第138話 新天地調査隊
ヒグマを食べようかという話にもなっていたのだが、細菌などの問題もある為に死体を焼くことになった。
木を集めてヒグマを置いてガソリンをかけて火をつけた。
ゴオオオオ
勢いよくクマが燃えていく。
「そもそも野生動物を狩って食べるなんて無理だったのかもしれませんよね。」
「まあそうかもね。」
あずさ先生が答える。
「動物がゾンビを食べたらどうなるんでしょう?」
「そうよね。ゾンビに噛まれる事はあってもゾンビを噛んだらどうなるのかしらね?」
「やはりゾンビになる?」
「でも動物のゾンビって見たことないのよね。」
「人間しかゾンビにならないと?」
「そうとも限らないと思うけど、動物によって感染る感染らないがあると思うわ。」
「まあヒグマはゾンビを噛まないような気もしますけどね。」
私とあずさ先生が焼かれるクマのそばで話していると遠藤さんが来た。
「町にカラスもネズミもいなくなりましたよね?もしかしたらゾンビ化しちゃうものもいて、消えてるとかないですかね?」
「もちろんそれもあると思うけど、動物を捕まえて華江先生に実験をしてもらわないと分からないわ。」
「なるほど。動物実験をするには動物を捕まえてウイルスを注射し、専用施設で検証していかなければならないですもんね。」
「現実的じゃないわね。」
私達は野生のシカなどを捕まえて食べようとしていたのだが、何も調べないで食べるとか無謀だったかもしれない。おそらくは全員の生存に対する焦りだ。
火が消えても熊は焼死体となって残っていた。
「丸焼きみたいになってしまいましたね。」
「そうね。」
「ガソリンならもっとよく燃えると思ったんだけど。」
「焼きが足りないんでしょうね。」
「このまま放置したらゾンビとかにならないですかね?」
「ゾンビになってくれた方が俺達としては好都合だと思う。」
「消えますしね。」
そしてみんなで考えた結果、以前レイプ男を埋葬したお寺に埋めようという事になった。
きっと熊も成仏してくれると思う。
そんな出来事があってから野生動物を食料として狩る作戦は無くなった。今後はやはり残った保存食や栽培中の野菜などでしのぐことになった。
「この前の熊の件で思ったんですが。」
私が華江先生に話す。
「なにかしら。」
「このままだと数年後に食糧事情がひっ迫するという話でしたよね。」
「そうね。」
「やはり自然の多い場所で自給自足を考えるべき時なのかもしれないなと。」
「やはりそうよね。研究施設から離れるのは厳しいけど生きるにはそうするしかないかもね。」
私と華江先生が話していると、あずさ先生が言う。
「先生。やはり期限を決めるしかないのでは?」
「そうよね。」
先生は届きそうで届かない、ゾンビウイルスワクチン開発が気になるようだった。
すると梨美ちゃんが言う。
「あの。それでしたらその研究所の器具も含めて引っ越したらいいのではないでしょうか?」
「培養中の細胞や冷蔵している物も含めて?」
「はい。バッテリーをかき集めて車の充電も含めて。」
梨美ちゃんの意見を聞いて愛奈さんが言う。
「それならばバッテリーが十分にもつ範囲の距離を考えないといけないわね。首都圏外がどうなっているか分からない以上、無事に戻ってこれる事も考えて。」
「とにかく時間を掛けて移住先を探すのが先ですね。」
遠藤さんが言う。
そのとおりだった。やみくもに走って場所を探すわけにはいかない。自給自足できそうな畑や住む場所があり、程よく研究施設に最適な建築物がある所でないといけない。
「おそらく他県に行く事になりそうね。」
未華さんが言う。
「そうですね。」
「いま妊娠している人達の出産も待った方がいいのではないですか?」
「安全を考えるなら間違いなくそうだわ。」
「計画を立案して早速行動に移るしかなさそうね。」
華江先生が決心したようだ。
それから決まった事は
移住先を探す事 これは遠藤さんが必ず含まれるようにする。子供達では体調不良等の不測の事態に対応できないためだ。さらに移住先候補を探すには日数を要する為、準備を万全にしていかなければならない。食料やキャンピングカーの調達などが必要だった。
移住するまでの期間は数ヶ月は要する事 それまでに華江先生の研究を極力進めるため、医療従事者どちらかの回収作業を免除する事。
移住先候補を選定している時に発見した生存者対策として、医療従事者のどちらかは必ず同行する。
まずはそんなところだ。
食料の調達や回収作業は継続しなければならないため、かなり忙しくなりそうだった。
みんなのこころの準備を含め数週間期間を、行動予定の計画と準備にあてる事になった。
移住先を探すメンバーとなったのは
遠藤さん ゾンビ対策 リーダー
私(栞) 子供が乳幼児ではなく母親の母乳を必要としない。
あずさ先生 生存者対策 子供が乳幼児ではない。
未華さん 乳幼児を抱えているが、施設の確認に必要不可欠なため。
里奈ちゃん 子供はまだまだ手離れしないが、最年少2名からくじ引きで決まる
愛菜さん まだ子供が出来ていないのと大型の車を動かすのに必要なため。
残るメンバーは研究のため2人、妊婦が4人、回収班が5人だ。
「近頼みんなを守ってね。」
正妻の優美さんか遠藤さんに声をかけている。
「ああ、最善を尽くすさ。」
「里奈。無事に戻ってきて頂戴。」
瞳さんが里奈ちゃんに言う。
「里奈ごめんね。でも本当にいいの?私が行こうか?」
「瞳マネもあゆみも心配しすぎ、あゆみもクジで決まったんだからいいんだよ。私なら大丈夫!てか遠藤さんと一緒じゃないみんなの方が心配だよ。」
「私達なら心配しないで。」
「そうだよ。里奈の未来君は守るからね。」
里奈ちゃんの息子は未来と言う名前だった。
「任せた。未来と離れるのが一番辛いかな。」
「だよね。」
「とにかく気をつけて。」
「はーい。」
里奈ちゃんも不安じゃないと言ったら嘘になるだろうが、明るく振る舞って心配かけさせまいとしている。
「未華が居ないと施設が探せない。辛い役どころだけど、無事に帰ってくると信じてるわ。」
翼さんが言う。
「ええわかってる。翼に子供を任せるわ。必ず見つけて帰ってくる。」
「うん。頑張って!」
「うん。」
そして今度は行く側の愛菜さんがみなみ先輩に声をかけている。
「みなみちゃん。あなたがこの中で一番身体能力が高いわ。とにかくみんなの事をよろしくね。」
「わかっています。愛菜さんも皆を守るほうの立場かもですが、無理だけはしないでください。」
「わかったわ。」
「トレーニング仲間が居ないと張り合いが無いですから、必ず戻って来てくださいね。」
「また一緒に筋トレしましょ。」
「はい。」
そして華江先生が言う。
「あずささん。生存者がいたらお願い。」
「もちろんです。もしかしたら第二の遠藤君に会えるかもしれないですしね。」
「ええ、それも充分にあり得るわ。」
「先生も研究のほうよろしくお願いします。」
「頑張るとしか言いようがないけど、最善を尽くすわ。」
「先生がお手上げなら、どのみち人間に未来は無いと思ってます。だから願っています。」
「ええ。」
2人は力強く頷く。
「しおりん…。」
「なっちゃん。」
「唯人くんは任せて。とにかく無理はしないで、無事に帰って来てくれなきゃやだよ。」
なっちゃんの目に涙が溢れる。
「ほらほらお腹にさわるよ。泣かないで。」
「うん、ごめんね。離れて辛いのは栞なのにね。」
「誰かがやらなきゃ進めないから。」
「うんうん。」
「なっちゃん泣かないで。私は必ず帰ってくるからね。」
「わかってる。絶対ね。」
「うん。」
みんなが別れをすませて旅立ちの時が来た。
みんなで最初に目指す事になったのは、お隣の千葉県だった。
港もあるし畑もある。栄えた町もあるのでバランスが良いのでは?と言う選出理由だ。
私達が乗るのは新車のランチローバーと大きなキャンピングカーだった。長丁場に備えてかなりの物資を詰め込んでいた。
「では行ってきます。」
私達を乗せて車は走り出すのだった。