子供の頃のいじめの記憶をよみがえらせて復讐に走る男が、いじめていた人でなしの娘をターゲットにして…。
超短編投下します。
残酷シーンの具体描写はありません。
『○○カンパニー 課長 足立幸作』
その名刺を受け取った時、俺の頭に耐えがたい悪夢が思い出され、商談の場であることにもかかわらず嘔吐した。
そして吐いた瞬間にコイツが言った言葉が俺の悪夢をより鮮明にした。
『うわ、こいつゲロ吐きやがった。きったねー』
一緒に居た部長はそれを聞いて慌てて頭を下げさせ謝罪してきたが、俺は体調不良のためということでその日の商談は延期にして貰った。
俺は自宅に帰ると、押し入れの奥に封印しておいたノートを取り出した。
そのノートは俺が小中学生の時の日記だ。
そして、俺が足立幸作にいじめられていた記録でもある。
およそ6年分の内容を読み終えると、俺の精神は完全なる復讐者へと変貌していた。
俺は自分が一代で築いた会社を売り払うことにした。
そして手に入ったお金は100億。
それを使って奴の身辺調査を始めた。
15年前に妻を亡くし、二人目の妻も3年前に死亡。
最初の妻の娘も死亡しており、今は二人目の妻との子である中3の娘と二人暮らし。
奴の最初の妻は俺と奴の同級生だ。
彼女は小学校4年生の時に俺に告白してきたが、その後奴が俺を執拗にいじめ続け、あらゆる悪口やありもしないうわさを流され続けて、俺は彼女と別れることになった。
中学に入ってからも俺は陰湿ないじめを受け続けたが、中学3年生になってようやく教師の介入があり、いじめっ子たちは謝罪してくれた。
首謀者である奴が口先だけで謝っていたのはわかっていたが、精神的に疲弊していた俺はいじめられていたことを記したノートを封印した。
そして25歳になった頃。
俺の元に年賀状が奴から年賀状が届いた。
『俺たち結婚しましたww』
そう手書きで書かれたハガキには、奴と俺が最初に付き合った彼女が写っていた。
衝撃を受けた俺はその時勤めていた会社をやめて遠くへと引っ越した。
それから25年。
俺は起業に成功し、奴とはまったく縁のない平和な暮らしを送っていた。
そしてある会社との取引の場で、奴と再会したのだ。
俺の名前は佐藤和人。
恐らく日本にごまんといる名前だから奴には気づかれていないと思う。
そして金を掛けた調査でわかった驚くべき事実が浮かび上がった。
奴は自分の立身出世のために、上司や取引先の相手に自分の妻をあてがい、言うことを聞かない妻を縛り上げてまで強制的に相手をさせた。
その結果彼女は自殺し、その娘も同じ目に遭ってほどなく自殺。
再婚相手にも同じことを強要して自殺させ、今は中3の娘が『競売中』とされているらしい。
なるべく娘の初物を高く売ろうと欲をかいて競売にしたせいで俺の調査に引っ掛かってしまったのだが、俺はこのあとどうするかを考えた。
奴に復讐するには俺が落札して、地獄を味合わせてやるしかないだろう。
『落札額1000万円』
その落札額に奴は驚いたに違いない。
いくら奴と似ても似つかない美少女の初物でもありえない金額だ。
そして『仲介業者』を通じて俺の元に『商品』が届けられてきた。
これにより、『出品者』と『落札者』が出会わないようになっている仕組みらしい。
なんて言いつつも、実際『億』のお金を出せばやすやすと情報を出してくれるのだけどな。
「……」
部屋に入るなりムスッとしている奴の娘。
「自分がどうしてここにいるかわかっているのか?」
「知ってるわよ。アンタが1000万円も出してあたしを買ったんでしょう?」
あきれたような目をしている娘。
「自分が売られることに抵抗は無いのか?」
「しかたないじゃない!あいつは悪魔だもの!お母さんもあいつのせいで自殺して、私もこういうことを何度もさせられて、そのうち死ぬのよ!」
「そうか。じゃあ、始めようか」
そんなことは知らないとばかりに俺は準備を始める。
撮影道具一式で娘を映すためだ。
「お前の名前は?」
「足立レイナ」
「何歳だ?」
「15」
ぶっきらぼうに答えるレイナ。
俺は手錠を取り出すと、レイナの手足をベッドの四隅に固定する。
「抵抗しないのか?」
「抵抗したら許してくれるの?」
「俺が許してもどうせ次の客が買うだけだ」
「そうよね」
「今からどういう目に遭うかわかるか?」
「わかるわよ。あなたみたいな変態に弄ばれるのよね」
「弄ぶなんて生易しい目では済まないな」
「何ですって?」
「これは俺の復讐だからだ」
そして準備が整ったのを見たうえで、俺はスイッチを入れた。
『…がつ…にち。給食に唾を吐かれ頭から牛乳を掛けられた』
『…がつ…にち。校舎裏で3人がかりで殴られた。前歯が折れた』
『…がつ…にち。雑草を無理やり食べさせられて吐いた』
「な、何よこれ?!」
いきなり室内に響き渡る朗読の声。
読んでいるのは俺自身だ。
「これはお前の父親が小学校4年生から中学校3年生までの俺に毎日していたいじめの内容だ」
朗読は続く。俺の恨みを込めて。
「時間がかかるから、俺は向こうに行っているからな」
「や、やめてよっ!こんなもの聞かせないで!」
俺はそれに答えずに部屋を出て行った。
3時間後。
部屋に戻るとレイナは泣いていた。
「ひどい…こんなひどいことをお父さんはあなたにしてきたのね…」
そうすまなさそうにつぶやくレイナ。
「わかったわ。お父さんに対する復讐のためなんでしょう?じゃあ、私を好きにすればいいわ!それで撮影でも何でもして、お父さんに見せてやってよ!」
「そうか」
俺はさらにスイッチを入れると、壁にあるテレビに映像が映し出される。
『な、何をするつもりだあっ!』
「お父さん?」
そこに映っていたのは足立幸作だった。
『…がつ…にち。溝に突き落とされて小便を掛けられた』
『…がつ…にち。車道に突飛ばされて車にはねられた』
俺のいじめられていた記録が読み上げられるたびに、覆面をした男たちが金属の棒で奴を殴りつける。
『佐藤かっ!あいつの仕業かっ!』
『許さんぞっ!絶対に許さんぞっ!』
『やめてくれ…もう、やめてくれええ』
『助けて…死にたく…ない…』
3時間後。
奴は動かぬ骸となった。
「い、いくらなんでもひどすぎるわ!」
「どっちがだ?」
「いじめの復讐だからって殺すことは無かったじゃないの!」
「俺のいじめの復讐だけならそうかもしれないがな」
「え?」
殴っていた男たちが覆面を取ると、そのうち一人はレイナの良く知っている相手だった。
「真一おじさん!」
レイナの母親の兄だ。
「あそこにいるのはあいつのせいで自殺した前の妻とお前の母親の身内たちだ」
「そんな…」
俺が調べた真実を彼らに教え、復讐したい面々を集めて奴を拉致して叩き殺したのだ。
「隠蔽するのに結構なお金を使ったから、死体は『心臓発作』で処理されて彼らが罪を問われることも無い。この映像もすぐに消去される」
「そう…これで全て終わったのね」
甘いな。
「もう外してもらえるのよね?家に帰ってもいいの?」
「どうしてだ?まだ1000万円で買ったお前に対して何もしてないじゃないか」
「え?」
『…がつ…にち。給食に唾を入れられてみそ汁を頭から掛けられた』
『…がつ…にち。4人がかりで殴られて顔を蹴られた』
また朗読の声がする。
しかし今度は俺ではない。
「美咲?」
ピタリと朗読がやんで、物陰からノートを持った少女が現れる。
「美咲!どうしてここに?!」
「今の朗読で気づかないの?」
「…まさか?!」
「私の復讐のためよ!」
そして俺はワゴンをレイナの目の前に運んでいく。
そこにはムチやスタンガンや電気ゴテやペンチなどあらゆる拷問道具が乗せられていた。
「俺は最初、アイツへの復讐しか考えていなかった」
「お前も6年間、ずっと彼女をいじめていたそうだな。そして彼女は自殺を図った」
「でも、助かったのよ。助かりたくも無かったのに」
自嘲気味にそう言う美咲。
「だけどまさかこんな機会が与えられるなんて思わなかったわ」
ギラリとした視線をレイナに向ける。
「あなたに復讐する機会をね!」
ガタガタと震え始めるレイナ。
「わ、私も被害者なのよ!父親のせいでこんな性格になったの!だから、私は悪くないのっ!」
俺と美咲は顔を見合わせる。
「決まりだな」
「ええ。やっぱり『最初に謝らなかった』わね」
「え?」
きょとんとするレイナ。
「誰のせいにするでもなくまずこの子に謝ったなら、それなりに『手加減』してやるつもりだった」
「私もそういう条件を出されて飲んだのよ。でも、やっぱりあなたは謝らなかったわね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私が悪かったのおっ!」
しかしその叫びを無視して俺は拷問道具の『準備』を始める。
「最後に猿轡をして完成だな」
「んごーっ!」
美少女に似つかわしくない声で叫んでいるが大した声にならない。
「それはお前の叫び声を消すためじゃない。舌を噛み切れないようにするためだ」
「いっ?!」
「今からやる『復讐』は死なないギリギリでやってやるからな。そして『証拠』が残らないように、体に跡が一切つかないようにする」
そのため『専門家の指導』を1億で受けて来た。
「俺と同じくらいの朗読なら3時間で終わる。痛みで気を失っても気付け薬を用意してあるからな」
「んーっ!ひむーっ!」
必死に抵抗するがレイナはどうしようもない。
「さあ、読み上げて指示を出してくれ。お前の選んだ道具でコイツを痛めつけてやろう」
「はい」
そして復讐という名の拷問が始まった。
3時間後。
「あはっ、あははははっ…」
猿轡を外されたレイナは精神崩壊をしていて、よだれをたらしながら笑うだけになった。
「ありがとうございました。これで恨みを晴らせました」
「そうか。それは良かった」
「私はあなたにどうやってお返しをしたらいいですか?」
「お返しも何も…」
「俺はお前の父親から11万円でお前を買ったんだぞ」
「へ?」
先ほどまでの恨みの表情はどこへやら。
美咲の眼は点になっていた。
「まさか同じタイミングで売りに出されていたとは思わなかったよ。しかも『10万円から』だとさ」
「レイナは?」
「100万円からだった」
「そ、それで私は11万円で落札されたの?」
「そうだな。俺が入れたら即決だった」
「やっぱり私がブスだからなのね…」
そういうが、美咲は『地味子』なだけで決してブスではない。
すこしぽっちゃりしている普通の女の子だ。
「それにしても俺は運がいい」
「え?」
「たった11万円で1000万円以上に価値のある女の子を手に入れたんだからな」
「それってどういう…」
俺はぎゅっと美咲を抱きしめる。
「お前がレイナより価値がある女性だって言ってるんだよ」
「う…うそ…」
「そんなはずないわっ!」
突然声が上がる。
「そいつが私より価値があるはずないもの!そいつなんてただのゴミよ!カスよ!」
気が狂っていたかと思っていたレイナは必死に否定をする。
どうやらこれ以上ひどいい目に合わないために気が狂った演技をしていたのか。
「そんなことは無い。彼女は、美咲はレイナよりも素晴らしい女性だ」
「それなら…証明してみなさいよ!」
「証明?」
何をしろというんだ?
「今からどちらを抱くか決めなさいよ。もし私を選んだら抱かれてあげる。でもそいつを選んだら私は死んでやるから抱けなくなるわよ!」
「じゃあ美咲で」
「即答なのっ?!」
「うそっ?!」
選ばれた美咲も唖然としている。
「わ、私死ぬのよ?いいの?」
「父親が死んで後を追ったことにすればいいな。遺書なら用意しておいてやる」
俺は無慈悲に言い放つ。
「いやっ、死ぬなんていやあああああっ!」
結局レイナは自殺できずに帰宅したものの、その美しさから親戚で取り合いになり、彼女を引き取った叔父から性的虐待を受けることになるのだが…最後まで反省をしなかった彼女にはふさわしい末路だろう。
美咲も家に戻ったが、娘を売った父親は事実を知った母親から離縁され、彼女は母親に引き取られた。
≪エピローグ≫
俺は復讐のために培った人脈を利用して新たな会社を作った。
『IR探偵社』
これは『いじめ・リベンジ探偵社』のことであり、過去にさかのぼっていじめの調査を行い、必要であれば『復讐』の手助けをする。
足立に対する復讐に加担した『身内』たちのうち数名がその社員となっている。
復讐のためとはいえ同じ犯罪行為に手を染めたもの同士、結束は固い。
そして…
「今日からバイトでお世話になります、萩原美咲ですっ!」
高校1年生になった美咲がバイトとしてうちにやってきていた。
「んふふ。社長、お久しぶりです」
「すっかり明るくなったな」
いじめが無くなってから彼女は新たな生活を歩み直せたのだろう。
「それを言うなら『すっかり綺麗になった』と言ってほしいんだけど」
確かに地味子だったのが可愛らしい少女にランクアップしている。
「ねえ、社長さん。ところでいつになったら『約束通り』にしてもらえるんですか?」
「うっ、それはもう済んだ話だろ?」
『ここであったことを忘れろとは言わない。だが、辛くなったら俺を頼ってこい』
『それなら…今から私を抱いてください』
『こうか』
ぎゅっ
『そうじゃなくてセックスしてほしいんです』
『頭を冷やすんだ。俺もお前もな』
『俺もって…まさか?』
『こういう状況だからつり橋効果でお互いが好きになっているだけかもしれないだろ』
『わかったわ。じゃあこの次会った時にね』
「面接のときにはそんな事何も言ってなかったじゃないか」
「それは面接だからよ」
「今も仕事中だぞ」
「それなら仕事が済んだら話を聞いてください」
「仕事以外で話をする気はない」
「じゃあ、仕事が済んだら夜のバイトをさせてください」
「夜のバイト?」
「給料は『11万円』でいいですよ」
そういって美咲はにっこりとほほ笑むのだった。
お読みいただきありがとうございました!