第132話 小さな怪獣たち
子供達はすでに8人となった。
女児が3人と男児が5人。
私の唯人は既に一人で歩き出した。
「まっま。」
「はいはい。ご飯を食べましょうね。」
ここには華江先生あずさ先生奈美恵さん瞳さんの子供がいる。すでにご飯を食べる子達だった。
「あーこらこら、落ちてるのは食べない。」
奈美恵さんがスッと手を出してご飯をひろい、そして子供にスプーンを渡す。
「ほらほら。こっちですよー。」
麻衣さんが女の子に食べさせる。
やはり麻衣さんは保育士さんだけあって手慣れていた。とても心強い。」
「唯人も好き嫌いしないで良い子ねー。」
私は唯人とあずさ先生の息子に食べさせている。
正直、保育の担当の日が一番きつかった。一日中戦場だと言っても過言ではない。保育士さんがいてくれて本当に良かった。
「あぶー。」
「ぱっぱ。」
「まんま。」
それぞれが好き勝手に食べているが、きっちり自分の持ち場の子供たちを見ておかないといけない。
「ほらほら。ごはんたべよ!」
華江先生の娘がご飯を食べながら寝始めた。
「あらあら。」
あゆみちゃんが寝てしまった子に声をかける。
「あゆみちゃん寝かせてしまっていいんじゃないかしら?」
麻衣さんが声がけをする。
「わかりました。」
口の周りと手を拭いてあげて華江先生の娘を抱き上げた。
「じゃあ、寝かせてきます。」
「はいいってらっしゃーい。」
奈美恵さんが言う。
1人抜けたことで一人分の面倒をプラスして麻衣さんが見ていた。
「やっぱり凄いわねー。保育士さんってスーパーマンだわ。」
「いえいえ。仕事の時はもっといっぱいいましたから。」
麻衣さんがニッコリ笑って言う。
「ぐすっ」
「ん?」
あずさ先生の子がぐずり始めた。
「んーどうしたのー。」
「うわーん。」
「あらあら。」
私はあずさ先生の子を抱き上げてポンポンする。
するとその鳴き声につられて瞳さんの子供も泣き始めてしまった。
「うわーん。」
「どうしたのー。もうお腹いっぱいかなー?」
麻衣さんが瞳さんの子供を抱き上げてチャイルドシートから床に下ろすと、トタトタと歩いて積み木の所に行ってしまった。
「そろそろ皆食べ終わったみたいね。」
するとあゆみちゃんが戻って来た。
「じゃあ私はこの子を寝かせてきます。」
「わかりましたー。」
そして私はベッドルームに行ってトントンしていると、軽く寝息を立て始めた。
「じゃあ…おやすみなさい。」
そっとつぶやいてベビーベッドから離れる。
それからしばらくご飯を食べ終わった子達が遊んでいたが、だんだんと眠くなってきたらしく一人ずつ寝かせてベビーベッドに連れて行く。
全員が眠ったところでようやく私たちの休憩がやって来た。
「ふう。」
私がため息をつく。
「正直このお仕事が一番大変です。」
あゆみちゃんが言う。
「あらそう?」
麻衣さんはそうでもなさそうだった。
「私もそんなでもないかな?」
奈美恵さんが言う。奈美恵さんも看護師で人の面倒を見慣れているだけあって貫禄があった。
「凄いですよ。でもなんていうかこんな世界に新しい命を育てるのって、物凄く充実しててうれしいです。なんか生きてるんだって感じられます。」
私が素直に感想を言った。
「本当ね。私もかな。」
麻衣さんもしみじみと言う。
「まあとにかく!私たちもご飯を済ませましょう!さっさとしないと怪獣たちが起きて来るわ。」
「ホントですね。」
「食べましょう食べましょう。」
子供の面倒を見る日は子供達から離れる事の無いように、すぐそばでご飯を食べる事になっている。すでに準備されているご飯をぱくつく。
「何年も経つとコメがパサつきますね。」
「本当だわ。古米と言うやつね…こんな時代に稲作なんてやってられないだろうから仕方ないけどね。」
「でも穀類の問屋さんにいっぱいあってよかったですよね。」
「ほんとほんと、ネズミにかじられた袋もあったけどコメは無事だったわ。」
「この人数ならまだしばらく持ちますしね。」
「あとは肉類よね。」
「はい。そればっかりはどうにもならない。」
そう。私たちは缶詰や真空のハムなどで動物性たんぱく質を取っていたが、新鮮な肉を食べていなかった。
「このあたりにも動物園から逃げて来たのか、よく分からない大型の猛獣が出始めましたよね?」
「ええ、だから外に出る時は気をつけないといけなくなったわ。」
そう、どうやら最近このあたりに野生動物が出没するようになったのだ。エサが無くなりカラスやネズミが減ったと思ったら、動物園から逃げて来たような物や野生の犬猫が出るようになった。
「スーパーが荒らされた形跡がありましたがアレ動物のしわざですよね?」
「まちがいないわね。人間があんな荒らし方するわけないもの。」
「だとお腹を空かせて危険という事ですね。」
「そう言う事になるわよね。」
そう最近だんだん野生の植物とかが町のあちこちに生えるようになり、動物が出没するようになったのだった。
外出する時にはボウガンやスリングショットを持ち歩くようになったのだ。
「あの野生動物…食べられますかね?」
私がポツリと言う。
「えっ…逆に?」
「どうかしら…」
「もし食べられるなら一度試してみてもいいと思いませんか?」
「そうだけど、ボウガンで仕留められるのかしら?」
「この間鹿がいましたよね?そっと近寄って仕留められないですかね?」
「やってみる価値はあるわね。」
奈美恵さんが乗り気だ。
「でも誰が捌くのかしら?」
「あっ!」
「うーん。」
動物を取っても解体できる人がいなかった。
「今度の会議で議題に出してみましょう。」
「そうですね。」
そんな話をしていると後ろから声が上がる。
「まっま。」
唯人だった。
「あらら起きちゃったわね。」
すると唯人の隣に寝ていた華江先生の娘も起き出した。
「さーてご飯も食べたし、午後の部行くわよー!」
「がんばりますかー!」
私達はまた小さい怪獣たちと忙しくも幸せな時間を過ごすのだった。




