第10話:お誘い? ー長尾栞編ー
結局、私はサークルを辞めた。
べつに事件が辛かったわけじゃない。みんなが私に気を使うのだ・・それでいたたまれなくなったのだった。前と変わらないのはなっちゃんだけ。なっちゃんはあの後すぐに普通どおりに戻った。
回想を終えて二人は静かに部屋でお茶を飲んでいる。
「もうすっかり冬だよね。寒いし・・」
なっちゃんがしみじみと言う。
「ほんとだよ。夏のあの事からあっというまに時間がたったわ。」
「しおりん大変だったよね・・・」
「いやなっちゃん!私が辛いのはさあ、あれからサークルの人たちが気を使っちゃって居づらいのよ。」
「わかるー!すっごく気まずいよね!しおりんもういいって言ってるのに、みんな腫れ物に触るようになってさ。」
「ホントだよ。でもなっちゃんまで私と一緒に辞める事ないのにぃ。」
「はぁ?それマジで言ってんの?しおりんがいないサークルなんて意味無いじゃん。」
「なっちゃんマジ天使。」
「「アハハハハハ」」
とにかくサークルを辞めて今は特に何もすることがなくなった。それでアルバイトをし始めたのだったが、今日はアルバイトもなく帰ってきたら、なっちゃんが遊びに来た。
そしてサークルの話になったのだった。
「で、あの後なんだけど、唯人君とは連絡とったりした?」
実は・・なっちゃんに言われてたけど、気が重くて連絡する気になれなかった。
「それが・・連絡は一回もしてない」
「ええ!?誰かに取られちゃうかもよ!」
「まあ私もそこまで好きだったわけでもないし、気になってるってだけだったから」
「あーあ私がせっかくお膳立てしたのに、まったくあの暴漢たちのせいで!」
警察からの連絡ではあの暴漢たちはまだ捕まっていないそうだった。私も唯人君も犯人の顔を見ていないから、身体的特徴だけでは捕まらなかったのだ。金髪の男の人なんて珍しいと思ったんだけどな・・
結局二人でそんな思い出話をしダラダラと夜まで過ごした。
「でさ!今年のクリスマスどーすんのよ」
なっちゃんが言い出した。
「クリスマスって言っても特別することないし・・」
「あーあ。寂しいよねぇ・・しおりんは・・かわいそう」
「えっ!なっちゃんは一緒に過ごすひといるの?」
「まさっかー!こーんな可愛い女を放っておくわけ・・誰も相手がいません・・」
「なんだ!一緒じゃん!」
「ギャハハハハ」
「じゃあ一緒にパーティーしようか?」
「いーね!」
今年はどうやら二人でクリスマスを過ごす事になりそうだった。
夜になり遅くなる前になっちゃんが帰る事になったので、1階のエントランスまで見送ることにする。
「はあー、しおりん!みて息が白いよ」
「寒いんだね。」
「はあしおりん!温めてよ!」
なっちゃんがいきなり抱きついてきた。するとマンションの住人が正面から入ってきて、抱き合っている私たちを変な目で見ていた。
「な・・なっちゃん?みられてるよ」
「二人を邪魔するなんて誰にもできないのよぉ!」
「なっちゃん・・イタいわぁ」
「ひどいわ!しおりん!ひどいわぁ!」
「暖まった?」
「暖まった!!じゃあ帰るねー。バイバイ!」
「バイバイ」
空はすんでいて都会の夜にしては綺麗な星が見えていた。
部屋に戻って二人で食べたお菓子の容器などを片付けてテレビをつけた。ニュースでは最近新しい風邪のようなものが流行ってきているという話しや、芸能人の不倫話しなどばかりで特に目新しい話はなかった。
《なんか1年なんてあっという間に過ぎるんだな。》
高校生の頃は早く家を出たくて、時間がすぎるのが遅く感じた。でも一人暮らしを始めたらあっという間に時間はすぎていった。
《もっと楽しまなくちゃな・・》
そんな事を考えながら洗濯機を回した。まもなく8時になるから近所迷惑になる前に終わらせないといけなかった。
ピョコ
そんなときスマホがなった。SNSの着信だった。
「なっちゃんめー!もう寂しくなったのかー?」
スマホを開けると・・
「唯人くん・・?」
《どうしよう・・唯人君からだ・・まてまて!まずはなっちゃんだ!なっちゃんに聞こう》
「もしもしなっちゃん!?」
「お?しおりんどうした慌てて。」
「唯人君からメールきた!」
「えっ?なんて?」
「あ!まだ読んでない!」
「まず読めよ!」
「えーっとね・・話がしたいから会いたいって。」
「マジか、やったな!おい!」
なっちゃんもテンションが上がっていた!
「で、でも・・なっちゃん!どうすればいいのさ!」
「しおりん!落ち着けって!」
「えっと、落ち着いてる。大丈夫!で!ど、どうすればいいのさ!」
「いつだ!その日はいつなんだ!?」
「え・・えっと、今週の日曜だって」
《急すぎる、あと四日しかないし無理だ。》
「よし!しおりん!土曜日は買い物だ!」
「な・・何買うの?」
「はあ?おまえ何言ってんだよ!」
「なななな何よ。」
「勝負下着だよ!ないだろ!勝負下着!」
「何言ってんの?いきなりそんなことなるわけないじゃない!」
「何をいってるの!そんなこと言ってたらあっというまに一生が終わるよ」
「一生って・・いいよ!そんな、会うの前提で話してるよね?」
「しおりん、会わない選択肢あると思ってたんだ?」
「え、いや・・な・ないけど!なんの話だろう?」
「そんなの決まってるだろがい!しおりんの魅力にやられたんだよ!」
「え、ええ!?ほんと?そんなことある?」
「まったくしおりんは・・ほかに何があるん?」
《考えてみると・・ないか!ほかにないか!そうか!そうだな!》
「よし!しおりん!詳しい事は明日学校で!」
「わかった!でなんて返信したら?」
「会う!って言やいいだろがい!」
「わ・・わかった!」
その後唯人君と会う約束をしてやり取りを終えた。
その夜は・・
《ね!ねむれん!》
バッチリ目が冴えて眠る事が出来なかった。
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次話:第11話 勝負下着




