第101話 目標達成した男 ー長尾栞編ー
朝ごはんを用意をして皆がそろうのを待つ。
来ていないのは麻衣さんと翼さんと優美さん、そして遠藤さんだった。
しかし朝食を予定している時間より30分は早いので、4人が来てなくてもおかしくはなかった。
いま集まっている皆が眠っていられなくて早く起きて来ただけだから・・来てないというのもおかしい。
「来ませんね。遠藤さんも・・」
私がポツリと言うと皆がそれぞれに話し出す。
「今日じゃなかったんじゃない?」
「なるほど・・そうかもしれないわ。」
「そうですね。だって今日って決めてたわけじゃないですもんね。」
「きっと今日の夜か明日に動くんじゃないかしら?」
それぞれ自分の所に来なかった安心感や不安感が入り混じって、希望的な予測を恐る恐る話していた。
すると華江先生がぴしゃりと言う。
「そうかしら?もしそうだったら遠藤君は辛い夜を送ったと思うし、今後はだいぶ難航されることが予想されるわよ。出来れば達成してくれると嬉しいんだけど。」
「私も先生と同意見だわ。ここで決めてもらわないとちょっと辛いかもしれない。」
あずさ先生も華江先生と同意見のようだった。すると瞳さんも同じことを言う。
「本当よね。さすがに既に数カ月がたって、何も進まないというのは精神的にも辛いわ。」
大人たち3人の意見を聞いて、確かにそうだと思った若い面々は黙ってしまう。
私たち20代女子はどうしても恋愛的な感情が入ったり、自分の気持ちを優先してしまうきらいがある。希望的観測を話しているのは、ただ自分の気持ちやプライドを落ち着かせるための気休めだった。
「そうですよね・・」
私はぽつりと言う。
みんなが生存者捜索のときに街で見た、母子の可愛そうな姿を見て覚悟を決めたはずなのに、やはり若い女子たちは気持ちの整理がつけづらいようだった。大人は逆にどっしりと構えている。
「あの・・・皆さん!どうなっても受け止めるという話でしたよね?私たちも先生達を見習って覚悟決めて待ちましょう!」
私が言う。
「そうね・・ついつい自分の気持ちが出てしまって。」
沙織さんが言う。
「そうよね。女子高生には辛いだろうけどここは覚悟を決めて待つしかないわよね。そう決めたんだし。」
未華さんが言う。
「いえ、特には・・私ももう気にせず待つことにしたんです。本当に気にしてませんよ?」
「私も里奈と同じで、ただ彼を待ってるだけです。」
・・どちらかと言うと女子高生たちのほうが・・覚悟が決まっていた・・
ガヤガヤガヤ
どうやら誰かがレストランに近づいてきているようだった。
「誰か来ましたね?」
「そうみたいね。」
意外にもレストランの入り口からは、残りの4人全員が話しながら入って来た?
「?」
「えっ?」
「おはようございます!」
私が言うと・・
「おはようございまーす。」
「皆さんお早いですね?」
「まだ時間じゃないですよね?」
優美さんと翼さん、麻衣さんが返事をした。
「俺達が話をしてたから・・でもまだ時間じゃないですよね?」
遠藤さんも普通に話をしていた。
「えっと、おはよう遠藤君。どうかしら?」
華江先生が遠藤さんに聞いた。
「あ・・はい。なんとか・・」
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
皆が思わず息をのんだ・・どうやら遠藤さんは滞っていた目標を達成したらしかったのだ!!
「そうなの!?おめでとう。ということは?」
「無事に出来るようになりました!初めてだったので本当に不安だったんですが・・やはり自分が選んだ好きな人だったので上手くいったみたいです。・・あんなに良いものだったんですね。知らなかったです。」
「本当?良かったわー!このまま無理だったどうしようかって話してたのよー。」
華江先生が本当にうれしそうに言った。華江先生の治療にかかっていたので、これで彼女の肩の荷は下りたはずだ。急に顔に光がさしたように明るくなった。
「ご心配をおかけしました。最初の・・あれの採取の時に華江先生からしていただいた時にはうまくいったのに。いざ行為をするとなると緊張しすぎてしまったようでした。」
遠藤さんが申し訳なさそうに言う。
なんと・・遠藤さんはとうとう!とうとう童貞を卒業してしまったようだった!
「安心したわー。ふぅー。」
あずさ先生が少し涙を溜めてホッとした顔で言う。
「うまくいかなかったらどうしようって言っていたのよ。」
瞳さんも心底安心したようだった。
大人の女子チームは本当にうれしいようで、ホッとした雰囲気が伝わってくる。弟を心配するように思っていたのだろう。ちょっと感極まっているように見える。
そして・・そこに一緒に来た麻衣さん翼さん優美さんが話しながら座った。
すると話もそこそこにご飯を食べ始める。
「お腹減りましたぁ。いただきまーす!」
麻衣さんが言うと他の二人もいう。
「いただきまーす。」
「おいしそう!」
優美さんと翼さんが珈琲とパンを口に入れ始めた。
え!なに?この雰囲気・・まさか!皆が戸惑ったようになって遠藤さんと3人を見ている。
すると何事もなかったように華江先生とあずさ先生と瞳さんがご飯を食べ始めた。大人組はやはり動じる事もなく普段通りだ。安心したのもあって3人で遠藤さんと話しながらおいしそうに食べている。
他のメンバーは何か気が気じゃなくて、朝ごはんに手をつけていなかった。
私は不本意ながら邪推してしまう。
えっと・・まさかとは思うけど・・遠藤さん・・4人で?
「あれ?みんなご飯食べないんですかぁ?」
麻衣さんが明るく話す。
「あ・ああ。」
「ええそうね。」
「はい。いただきまーす。」
「私も食べます。」
「コーヒー冷めちゃったみたい・・」
沙織さん、愛奈さん、奈美恵さん、未華さん、里奈ちゃん、あゆみちゃん、がそれぞれポツリと話しながら朝食に手をつけた。
えっ!気にしちゃいけないのかな?誰?
ご飯を食べながらも半分の人間に微妙な雰囲気が流れるのだった。
「えっとー。」
あずさ先生が口を開く。
「あの20代女子たちが・・気になって朝食が入らないみたいなんだけど。聞いてもいいのかなぁ?」
「はい。良いですけど。」
「遠藤君が選んだ人って誰なのぉ?」
「ああ・・あの。この人です。」
遠藤さんが手を差し伸べたところにいたのは・・
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