第139話 備えて一夜を過ごす
有名大学の総合病院を視察したあと、今度は海岸沿いのコンビナートに向かっていた。
自分達が住んでいる都市側のそばにも製油所はあったが、こちら側は数か所に大手の製油所がある。
「エネルギーがある場所が人が潜んでいる可能性があるという事でしたよね。」
私が言う。
「うん。俺もその可能性が高いと思う。」
「その場合食料とかはどうしてるでしょうかね?」
「確かに。千葉市まで食料調達に行くにはゾンビは危険よね?」
あずさ先生が言う。
「製油所内のゾンビが掃討できていれば自給自足の可能性もあります。」
未華さんが言った。
高校生の里奈ちゃんはそれほど想像がつかないのか黙って外を眺めていた。国道を走ると道端にはいろんな工場の敷地が出てきた。道沿いには木々が植えられて芝生なども見える。
「あの夜、ここはそれほど車が通っていなかったみたい。」
「確かに。でも事故の後で車をどかしたようなところもありますね。」
「この車が散乱した場所を車で通ったという事かしら?」
「じゃないですかね?」
ゾンビがうろつく街を車で逃亡した人などがいたのかもしれない。パンデミックを起こしていたあの風邪のような症状から一気に男の人がゾンビになった夜。それでも命がけで逃げようとした人がいっぱいいたのだろう。
「だとしたらコンビナートに逃げ込んだ可能性はあるんじゃない?」
「確かにそうですね。」
するとずっと黙っていた里奈ちゃんが口を開いた。
「あ!なんか煙が上がっているみたいです。」
キキ―
愛奈さんが車を停めた。
「どこ?」
「あそこです。」
車の進行方向にして左斜め前方の数キロ先で確かに煙が上がっているように見える。
「本当だ。煙?ですよね。」
「そう見えるわね。」
「どうします?」
「もうすぐ夕暮れよね。」
「ですね。」
そして私たちはその場所にとどまりどうするかを考える事にした。
しばらく話をした後である作戦が決まる。
・ガソリンスタンドを探して私たちが乗って来たRV車を満タンにする。
・朝まで車とキャンピングガーの中で過ごす。
・朝になったら動けそうなバスを探す。
・乗り捨てられたバスにガソリンか軽油が詰まっているかを確かめる。
・バッテリーが上がっていればケーブルでつないでエンジンをかける。
・遠藤さんとあずささんと私3人でひろったバスで偵察をしに行く。
・危険があると判断したら逃げて合流する。
・救出が必要な人がいるならバスに乗せて来る。
これだけ安全策を取れば大丈夫という事になった。
「じゃあとにかくガソリンスタンドを探しましょう。」
そして私たちの乗ったRV車とキャンピングカーは街中を移動し始める。するとガソリンスタンドが見つかった、工場地帯という事もあって給油が必要な車がたくさんあるのだろう。
「じゃあ動くか確認ですね。」
「ええ。」
遠藤さんと設備管理に詳しい未華さんがガススタに入っていく。
「ここは震災対応サービスステーションです。発電機がありますので動かします!」
未華さんが言うと、中で何かをしたようで灯りのついていないスタンドの電光掲示板がつく。
「動きました!」
「それじゃあガソリンを詰めましょう。」
私達の拠点から半径10キロ程度にあるガススタは全て発電機を置いているのだが、遠方に来た時はなるべく震災対応サービスステーションを探す事にした。発電機はなるべく温存する為だった。
グーングーン
ガソリンがつめられていく。
「満タンです。」
「よし、じゃあ近隣のスーパーか問屋を探しましょう。」
「ああそれなら先ほど業務用スーパーの看板を見ましたよ。」
流石遠藤さん。すでにスーパーを確認済みだったらしい。
「では向かいましょう。」
そして私たちはスーパーに向かった。住宅街に入るとやはり荒廃していてあちこちに壊れた車が置いてある。
スーパーに到着すると駐車場にも車が氾濫していた。
「きっとゾンビがうようよしてたのよね。」
「そうだと思います。」
「遠藤さんが来たから全部消えちゃったとは思うけど十分注意しましょう。」
あずさ先生の掛け声で皆に緊張が走る。
スーパーの入り口はやはり開いていた。電源が入っていない為うまく開かないが力いっぱい引くと人が通れるほどに開いた。
「あきました。」
「中は暗いわね。」
「ここは仕方がないので、懐中電灯で固まっていきましょう。」
「ええ。」
6人が固まってカートを引きながらスーパーの中に入っていく。小窓からの明かりで全くの真っ暗というわけではないが、懐中電灯が無いと商品が分からないので電灯で照らしながら探す。
「やはり死臭がするわね。」
「ゾンビがいたんですね。」
里奈ちゃんが緊張気味に言う。
「缶詰と飲み水があればできるだけ確保しましょう。」
いつものように手際よくみんなが食料を回収した。食べられそうな飴なども全て回収する。
「このくらいでいいでしょう。回収が目的ではなく緊急時の為の食料です。」
「そうね。」
それでもカートに3台分の缶詰や水を確保した。
車に戻るが何も動いた形跡はなかった。
「では人が集まらなそうな場所を見つけてそこで一夜を過ごしましょう。」
「はい。」
そう。普通はゾンビの世界なので人を探すのだろうが、私たちは人間も危険な可能性があると考えて人気のない所を探した。
少し見通しの良い畑や荒れ地のような場所があり、そこに通っている農道を見つけた。
「ここならどこから何かが来ても逃げる事が出来ます。十字路に停めて二人が見張り、3時間交代で夜を過ごしましょう。」
遠藤さんがいつも通り冷静に指示を出すと皆が頷いた。
そして夜になり、見張りを立てながらキャンピングカーの中で回収した缶詰などを食べ始める。見張りは運転席に一人とキャンピングカーの後部の窓から外を見張る。
「腐ってはいないわね。」
あずささんが言う。
「ですね。しかしいつもながら遠藤さんの業務用スーパーセンサーは凄いです。」
「ふふ。そうね業務用スーパーセンサー。栞さんもうまいこと言うわね。」
「だって本当に凄いんですもの。」
「確かに。」
そんな人気のない静かな場所で一夜を過ごして朝が来た。
皆もこういう場合に体を休める事には慣れているものの、初の数日間の遠征の緊張で眠れないようだった。
少し疲れた表情で動くバスを探しに出発するのだった。
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