第124話 無事に帰還する ー長尾栞編ー
3人の回復を待って出発する事となった。
なっちゃんとみなみ先輩と梨美ちゃんは、汚れた服を脱ぎ捨てて院にあった入院服を着る。
汚れた服を着続けるよりは良いだろうとあずさ先生の判断だった。
点滴が使える事が分かったので、梨美ちゃんは点滴をしたまま車に乗り込む。
車の天井にあるアシストグリップに点滴をぶら下げてそこに座った。
なっちゃんもみなみ先輩もまだ体力が戻っていないので、後ろの座席をリクライニングして寝ていてもらう事にする。
運転は麻衣さんがすることになった。
昨日はあずさ先生は夜通し看病していたような状態だったので、助手席で仮眠をとることにしたのだ。
私は唯人の側に座る。
「しばらくかかるから、なっちゃんもみなみ先輩も寝ていてください。」
私が言うと二人が返事をする。
「うん。」
「わかった・・」
そして車は出発した。
来た時と同じように町には特に変化がなかった。
ただ車が散乱していて荒廃した街が広がっているだけ。
しかし、私の気持ちは明るかった。
《だって・・なっちゃんが生きていたから。》
こんなにうれしい事は無かった。
私が生きる意味をさらに見出したような気がした。
「大きい車に乗ってきて正解ね。」
麻衣さんが言う。
「本当です。おかげで友達を助ける事が出来ました。何という偶然なんでしょうか・・」
「栞ちゃんは、本当にもってる人ね。」
「あずさ先生にも言われました。」
「そうふふふ。」
走り続けて私たちは拠点のホテルに到着した。
「ここが私たちが生活している所なの。」
「しおりんホテル暮らし?」
「ガスタービンで電源も供給されてるから安心なのよ。」
「すっごぉおい。」
「みんなも優しい人たちばかりだから、心配しなくていいよ。」
「緊張する。」
「大丈夫。」
プップップー
麻衣さんがクラクションを鳴らした。
するとホテルの玄関の方から遠藤さんを先頭に、華江先生あゆみちゃん瞳さんの順番に全員が出て来てくれた。
「大丈夫でしたか!?」
遠藤さんが開口一番言うとあずさ先生が答える。
「生存者が3人いるわ。でも栄養失調で体力が限界なの。皆で連れて行ってもらえると嬉しいわ。」
「わかりました!」
「ちょっと1階に設置している車いすを持ってきます。」
「バリケードのバスをバックさせますね。」
「私は左のバスを。」
何重にもなっている大型バスのバリケードをずらして、車いす用の通路を作ってくれた。
車いすが来たので3人を座らせる。
「みんな。座って。」
華江先生が3人を座らせる。
「すみません・・」
「ありがとうございます・・」
「お世話になります・・」
なっちゃんとみなみ先輩と梨美ちゃんは緊張の面持ちで車いすに座る。
「もう大丈夫よ。まずは体のメンテナンスからね。」
華江先生が声をかけると・・
「う・・うう・・」
「ぐすっぐすっ」
「ふっ・・くっ・ぐす」
3人とも泣き始めてしまった。
「大丈夫よ。私たちも皆救われたのよ。」
優美さんが声をかける。
私がみんなに彼女たちの事を教える。
「あの・・私の大学の友人達なんです。」
「えっ!!」
「すごい!」
「友達を助けたの!?」
「はい。」
皆が私を見て驚いている。
「とにかく行きましょう!3人を治療しないと!」
遠藤さんがみんなに声をかけた。
そして車いすと私達がバスのバリケードの間を進んでいくと、バスのバリケードはまた閉じ始めるのだった。
ホテルに入ると帰って来た実感に力が抜ける。
たった2日、昨日出たばかりなのに驚くほど疲労感があった。
「とにかくあずさ先生と麻衣さんと栞ちゃんもつかれたでしょう。お部屋に帰って休むといいわ。」
奈美恵さんが声をかけてくれる。
「栞ちゃん。唯人君は私が預かるからゆっくり休んで。」
瞳さんが唯人の面倒を見てくれるようだった。
ようやくぐっすりと眠る事が出来る。
「なっちゃん大丈夫だよ。華江先生や奈美恵さんや他の人たちに身をゆだねて休んで。」
「・・私たちほんとうにたすかったんだ。」
「そうだよ。なっちゃん本当にたすかったの。」
「ありがとう。しおりんありがとう・・」
「お礼なんていいよ。なっちゃん私の方こそ生きていてくれてありがとう。」
「うん、うん。」
なっちゃんは私の手を握りしめて泣く。
私は汚れたなっちゃんの髪をよしよししてあげるのだった。
「じゃあ急いで治療室に運びましょう。特にひどいのはあなたね・・」
「すみません・・」
「先生、彼女は心肺蘇生のさいに胸骨が折れたかもしれません。」
あずさ先生が報告する。
「わかったわ。」
「私は大丈夫でしょうか?」
梨美ちゃんが華江先生に聞く。
「大丈夫よ。私失敗しないから。」
「頼もしいです。」
そして3人はみんなに連れられて医務室へと連れていかれるのだった。
「生きてた・・」
なっちゃんが生きていた。
すごい。
エレベーターは4台起動していた。
車いすが1台ずつのエレベーターに乗せられて上がっていく。
私たちはもう一台に乗って居住区迄あがっていくのだった。
「とにかく休みましょうね・・」
あずさ先生が言うので私と麻衣さんはコクリと頷いてそれぞれの部屋に向かう。
自分の部屋に入って裸になり・・すぐにシャワールームへ入った。
この世界で外に行った時は必ず入るように言われているからだ。
シャーーー
お湯が出る幸せ。
これを早くなっちゃんにも味わってもらいたい。
「今度の回収の時には、なっちゃんたちが好きなものを探しに行こう。」
皆にそうお願いしようと思うのだった。
次話:第125話 4人でお風呂に入ろう。 ー長尾栞編ー