ファーストキス
またまた俺を校舎の屋上に呼び出した小沢くんは言った。
「で、結局…猫の妖精ケット・シーは校内にいるみたい。猫化被害が頻発してるんだよ」
「えっと…。猫化しちゃったら…普通の猫と区別つくの? どうやって探したの?」
「猫化は一日…夜になると解けるみたい。だけど問題があって…」
「問題?」
「うん。体は猫サイズになるけど、服のサイズはそのままなんだよ。だから…当たり前だけど、猫は裸でしょ? それが人間に戻ると…スッポンポンのオールヌードなんだよ」
「う〜ん。ということは…。ケット・シーには、まだまだ秘密があるのかな?」
「うん。猫耳、尻尾、肉球をどうやってか、隠してるんだよ…」
天気が良く心地いい風がありポカポカだったから、小沢くんとの話が終わっても、しばらく屋上にいた。
ガチャっと、屋上の扉が開く音がして振り返ると、小林 桜が立っていた。
「あっ、ご、ごめん…。誰もいないと思ったから…」
小林 桜は、踵を返すと、屋上の扉を開け……屋上から出ようとした。
「ま、待って」
俺が男だったとき、姫と同じように桜と喧嘩した記憶がある。姫の場合は…仲良しに戻っていたが、何故か桜とは喧嘩したままだった。その理由も、過去の俺が書いた日記で知っていた。
「な、何?」
オドオドする桜。パワーバランスで言うと、姫グループのマスコットキャラである俺の方が圧倒的に強いのだ。
「ごめんなさい。謝っても許してもらえないかも知れないけど、もう一度、友達に…戻りたい」
意地を張ったりして、喧嘩したままなんて馬鹿らしい。鉄火から若菜になって、人のつながりの大切さを知ったのだ。それに、俺と喧嘩している桜の立場は、学校でも…そうとう酷いのだ。
「で、でも…。同情してもらっても…また、若菜ちゃんを苦しめるかも知れないし…」
ガッと桜を抱きしめた。自然と涙が出てくる。悪いのは俺だ。過去の俺が…姫と仲良く話しているだけの桜に嫉妬した…ただそれだけで、桜をここまで苦しめていたのだ。
失った信頼を取り戻すには、時間がかかる。それでも永遠に取り戻せないかも知れない。だけど…間違いをそのままにはできない。
「ごめんなさい。桜ちゃん…。お願い許して…」
そう、桜が屋上に来たのも、友達がいないから。友達がいないのは、俺のせいだ。俺が桜と中が悪いから…姫も口出しできなかったのだ。
「うん…。私こそ、ごめんね。でもね。若菜ちゃんは誤解してるんだよ。私が…本当に仲良くしたかったのは、姫ちゃんじゃなくて、若菜ちゃんだったの…」
そんな事を言われて、桜を見る。桜は顔を傾けてニコって笑う。ちょっとだけ背の高い桜の目線に合わせるように背伸びをすると、チュッと優しくキスをした。