第136話 秘密兵器を使う時
みんなでゲームの罠や武器を見て研究した。さらに本屋で罠の作り方なる物を見つけて参考にする。
「ホームセンターで取って来た物でとにかく作ってみましょう。」
あずさ先生の陣頭指揮の元で罠を作り始めた。
私達は杭や有刺鉄線など様々なものを活用して、まずはホテルの周囲を侵入しずらくした。
知恵のある人間ならば車の中を通ったり下をくぐったりすれば通って来れるが、大型の動物は簡単には入って来れないだろう。
更に畑を猪や鹿から守る電気網を入手して、有刺鉄線の内側に張り巡らせる。
「やっぱり結構な広さですね。」
私が言う。
「全体は無理だけど、動物が通りそうな所は一通り通れなくしたわ。」
「そうですね。」
「とにかく通電したら外に出る時は一度電源を切るように。」
「はい。」
皆が頷いた。
「次に捕獲用の罠をもってきます。」
遠藤さんがクレーン付きのトラックである物を持ってきた。
ピーピーピーピー
バックしてくる。
「これを見つけたわ。」
あずさ先生に言われ見てみると、トラックの荷台に乗っていたものはなんと檻だった。
「これを設置して猛獣や動物を捕獲します。」
最初に造った網の罠など比べ物にならないほど本格的なものだった。
「これならうまくいきそうですね。」
沙織さんが言う。
「ええ。とにかく危険な動物を駆除するか捕獲しないと危険だし。近づいて来た時用にこの罠に餌を仕掛けておけばいいんじゃない?」
あずさ先生が言うと皆が感嘆の声を上げる。
「おおー!」
「なんかすごい。」
私達の近くにはゾンビが来ることは無い。しかし生きた野生動物は違う、彼らには遠藤さんの能力は何も通用しないのだった。
何日も何日もかけてホテルの周りは罠だらけになった。
「これでホテルの安全はある程度確保されましたね。」
「そうね。」
私と優美さんが感心しながらホテルの周りを見ていた。
「ここまで有刺鉄線や電気網を設置すれば、日中は外で運動なんかも出来るんじゃないかしら?」
みなみ先輩が言う。
「確かにそうですね。車のバリケードも何重にもなってますしね。」
梨美ちゃんが答えた。
「子供たちを遊ばせるのにもいいかもね。」
あずさ先生が言う。
「まあ今の小さいうちはね。子供が大きくなって走り出したら危ないわ。」
麻衣さんが不安そうに言う。
「その時はその時考えましょう。」
瞳さんが言った。
みんなそれぞれ考え方が違う。まとまってやってこれたのは遠藤さんがいるからだった。
ある日私達が外で作業をしながら話をしていた。
天気も良くポカポカ陽気で本当にゾンビの世界なの?と思ってしまうほどだった。
ホテルの方から声がした。
「きた!きました!」
あゆみちゃんの声だった。
私達ははしごを使って近くのバスの屋根に上った。もちろん有刺鉄線と電気網に囲まれた中なのですぐには襲われないはずだった。
「本当だ!」
するとホテルの上の階から見ていた人たちが下まで降りて来た。
「ようやくここを突き止めたって感じかしら。」
「でもよくあの傷で生きてましたよね?」
「とにかく刺激しないようにしましょう。」
遠藤さんが放ったボウガンの矢が刺さったクマがいた。
私達の声に誘われたのかこっちを見てはいるが近づく気配はない。
ただ…涎をたらして物凄く怒っている感じがする。
「怒ってるわね。」
「まああんな傷を負わせてしまいましたからね。」
すると熊がこっちに走って来た。
「えっ!」
「ホテルに入りましょう!」
「早く!」
私達がバスの屋根の上から降りてホテルに走り出す。皆がホテルに入ったのを確認して鍵を閉めた。
「1階からじゃ見えないわね。」
「2階に上がりましょう。」
みんなで2階のトレーニングジムに行く。
トレーニングジムは前面がすべて窓ガラスになっており外がよく見えた。
クマがこちらをじっと見ている。
「子供たちは上よね?」
「ええ、華江先生や夏希ちゃん翼ちゃん達が見てるはずです。」
私達が話をしていると部屋に遠藤さんが入って来た。
「どんな感じです?」
「あれ以上は近づいてこないです。」
ヒグマは有刺鉄線の前あたりまで来たがそれ以上は近づいてこないようだった。手負いだがこちらを警戒もしているらしい。
「まだ生きてるんですね。」
「はい。あれから数日たつんですがよく生きてますね。」
「致命傷じゃないって事だよ。」
「どうしましょう。」
私が聞く。
「立ち去るのを待つか、追い払うか捕獲するかのどれかだろう。」
「捕獲ですか?」
「あちこちに檻の罠を仕掛けているからそれに反応してくれれば。」
「仕掛けたエサに食いついてくれればいいんですけどね。」
そして私達と熊とのにらめっこは1時間ほど続いた。
「あそこにいると、回収などで外に出ることが出来ませんよね?」
沙織さんが言う。
「放っておけば死なないですかね?」
里奈ちゃんが言う。
「いや俺が思うに、ここまで生き延びてきたのは人間の食料だけじゃなく、野生動物を食べたりしてたんだと思うんだよ。」
「はい。」
「結局今は俺達が狙われているわけだけど、腹が減ったらどこかに行って食うんじゃないかな?」
「その時が出るチャンスと?」
「ああ。だけど物凄く危険だよね。」
「そうよね。」
あずさ先生が言う。
私達はゾンビの群れに襲われないという凄い能力を持ちながら、1匹のヒグマに対応できないという脆さを持っている事に気が付いた。
「やっぱり武器よね。」
あずさ先生が言う。
「はい。散弾銃や狩猟用の銃があればいいんですけどね。」
遠藤さんが言った。
「ない物は仕方がないわ。まずは私達が作った武器でやってみましょう。」
「あの栞ちゃんが考えたマシンですね。」
「そう、あれが通用すればいいんだけど。」
「はい。」
私が考案したクマ対策の秘密兵器を使う時が来たのだった。