を囲んでいく。
「ここから建物が見えます。」
遠藤さんが言う。
「俺が木に登って確認してみます。」
遠藤さんがするすると木を登って行った。
私達は息をひそめて森の中に身を隠す。
暫くすると遠藤さんが木を降りてきた。
「人がいました。」
「え?何人くらい?」
「それがよくわかりません。」
「どんな人?」
「カーテンのそばを横切った感じでは女の人ですね。」
どうやら女の人が生き残っているようだった。
「どうします?」
遠藤さんがあずさ先生に言う。
「また発砲されたらたまった物じゃないわね。」
「危険かどうか決まった訳じゃないですけどね。」
「とにかく畑を維持しているという事は、何らかの手段で水も確保しているという事ね。」
「そうなりますね。」
私はふとあのレイプ男の事を思い出してしまい震えてしまう。
「里奈ちゃん。大丈夫よ!今はみんながいるわ。」
「は、はい。」
「でもどうしたものかしらね。」
あずさ先生も悩んでいた。
「畑は欲しいですが、もし石油コンビナートのような事があると厄介ですね。」
「遠藤君の言うとおりね。」
「とにかく出直しましょう。」
「その方が良いわね。」
私達はまた森の中を進んで建物から離れ始めるのだった。