零の刻-もう一つの結末-
―――――――――――校舎裏で田中を見つけた。
「田中!大丈夫!?今治癒するね!」
彼の名は田中闇刃。能力空間裂傷と、増殖を持っている。中二病患者。
もちろん、治癒の能力なんて持っていない。ただ、傷口の時間を巻きもどす事はできる。
「やめておけ……無駄だ……俺より………他の奴らの所に行け………」
「でも……!ほっとけないよ!」
「安心しろ……裏切り者は倒した………」
「裏切り者?でもまだ会長はあそこに……」
「と……!とりあえず!話は治癒しながら!」
会長とは、星光学園の生徒に怨みを持ち、自ら怪物になってしまった敵である。
「ふっ……坂本じゃない……麻生だ。」
麻生とは、麻生麻由里。5月4日、保健室で会って今は可愛い妹みたいな後輩だ。
「まゆちゃんが……裏切り者……?」
そこでふと思う。
そろそろ回復してもいいと思うが、田中はまだ苦しそう。
「だから言っただろう……?無駄だ……と……」
困惑するシュガーを他所に田中は説明を続ける。
「麻生……あいつは裏で坂本を操っていた……あいつは……自然に誘導している……つもりなのかもしれないが……俺の目は……ごまかせなかった……」
「俺はあいつと戦った……あいつに勝ったが、能力を無効化するお土産を貰っちまった……」
「俺はもう、治癒もできなければ応急処置でももう手遅れだ……」
「ハハハハハ……佐藤……もうお前が………どこにいるのかも………わからなくなってきた……もう………お前はいないかもしれないな………ハハハハハ…………」
「もし……佐藤がまだいるなら……これだけは言わせてくれ………」
「俺の真名は……シル………ス……ピダ…………………」
田中はもう何も喋らなくなった。
「知ってるよ………田中…いや、シルスピダル……僕は、君の意志……無駄にしない。」
―――――――――また、仲間を失ってしまった。
もう、仲間を失いたくない。
なら、自分が犠牲ななればいいじゃないか……
ソう、じブんノミヲすテテみんナヲたスケれバイいンだ。
無意識に会長の元へと歩いていく。
「シュガー!?危ない!!離れて!」
千花の静止も無視して、会長へと近付いていく。
会長がこちらを見たと思ったら急にお腹に痛みを感じた。
会長の鋭く長い腕に刺された。
だが、そんなことで止まったりしない。
確実に殺す。
自分の身を捨てて、
「圧縮爆発……最高出力……!」
途端に凄い爆音が聞こえ体が吹き飛ばされる。
火薬のような匂いで喉が痛い。
脳を貫くような高い音で耳が壊れそう。
そんなことを思えたのも一瞬だけだった。
真っ暗で何も見えない、何も聞こえない。地面もない。
死んだんだな……と思う。
――――――――――――――――――――――――――
忌々しいあの事件から1週間。
千花と萌は星光町の隣の町、紅鳳町に来ていた。
紅鳳町は星光町に比べ、活気のある町だ。
人口37万人。カジノやゲームセンターが並ぶ、『娯楽の町』だ。
この紅鳳町のアパートを2人で1部屋借りてバイトなどで働きながら暮らしている。
別に不満はないが、満足もしていない。
ここにシュガーがいればなぁ……と思ってしまう。
ここで普通の日常を送ろう。
だけど、星光町での事件は忘れてはいけない。
そう心に決め紅鳳町で過ごしている。
ビルについているテレビからうるさいくらいのCMが流れている。
流れていた。
テレビ一杯に表示されたのは不思議な紋章。
だが、どこか既視感がある。
5つの星に大きな鳥が書かれた紋章。
星光学園の校章によく似ている。
そう思った瞬間吐き気がしてきた。
普通の日常を送ろう。
そう思ったばっかりなのに……
もしかしたら、自分には何か死神でも憑いているのだろうか…?
テレビから男の声が聞こえてきた。
「みなさんこんにちは。開拓者だ。この紅鳳町は既に私の手中にある。
今から紅鳳町のみなさんにはゲームをしてもらう。
フフフフフフ……アーッハッハッハッハッハッハッ!」
千花は自分に絶望した。