第135話 猛獣から生き延びる
ヒグマを振り払ってホテルに戻った。
私達が血相変えて戻って来ると迎えに出た皆が驚いていた。
「どうしたの!」
華江先生が駆け寄ってくる。
「あの、あの。」
里奈ちゃんが震えながらへたり込む。
「とにかく上に!」
みんなをエレベーターに乗せて麻衣さんが上階のボタンを押した。
食堂代わりのレストランについてみんなに水が配られる。
ゴクゴクゴクゴク
「プッハァ!」
遠藤さんが思いっきり息を吐く。
「熊です。ヒグマがいたんです!」
「ヒグマ!?」
「そうです!生きたヒグマがいました!俺達を襲ってきたんです。」
「そんな猛獣がいたなんて。」
「いままで鹿とかは見た事があったんですが、まさかヒグマがいるとは思いませんでした。」
「そんな…」
みんなが信じられないと言った顔をしている。ゾンビには慣れていても生きた猛獣には驚くらしい。
「外は危険ね。」
「恐らくは動物園から逃げて来たんだと思います。」
「ここからそう遠く無いところに大きい動物園があったわね。」
「どうやって檻を出たんでしょう。」
「確かにそうよね。そしてこの都会で何年も生きて来た事になるわね。」
「熊はなんでも食べますからね。」
「人間が食料にしている物も食べられるという事かしら。」
「はい。」
「スーパーなどはさらに危険かもしれない。」
私たちはみなそれを心の中で想像して青くなる。
「それでヒグマはどうしたの?」
「俺が目にボウガンの矢を刺して振りきってきました。」
「手負いということかしら?」
「そうなります。」
皆がシーンと静かになる。手負いのヒグマが生きていてこの町を徘徊しているという事実に背筋が凍る。
《ここにあるのはボウガンやスリングショットだけ。それではヒグマを仕留める事は出来ない。》
「とにかく外に出る時は注意しないといけないわね。」
皆が頷いた。
まさか数年もたって肉食動物がこの都会を徘徊しているとは思わなかった。
私達が外に行くときは十分に気をつけなければならない。
「怪我は?」
「私が腕を少し切りました。」
私が腕を見せると華江先生が治療してくれた。
「擦り傷程度でよかったわ。」
「しおりんー!大丈夫?」
なっちゃんがこの話を聞きつけて部屋から降りて来たのだった。
なっちゃんのお腹はだいぶ目立つようになっており、歩くのがしんどそうだが慌てて駆けつけてくれたらしい。
「なっちゃん!怖かったよーヒグマがいたんだよ!」
「ヒグマ!」
「そう。皆で必死に逃げてきたのよ。」
「本当に無事でよかった。」
とにかくみんなが無事で何よりだった。ひとまず気を落ち着かせてみんながそれぞれ部屋に戻っていく。
いつもと変わらないホテルの廊下を、部屋に戻る途中で保育室専用にした部屋に立ち寄る。
コンコン!
ドアが開く。
「栞ちゃん。大変だったね!」
麻衣さんが唯人を抱いて連れてきてくれた。
「まんま。おかーり。」
「唯人ーただいま!」
私は唯人をぎゅっと抱きしめた。無事で帰って来れて本当によかった。
「栞ちゃん怪我したの?」
包帯が巻かれて腕を見て言う。
「かすり傷です。車のガラスが割れて切れました。」
「怖かったよね!」
「はい怖かったです!」
麻衣さんが私の頭をポンポンと撫でてくれる。
そして私は唯人を連れてなっちゃんと一緒に自分の部屋に戻るのだった。
「やっと部屋に戻って来たー。」
「よかったよぉ。しおりんに何かあったら生きていけないよう。」
なっちゃんがすこし涙目になりながら言うのだった。
そしてその夜に少し遅いご飯を取る事になり全員がレストランに集まる。
小さい子が8人もいるので割とにぎやかだった。お母さんがそれぞれ自分の子をベルトがついた子供イスに座らせる。
「こんなに子供がいるのに、ヒグマになんてやられたら大変だわ。」
あずさ先生が自分の子に離乳食を食べさせながら言う。
「お父さんとお母さんを一緒に失う事になる子もいるわよ。」
華江先生が言う。
そのとおりだった。遠藤さんや子供を産んだ人たちがあそこで死んでいたらこの子達は孤児になる。
「ただこの子たちは全員が私達の子だからね。誰に何があっても皆が責任を持って育てる事になっているから。」
瞳さんが言う。
「はい。今日はそれを痛感しました。」
私が言った。
「とにかくゾンビや人間以外にも脅威があるということが分かったわね。」
「はい。」
「この周辺に動物が入り込まないようにする仕掛けがいりますね?」
「そのとおりだわ。次の回収の時に罠の回収を行いましょう。」
「そうですね。」
「テレビで電気網とか見たことがありますよ。」
「大きなホームセンターとかを回ってみましょう。」
「はい。」
子供達がいるので食卓はワイワイとにぎやかになる。あんなに怖い事があっても子供たちのお世話をしていると忘れられた。
「あと今の武器じゃ心もとないです。」
「銃砲店かあ。」
「ええ何とか探しだしたいですね。」
「でもゾンビと戦うのに店がもぬけの殻になっている可能性もあるわよ。」
「そうですね。探すのもリスクがあるか…。」
すると里奈ちゃんが言う。
「あのゲームの話ですが。」
「なあに?」
「動物をハンティングするのに罠を仕掛けるようなのがあるんですよ。それなんか参考になるんじゃないでしょうか?」
皆がその意見を聞いてハッとした顔をする。
「それ行けるかも。」
「そうね、ホームセンターの物で作れるかもしれないわね。」
「それを念頭に入れて次の回収に探してみましょう!」
「じゃあご飯が終わったらみんなでゲームを見て見ましょう。」
「はい。」
皆が頷くのだった。
新作も書き始めました!↓
終末ゾンビと最強勇者の青春
https://ncode.syosetu.com/n3418ij/
ただいまジャンル別、月間四位になりました!




