第134話 ヒグマの恐ろしさ
私達は車の中から身動きが取れなくなってしまった。
まだ路地の向こうにはヒグマがウロウロしている。しかし私達から目を話す事は無かった。
「あれって何してるんですかね?」
私が言う。
「私達を狙ってるんじゃないかしら?」
「でも近寄ってきませんよね?」
「たぶんさっき体当たりして来たから、警戒してるんじゃないですかね?」
愛奈さんが言う。
「でもこのままじゃあ車から出れませんね。」
「クラクション鳴らしたら逃げませんかね?」
奈美恵さんが言う。
「どうかしら?鳴らしてみましょ。」
プップー
ヒグマは一瞬ビクッとしたが怯むことはなかった。
「逃げませんね。」
「ええ。」
奈美恵さんとあずさ先生が言う。
ヒグマは座り込んでしまった。座ってこっちを睨んでいた。
「どう考えても狙ってますね。」
「はい。」
「どうやって逃げましょう。」
遠藤さんが言う。
「外に出たら危ないわ。」
「待っていたらいなくなるかもしれないです。」
里奈ちゃんが言う。
皆がそれに賭けてみようかという話になって、車の中でじっと息をひそめてヒグマとにらめっこする事になった。
それから30分くらいたった時のそりとヒグマが立ち上がった。
「たちましたね。」
「立ったわね。」
次の瞬間だった、ヒグマがこちらに向かって思いっきり走って来た。
「こっち来た!」
「わあ!」
「どうしよう!」
「皆さん落ち着いて!」
遠藤さんの声でみんなが静かになる。
ヒグマが私たちのところまで来て車をバンバン叩き始めた。
「きゃぁぁ!」
「ええ!」
「凄い力!」
「ボウガン持ってますか!」
「はい遠藤さん!持ってます。」
「貸してください!」
遠藤さんはボウガンを手にしてじっとヒグマを見ていた。するとヒグマはのしのしと車の脇にやって来た。
皆が車の反対側に寄る。
「いやぁ!」
「ど、どうしましょう!!」
「ちょっと!」
ヒグマは車をゆさゆさと揺らし始めた。
「きゃあぁぁぁ」
「まずいわ!」
「に、逃げましょうか?」
「いや!出たら危険です。チャンスをうかがいましょう。」
するとヒグマがガラスに手をかけた瞬間だった。
パン!
ヒグマの恐ろしいパワーにガラスが粉々になったのだった。
「きゃぁぁぁぁ」
「うわぁ!」
遠藤さんが顔を入れてきたクマに向けて至近距離からボウガンを撃った。
スコン!
ガァァァァァァ
熊がのけぞって暴れていた。
「目に刺さりました!逃げましょう!」
皆が大慌てで反対側のドアから降り、さっきまで罠をかけていた場所に向かって走り出した。そちらにはもう一台の車があったからだ。
「熊は!」
「まだ車の所で暴れてます!」
愛奈さんが言う。
「たぶん目に刺さりました!それでもがいてるんだと思います!」
遠藤さんが言う。
「死なないんだ。」
里奈ちゃんが言った。
「とにかく愛奈さんが乗ってた車に!」
走って大通りに出る。罠をかけていた場所が見えてきて皆が息をきらしながら走り続けた。
「きっ!来た!」
後ろを振り向くと、細い路地から目から矢を突き出したヒグマがのっそりと出てきた。
「振り向かないで!」
「い、息が。」
「頑張って!」
「はあはあ。」
車まであと50メートルと言うところで、遠藤さんが言う。
「熊が走ってきました!」
「しつこい!」
しかし何とかクマに追いつかれる事なくみんなが車にたどり着いたのだった。
恐らく車の体当たりと目に刺さった矢でクマの走るのが遅くなっているためだ。
チュチュチュ
ブーン
「かかった!」
皆が一気にRV車に駆けこんでドアを閉めた。
「つかまって!」
愛奈さんが叫ぶ。
キュルルルルルル
派手なスキール音を立てて車が急加速した。
ブオオオオオ
10メートルくらい走ったところで異変が起きた。
ガクン!
車が減速したのだった。
「うわ!」
「ど、どうしたの?」
車が止まってしまった理由。
そう…車は罠に繋がっていたためにひっかかったのだった。
「まずい!」
遠藤さんが言う。
そして私たちは熊の追いかけて来た方を見た。
が…
熊はどこにもいなくなっていた。
「熊がいません!」
「本当だ!?」
「逃げたんじゃないでしょうか?」
「まだ安心するのは早いです!」
皆がパニック気味に話している。愛奈さんは車を停めた。
「えっと!何かに車がひっかかったみたいです。」
「おそらく自分たちが仕掛けた罠に引っ張られているだけ。ロープを切れば動くはずだわ。」
「俺が!」
そう言って遠藤さんは外に出た。すると彼は呆然と車の横に立ち尽くした。
「どうしました!」
「遠藤君!」
「見てください!」
皆が窓から罠を見ると、空中で網に絡まりバタバタしている熊がいた。
「罠にかかったみたいです。」
「本当だ。」
「でもどうしましょう、罠を解いたらあれが落ちて来るわ。」
「その通りですね。」
車に罠が結びついているうちは問題ないだろうが、ロープを切れば罠が落ちて来る。
「このまま車を停めて、動く車を探しませんか?」
「ホテルまで走ったらどうかしら?」
「ここからだと3キロくらいあります。もし罠が壊れたらまずくないですか?」
皆が完全にパニックになっている。
すると遠藤さんが言うのだった。
「ロープを切ってそのまま車で逃げればよくないですか?」
その通りだ。
「でも太いロープにしちゃったから切れるかしら?」
あずさ先生が言う。
それもそうだった。ちょっとやそっとじゃ切れないように太いロープを用意したのだ。
ギシッ
熊が暴れるので罠の支点になっているところが曲がって来た。
「あれ。落ちないですかね?」
遠藤さんが言った瞬間。
ガギン
罠の支柱が折れて熊が落ちて来た。
ドサ!
しかし熊は網が絡んでじたばたしているらしかった。
「ヤバイ!」
皆がまた車に乗りこむ。
「動くみたいです!」
キュキュキュキュ
ブロロロロロロ
網に絡まったヒグマを引きずりながら車は走り出した。
「まだくっついてます!」
奈美恵さんが言う。
長いロープの先の網にかかったヒグマは、右に左に降られながらも引っ張られていた。
「なんであんなに頑丈に罠を作っちゃったんだろう。」
「頑丈じゃなきゃ罠にならないじゃあないですか!」
そして次の角を曲がった時だった。
ゴロゴロ
どうやらヒグマが網から抜け出たみたいだった。罠から解き放たれた熊は向こうの方へ走って行ってしまった。
「行きましたね…。」
「ええ。」
遠藤さんとあずさ先生が言う。
「あれ動物園の熊ですよね。」
「そうね。もしかしたら他にも猛獣が生きてたりするんじゃないかしら?」
「熊は雑食ですから。肉食ならもう死んでるんじゃないでしょうか?」
「かもしれないわね。」
とにかく皆命拾いした事に胸をなでおろす。
私は指が震えていた。
《怖かった…》
皆もどうやら震えているようだった。
「俺が運転代わります。」
震える愛奈さんを見かねて遠藤さんが運転を代わる。
車はまっすぐホテルに戻るのだった。
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終末ゾンビと最強勇者の青春
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