第107話 女として ー長尾栞編ー
文章を直しました!一度読んでくださった方すみませんでした。
この世界で私たちがゾンビを避けながら生活をしてきて1年以上が過ぎた。
初夏の季節。
ゴールデンウィークも過ぎ、物資の回収作業も暑く感じる季節だった。
「1年か・・」
私はしみじみと思う。
ゴールデンウィークが楽しみに思えた一昨年がなつかしい。
初夏の日差しは強く紫外線が気になる季節でもあった。
皆がUVカットクリームと化粧品を使いだした。
私も・・
「こんなゾンビの世界でもみんな日焼け気にするんだな・・」
私達はただ生きるだけじゃなく愛されるためにいる。
紫外線対策はどちらかというと遠藤さんの為でもあった。
自分を綺麗に保って彼の気持ちを離したくないという事もある。
《彼がそんなことを気にするはずもないのに・・でもこのすさんだ世界でこんなことをしている人いるかな?》
私は自分の部屋に籠って、ぐるぐるといろんなことを考えていた。
なんとなく部屋を出たくない・・
遠藤さんとの子作りの日々が始まってから、2カ月ちょっとが過ぎ全員に順番が回った。
すでに2回目の日が訪れた人もいた。しかし私は遠藤さんとは初めてのあの日だけ。
私はちょっと気分がすぐれないと言って2回目をパスしたのだった。
それには理由がある。
「どうかな・・?」
今は部屋で妊娠検査薬を使って反応を待っているところだった。
紙コップに取った尿につけた検査薬の結果を待っている。
結果は・・
陽性
「はは・・すごいな・・。」
やはりそうだった。
でもきちんと確証を取るためには華江先生とお話をさせてもらう必要がある。
実はまだ生理がきていない事を誰にも言ってなかった。
まさか私が第一号と言うのは想像もしなかったし、私より先に誰かがなってくれたらいいなと思っていたから。
それなのに・・
私は皆がどう思うのかが怖かった。
そして子供が出来たことでいろいろ検証されるのも怖かった。
実験台と言うほどの事はしないと勝手に思っていたが、何をするのかは聞いていなかった。
ただそんなことよりも一番気にしているのは・・
《優美さんが最初だったらいいとどれだけ願ったか。正妻の優美さんが私の妊娠をどう思うのか?》
妊娠話すのをためらう一番の理由はこれだった。
実は他の人ともそのことについて話をしたことがあった。
やはり誰もが一番目の優美さんの懐妊を望んでいた。
しかし皆が優美さんの最初の懐妊を望んでいながらも、遠藤さんとの性交渉を続けていた。
年上組も女子高生組も処女組も。
その理由は最も簡単だった。
女だから・・
私も一度抱かれて思った。
この寂寥とした荒廃した世界に一筋の希望を見いだせた気がした。
力強い彼の鼓動と体温を感じて生きている実感がした。
自分がまだ女として生きているんだと実感し、これからのこの世界を生き抜くための理由が出来た。
女として愛される事の感動はとても大きい。
自分には生まれた意味があると思える、そう実感できることが嬉しかった。
気持ちを満たしてもらえる事がこの終末の世界でどれほど大きい事か・・
「ふう。」
私は華江先生の元に行く事にした。
華江先生の部屋のドアをノックする。
コンコン
「はい・・」
華江先生はすでに今日の仕事をする準備をしていた。
華江先生も1度は遠藤君に抱かれているはずだった・・その結果はまだ聞いていない。
「あのお話が。」
「入って。」
華江先生に促されて部屋に入る。
「栞さん話って?」
「あの凄く大事な話でまだ皆には話していないんです。」
「ええ。なにかしら?」
「実は妊娠したみたいなんです。」
「え!そうなの!やったわね!おめでとう!」
華江先生は喜んでくれた。
「はい。」
「なんだかうれしそうじゃないわね?」
「妊娠したことはうれしいのですがみんなの気持ちを考えると複雑で・・」
「ああそういう事ね。確かにそうかもしれないわね。でも隠し通す事は出来ないわよ。」
「そうなんです。だからどうすればいいのか?」
結局は私の気持ち次第なのかもしれなかったが、やはり一番の大人に聞くしか方法が無く華江先生に聞きにきたのだ。
先生は少し難しそうな顔をした。
「あのね。」
「はい。」
「もうみんなで決めた事だからこれは恨みっこなしだと思うの。」
「はい。」
「だけどやっぱりみんなの気持ちが気になっちゃうって事よね?」
「そうなんです。」
「うーん。」
華江先生は考え込んだ。
「じゃあもう一人だけ、もう一人妊娠するのを待ったらどうかしら?」
「もうひとりですか?」
「ええ。これだけ万全な体制でローテーションで性交していれば、次も早い段階で出来ると思うの。」
「確かに。」
「一人ならちょっと複雑だけど、二人ならどうにかなるんじゃない?」
「わかりました!発表はもう少し待ってもらっていいですか?」
「ええ当然よ。私だって候補の一人だしね。ただ出来れば次は優美さんがいいわよね。」
「華江先生もそう思いますよね?彼女が先に懐妊してくれれば私もこんなに思わないんですけど。」
「彼女の日程を増やしてもらうように促してみるわ。」
「ありがとうございます。出来ればそうしていただけるとありがたいです。」
「安心して任せて。」
「はい。」
そうして更に2週間が過ぎた時だった。
もう一人が子供を授かった。
それは・・
華江先生だった。
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