第117話 初産 ー長尾栞編ー
私が産気づいたので急いでセントラル総合病院に来た。
病院入口にあったストレッチャーに乗せられ、産婦人科の病棟にむかう。
「うっ!うぐぐ。」
痛い。
うそ!こんなに苦しいの?
「ふう・・」
痛みが引いてきた。
さっきから定期的に繰り返している。
「じゃあ分娩室の準備をしてきます。」
あずさ先生と奈美恵さんが大きなお腹で行く。彼女らはヒーヒー汗をたらしながら足早に行った。
・・なんとも申し訳なくなる。
私は病室に入りベッドに横たわった。
陣痛の痛みの間隔がほんの少しずつ縮まってきた。
「遠藤くん。栞ちゃんのお尻のあたりをグッと押さえてあげると少しは楽になるはず。」
華江先生が遠藤さんにアドバイスをする。
「は、はい。」
遠藤さんが私のお尻の辺りを手のひらで押し上げる。少しは楽に感じる。
「栞ちゃん。がんばって!俺がついてるから大丈夫!先生たちもいるからね。」
「ありがとう遠藤さん。」
遠藤さんが一番焦っているように見える。
初めて自分がパパになるのだ・・それも無理はない。
とにかく私は痛みが来るのを耐えてまた痛みが抜けてをくりかえしている。
「もうすぐ・・俺達の子が生まれるんだ。」
「はい。」
うぐっ!
痛っっっったい!
キタァァァァ
また痛みが走って来た。
その時は遠藤さんがお尻を抑えていてくれる。
「栞ちゃんいきまないでね!」
「は・・はい・・」
でもいきみそうになってしまう・・我慢だ我慢!!
うぐぅぅぅ
また痛みが引いて行く。
「はぁはぁ・・先生あとどのくらいですかね?」
「まだ間隔が20分おきくらいだからもう少しかかるわ。」
「わかりました。」
「自分で楽な姿勢を探していいのよ。」
「は・・はい。」
すると麻衣さんと翼さんが大きなクッションをどこかから持ってきてくれた。
「これにしがみついて四つん這いに。」
「は、はい!」
私は訳もわからずにそれにしがみついて四つん這いになってみる。少しは楽に感じた。
それから徐々に陣痛の時間は狭まっていった。
産気づいてからすでに10時間が経過している。
この途方もない長い時間苦しみ続けてようやく華江先生が言う。
「間隔が10分になって来たからもうちょっとよ。」
「はい。ふうふう。」
うぐぐぐぐ
きっきたぁぁぁ
苦しかった。でも遠藤さんとの子供を授かる事が出来る!頑張るんだ。
ふぐぅおおおお
「いきまないで!」
「はっはい!」
こんなことをずっと続けてようやく陣痛がほぼ断続的になって来た。
「分娩室にいくわよ。」
「はい。」
私は遠藤さんに支えられながら分娩室に歩いて行く。
歩くのもやっとやっとだったが分娩室はあずさ先生と奈美恵さんが準備してくれていた。
「ここに横になって。」
「はい!」
うぐぅうううう
そして横になるとすぐに破水した。
「イキんでいいよ!」
華江先生が言うのが聞こえる。
「はいぃぃぃ」
遠藤さんは私の手を握ってくれていた。
「がんばれがんばれ!」
あまりに痛くて泣けてきた。
そしてイキみ始めると・・ん?ヤバイ!
「あ、あの・・出そうです。」
「いいのよ!奈美恵さんがいるから!」
えっ!!恥ずかしい!遠藤さんもいるし3人の前でそんな・・でも我慢が・・
その時だった。
奈美恵さんがお尻の穴を拭いてくれていた。
そしてゴム手袋を変えている。
《おそらく出ちゃったんだ。》
「大丈夫よー栞ちゃん!イキんでー」
「はい!」
恥ずかしいでもそんなことよりも痛い・・
「あーきっと早く赤ちゃんでてくるよー。」
「もう少しだよー。」
「ヒーヒー」
痛い!!もうきっつい・・
「肩まで出てきたわよ!」
「は、はい!」
うんんん!!!
なんだかバッキバキな感じがする!
いっだい!
「もう少し!頑張れ頑張れ!」
おっぎゃあおっぎゃあおっぎゃあおっぎゃあ!
「生まれたよー!男の子だよー!」
そしてへその緒を切って、私の胸元へと赤ちゃんを運んできてくれた。
「う、生まれた。う・・ううう・・う」
泣けてきた。
すると遠藤さんも隣で泣いていた。
「がんばったね!がんばったね!」
「あなたたちの子よ!」
「生まれた、うふふふ。私の子。ぐすっ。えへっ。」
「お疲れ様・・」
そして赤ちゃんは一旦脇のベッドに寝せられる。
「栞ちゃんごめんねー。ちょっと裂けちゃったけど処置したから大丈夫よ。」
華江先生が言った。
「ありがとうございます・・」
一気に脱力した。
ほえ〜ってなってしまった。
じわじわと子供を産んだ感動が来た。痛みはまだ少しあるけど本当にうれしかった。
「俺の事見えてるのかな?」
「んーまだだと思うわ。」
「すごいな・・元気だ。」
赤ちゃん用ベッドで子供を見ながら遠藤さんがニコニコしていた。
「じゃあ遠藤君。男のあなたは一旦出ようか?」
「あ・・はい。」
「ちょっと外で待っててね。」
「わかりました。」
私の身の回りを綺麗にして病院の服を着せられる。
「じゃあ一旦病室に行きましょう。」
「はい。」
そして私は病室に連れられてベッドに寝せられた。
遅れて隣には小さい赤ちゃんのベッドと赤ちゃんが運ばれてくる。
「えらいね・・うまれてきてくれたんだね。」
私は自分の子に声をかけた。
もぞもぞと動いているがまだ私を認識していなそうだった。
「元気な子でよかったね。」
遠藤さんが声をかけてくれる。
「俺達の子だよ。」
「幸せ。」
私はいっぱいの幸せに包まれていた。
感動に胸が満たされていた。
疲れ切った私は安心して軽く眠りについた。
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