第122話 生死をさまよう友達 ー長尾栞編ー
栄養補給食品と水分を取ってなっちゃんとみなみ先輩は眠ってしまった。
私は唯人を抱いていた。
「よしよしがんばりましたね。」
私は気持ちを落ち着かせて、唯人の紙おむつを交換して母乳を与えていた。
胸が張ってたくさん母乳が出る・・
それを麻衣さんが微笑みながら眺めていた。
「なんか栞ちゃんママがさまになってきたわ」
「そうですか?」
「うん。最初はぎこちなかったけど今はすっかりママ。」
「確かに慣れてきたかもしれないです。夜泣きにもだいぶ慣れたし。」
「私にも子供が生まれるんだなあ・・」
「はい。」
そして母乳を与えているうちに唯人が眠ってしまった。
「麻衣さん唯人と二人を見ていてください。」
「うん。」
病室に戻ると梨美ちゃんがベッドに横たわっていて、側らに座るあずさ先生がこっちを振り向いた。
「意識はまだ戻らないわ。お水を・・」
「持ってきました。一応ゼリーも。」
「口を湿らせてみる。」
「はい。」
すると梨美ちゃんに反応があった。
「点滴も見つけたけど常温だったから・・」
「ダメでした?」
「ひとつ開封してみたけど大丈夫そうだった。奈美恵さんなら分かると思うんだけど・・」
「どうしましょう。」
「与えるしかないわ。じゃないと彼女が危ない、おそらく大丈夫なはず。」
「はい。」
あずさ先生は梨美ちゃんの脇に点滴をさげ、彼女の腕に針を刺した。
「祈りましょう。」
私とあずさ先生がじっと梨美ちゃんを見つめる。
呼吸はしているようだったが、か細い。
1時間程度で点滴が全部落ちた。
すると。
梨美ちゃんが目を開いた。
「こ・・こは・・」
「梨美ちゃん!」
「・・えっ・・栞ちゃんが・・いる・・」
「そう!栞よ!なっちゃんもみなみ先輩も無事!」
「・・そう・・よかった・・」
梨美ちゃんはまだ朦朧としているようだった。
「梨美ちゃん。休んでいいの、もう助かったんだから。」
「・・え・・たすか・・」
「そうよ!もう大丈夫!」
「よか・・た・・本当に・・」
「ええ。安心して。」
梨美ちゃんがかすかにほほ笑んでいる。
すっ
ふいに梨美ちゃんの目が閉じられた。
「え!梨美ちゃん!」
私は梨美ちゃんの手をぎゅっと握った。
「梨美ちゃん!!」
「栞ちゃん彼女は大丈夫よ。どうやら眠ってしまったらしいわ。点滴で少し回復したみたい。」
「よかった。」
ポロポロと涙が出て来る。
失いたくない・・とにかくなんとか回復してほしかった。
「私が見ているから大丈夫よ。」
「いえ私もここにいます。」
そのまま夜になってしまった。
梨美ちゃんはずっと眠っているようだった。
すると・・
「梨美ちゃんは?」
病室の入り口からなっちゃんが声をかけて入ってきた。
「大丈夫よ。」
あずさ先生が答える。
「梨美ちゃんはなんとか持ちこたえてくれたみたい。」
私も言う。
「よかった・・」
なっちゃんがふらふらになりながら梨美ちゃんそばに座る。
「なっちゃん!大丈夫?」
「うん。ありがとうしおりん。しおりんが水とゼリーをくれたから少し回復したみたい。」
「ちょっとまってて、まだ食べ物あるから取ってくる。」
「うん・・」
私が車に行くと麻衣さんが唯人を見ていてくれた。
車は冷房がつく為、唯人を寝せるのに車にいてくれたのだった。
過ごしやすい為、みなみ先輩もここに寝ていた。
「唯人は?」
「大丈夫ねているわ。」
「みなみ先輩は?」
「さっき少し起きたけど、水を飲んだらまた寝ちゃったみたい。」
「あ・・すみません・・起きてます・・」
みなみ先輩が目を開ける。
「あ、そうなんですね。失礼しましたうるさかったかしら。」
「いえ。」
「みなみ先輩、今日はもうこの時間なので動けなくなってしまいました。病院の中に入りましょう。みなみ先輩は歩けますか?」
「なんとか。」
そしてふらつきながらみなみ先輩が立ち上がって、麻衣さんの肩を借りながら車を降りて行った。私は唯人を連れて車からビニール袋ごと食料をとり車に鍵をかける。
「これでよし。」
そして遅れて病院に入って行くのだった。
「ベッドが3つあるからそれぞれ横になるといいわ。」
「はい・・」
「わかりました・・」
なっちゃんとみなみ先輩がそれぞれのベッドに眠る事になった。
すると・・なっちゃんが聞いてくる。
「あの!でもここに居たらあいつらが来ますよね?」
「ゾンビ?」
「はい。あいつらは夜でも動くんです!」
「大丈夫なのよ。」
「えっ?」
「説明は明日の朝するわ、とにかく今日は眠った方がいい。麻衣さんもね。」
「すみません。」
あずさ先生は妊婦の麻衣さんにもソファーで横になるように進める。
私は唯人を抱いて、なっちゃんのベットの脇の椅子に腰かけた。
「やっぱりゾンビから逃げ回ってたんだね。」
「うん・・ゾンビ来ないの?」
「大丈夫よ。安心して眠って。」
「うん・・」
私が手を握るとなっちゃんは目を閉じた。
「彼女達は、大変だったみたいですね。」
私があずさ先生に声をかける。
「そうみたいね。」
「私達が通りかからなかったらもう・・」
「ええ間違いなく終わってたわね。」
「本当によかったです。友達とサークルの先輩なんです!」
「奇跡よね。栞ちゃんは強い運を持ってるみたい。遠藤さんの隣に住んでいたりとかね。」
「我ながらそう思います。」
思い返してみれば私は本当に運がいい。
今回のことだって・・普通だったら彼女らは助からなかった。
なっちゃんもみなみ先輩も梨美ちゃんも、ボロボロだけど生きていてくれた。
それを考えただけでポロポロと涙がでてくる。
とにかく今日はゆっくり休んでもらって明日いろいろ話そう。
これまでの事とこれからの事を。
「ね・・唯人。私達の事もなっちゃんに教えてあげなくちゃ。」
静かに眠り始めた4人の寝顔を見て安心した。
唯人は腕の中で眠っている。
「夜泣きしたら、隣の部屋に移った方がいいかな。」
皆をおこさないようにと思うのだった。
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