表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/199

第123話 子作りで生き残れる事を知る ー長尾栞編ー

朝になった。


私は何度か夜泣きする唯人に起こされたので少し眠かった。


さらにあずさ先生と私が交代で起きて、衰弱していたみんなの様子を見ていた。


「ふう。どうやら梨美さんは顔色が少し戻ったみたいね。」


目を覚ました梨美ちゃんにあずさ先生が声をかける。


「あの先生。胸が少し痛いです・・」


梨美ちゃんが答えた。


「ごめんなさい。心肺蘇生で、もしかしたら肋骨にひびが入ったかもしれないわ。」


「そうなんですね?とにかく命を助けてくださってありがとうございます。」


梨美ちゃんがホッとした表情を浮かべる。


「あの、ちょっとした食べ物があるのでどうぞ。」


私が言うと、なっちゃんとみなみ先輩が言う。


「えっと貴重な皆さんの分をこれ以上もらえない。」


「そう、必死な思いで集めた食べ物なのでは?」


「ううん。まあ必死な思いではあるけど、まだ拠点に帰ればたくさんあるから。」


私が言うと、あずさ先生が言う。


「私達は大丈夫よ。麻衣さんだけお腹の子のために少しもらったらいいわ。」


「じゃあ私はこのクッキーを4,5枚とお水をいただくわ。」


麻衣さんはクッキーを取りペットボトルの水を受け取る。


「3人はいきなり食べると胃が受け付けないから、クッキーも溶かすように食べてほしいの。」


あずさ先生がみんなに促す。


「わかりました・・それでは遠慮なく。」


「ありがとうございます・・」


「なっちゃんもみなみ先輩も遠慮しないでね。」


「うん。」


「ありがとう。」


そしてなっちゃんとみなみ先輩がクッキーを口の中で溶かすように食べていく。


「梨美さんは栄養補給ゼリーの方がいいわね。」


あずさ先生が梨美ちゃんに栄養補給ゼリーを渡してあげる。


「ありがとうございます。」


「ゆっくりでいいわ。」


「はい。」


そして3人がご飯を食べている間に、私は懐で温めておいた水入りの哺乳瓶を取り出す。


そして携帯用に持ってきた粉ミルクを入れてシェイクする。


「おいで。」


私は唯人を抱きかかえて哺乳瓶に入ったミルクを与える。


唯人は勢いよく飲み始めた。


「あの聞いていいのか分からないんだけど・・しおりん。その子は?」


なっちゃんの意識もはっきりしてきたみたいで聞いてくる。


「えっと私の子よ。」


「えっ!?」


「栞ちゃんの!?」


「栞さんが子供を!?」


なっちゃんと梨美ちゃんとみなみ先輩が目を見開いて驚いていた。


「うんいろいろあって、どうしても子供が必要だったの・・」


「えっ?どうして?相手は?」


なっちゃんが驚いて聞いてくる。


無理もない2年前は私も3人も大学生だった。


それが子供にミルクを飲ませていて、それが自分の子だというのだし驚かないわけはない。


特になっちゃんは親友だし。


唯人君の消息もつかめていないのに、どうして子供がいるのか納得いかないだろう。


「えっと私から説明するわ。」


あずさ先生が私たちの空気を見て話し始める。


「実はね、私は麻酔科医なんだけどもう一人仲間に天才外科医がいるの。その人はウイルスなどにも精通していてね・・その人がある人の子を妊娠する計画を立てたのよ。」


「ウイルスの博士かなにかですか?」


みなみ先輩が聴き直す。


「まあそんなところかしら。」


「それがどうして子作りになるんですか?」


「私達と一緒に、ゾンビウイルスを消してしまう不思議な能力を持った男の人がいるの。」


「えっ!男性が生き残っているんですか?」


「やっぱりそう思うわよね。私たちもそうだった。その人はゾンビウイルスを寄せ付けず、更にその細胞はゾンビを消去してしまう力を持っていたのよ。」


「消去ってそんな・・そんな人がいるんですか?」


なっちゃんも驚いている。


「いるのよ。そしてねその細胞を研究した結果、ゾンビウイルスを燃やしてしまうという摩訶不思議な能力を持っている事がわかったんだけど。」


「ゾンビウイルスを・・燃やす。」


「ひょっとして少し心当たりがあるかしら?」


「はい・・」


なっちゃんは思い出して怖くなってしまった様子だった。


「私が話します。」


「どうしたの。」


「はい、私たちは車を乗り継いで生活していました。ゾンビを振り切って無人の土地に行ってはコンビニに車ごと突っこんで、窓からとれるだけ食料をとってゾンビが群がる前にそこを離れる。そんな生活をしていたんです。」


「2年弱も?」


「はい・・」


「それは・・辛かったわね。」


「細々とそうやって暮らしていたのですが、転々としているうちに栄養が足りなくなってきて、だんだんと力が無くなって言ったんです。」


「それがその結果ね。」


「はい。」


「そして?」


「はい、私たちは既に限界でした。食べ物をもっと大量に求めて業務用スーパーに突っ込んだのです。」


「なるほど。」


「そしたら中にたくさんのゾンビがいて車がつっかえって、もたついている間にあっという間に取り囲まれてしまって・・」


「どうしたの?」


「3人でずっと車の中から出られなくなってしまいました。ゾンビは私達を取り囲んで車を揺らし続けました。自動ドアの隙間とかに挟まっているような状態で・・」


「それであの状態に?」


「辛うじて車内にあった水と食料でしのいでいたんですが・・トイレは後部の荷物置き場のダンボールにするようにして・・」


みなみ先輩となっちゃんと梨美ちゃんがポロポロと泣いていた。


確かにクルマの中は凄い異臭がしていた。その原因がわかった。


「その状態で10日くらい生きていたのですが・・体力のない梨美ちゃんが意識をなくして。でもいざという時の為にエンジンは切ってて」


「どうしたの?」


「そしたら急に!ゾンビが燃えて消えたんです。あっという間にいなくなってしまったんです!」


「そうね。わかるわ、それは私達も経験した。」


あずさ先生が冷静に言う。


「そうなのですね。」


「・・あなたたちよく耐え忍んだわね。」


あずさ先生が泣いていた。


私も・・


麻衣さんも・・


本当に凄い。


《3人は必死に生きたんだ・・》


「そうねそれがゾンビを消す力を持つ男の人の能力よ。」


「それと子作りとどういう・・?」


「彼の子を宿すと宿している間は同じ力を持つの。そして生まれた子が男児ならその力を引き継ぐのよ・・」


「ひょっとしてこの子が・・」


「ええそうよ。彼が栞ちゃんに産ませた第一号の男の子。」


なっちゃんとみなみ先輩と梨美ちゃんが赤ちゃんを見る。


私は彼女たちに伝えるのだった。


「この子の名前は唯人。」


3人とも私の気持ちを知って滝のように涙を流すのだった。

次話:第124話 無事に帰還する .

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ま~この状況だから近頼君も、納得の名何だろうね! 少しでもシオリンの慰めに成ればと思い、納得してるのだろうね? 出来るだけ早く一貫教育の女学校を見つけ、幼稚舎のお姉ちゃんが見つかると,唯人君…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ