第7話 ーーー吉川 京子の活躍ーーー
「デへへへへ…。これは…。こうして…。おぉ……」
吉川 京子は、 不気味な声を上げながら夢中でペンを走らせている。
夏に行われるイベントへ向けての創作活動中だ。
(この世界は、本当に素晴らしいのです。こんな、刺激をそそられる物が、巷に溢れてる。なんて、甘美な環境なのでありますか。
しかし、この世界の人族は、生命力がなさすぎると思います。みんな、死んだ魔獣のような目をしているのであります。
ケン殿もそうであります。幼い頃には、元気なお子だったのに、最近では、いつ見てもうつむいておられます。あの、タツミ殿のご子息とは、思えんありさま、イヤイヤ、ケン殿は、そんなことはない。
きっと、思春期というものでありましょう。
人族には、そういう時期があるとタツミ殿が言ってたであります。
あっちの世界なら、伴侶を娶る年齢なのですが、ケン殿も女子とお付き合いすれば、きっと…。
まぁー。私でよければ、いつでもケン殿のお相手をするのでありますが、ケン殿は照れ屋でありますからなぁー。こうして、こうすれば…ケン殿もその気になる……)
京子は、自分の胸に手を置いて何やらしている。
その時、9時方向に魔力の波動を感じた。
(この世界で、これだけの魔力とは珍しい。タツミ殿が何かしたのでしょうか? そんな、連絡は聞いてないのですが?)
(この魔力は、時空転移魔法?しかも、神が使う神聖召喚魔法と似てるが、まさか、勇者召喚? いゃいゃあの国は、もう大丈夫なはずだし……)
後から禍々しい感じが襲ってくる。
(この波動は、もしや!あっ!ケン殿が狙われたのか? 確か林間学校というものに出かけているはず、方向も一緒であります。ならば、少しでも干渉して、座標をずらせば……うっ、間に合わない)
京子は、杖を取り出し、真剣な面持ちで何かを唱えてる。
「ふぅーー、何とか間に合ったです」
京子は、深い呼吸をする。疲れたのか、膝を床につき脱力してる。
(タツミ殿に連絡を取らねば……)
京子は、耳に手をあて、目を閉じる。
『タツミ殿、タツミ殿!』
『あーキョンか。どうした?』
『今、時空魔法の魔力を感じたのでありますが、それがケン殿のいる方向なのであります。嫌な予感がしましたので、魔力に干渉しました。召喚位置が多少ずれると思います。多分、座標は……M225:K365:GP833 あたりであると思われます』
『あー。こっちでも感じたよ。あいつの魔力に似てた。まさかって思ってたとこだ。さすが、キョンだ。助かるよ。じゃあ、ちょっと行ってくるよ』
『いいえ、そんな。タツミ殿のためなら、こんなことぐらい当たり前であります。念のため、気をつけてください』
『わかった。サンキュー!』
連絡が切れた。
(タツミ殿なら心配ないでしょうが、こちらは、こちらで先ほどの場所に行ってみましょうか。魔力の残滓から、相手の素性がわかるかもしれませんし。現状を把握しとかなければ、手も打てませんし……)
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「ピンポーン、ピンポーン。ピンポーン」
「ドンッ! ドンッ!ドンッ!」
「ダイゴ殿!ダイゴ殿! おられますか? ダイゴ殿」
京子は、ダイゴの部屋のドアを叩きつける。
「いるわよ〜。うるさいわね〜 」
あくびをしながら眠そうな顔ででてきた。
「ちょっと、よろしいですか?」
と、言って京子はズカズカとダイゴの部屋に入ると、
「ちょっと!ちょっと!乙女の部屋よ〜。もう〜勝手なんだから〜」
「早速ですが、先ほど強力な魔力を感じたのですが……」
「あれって、たっちゃんじゃないの? 似てたから……」
「違います。タツミ殿のは、もっと、こう…。繊細なのに大胆で、豪快な感じです。あんな、禍々しく、卑しいものではありません」
「じゃあ、誰なの?この世界で、あんな魔力を使うなんて」
「召喚魔法です。ケン殿が狙われたかと……」
「えっ〜! 大変じゃない〜。こうしちゃいられないわ」
「タツミ殿には、連絡済みです。きっとどうにかしてくれるでしょう。私は、魔力の発生現場まで行ってきます。ダイゴ殿は念のため由依様と海野親子の警護を頼みたいのですが」
「わかったわ。任せて」
「では、お願いします」
「気をつけてね〜 」
「はい!」
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「えっーと、この辺りのはずですが……」
京子は、上空から魔力の発生源を探している。
杖に腰掛け、空中を飛んでいる姿は、おとぎ話に出てくる魔女そのものだ。
下を見渡すと、学生達が騒いでる姿が見える。
隠形魔法を使っているので、普通の人々には、京子が見えない。
京子は、学生達の中から、ケントを見つける。
「おぉー。ケン殿は無事でしたか。良かったのであります」
京子は、ケントの魔力がこの世界に存在していることを知っていたが、その姿を、確認するまで安心できなかった。
京子にとって、ケントは大切な存在らしい。
「でも、誰かが連れさらわれたのは、事実ですね。タツミ殿がうまくやってくれると思いますが……」
(これだけの人がいると、穏便に魔力の残滓を探せませんね。精神魔法で操作すれば容易いですが、この世界では、大事になってしまうでしょうし…。仕方ありません。夜まで待ちましょう)
すると、山の頂上付近に、魔力の波動を感じる。
(これは、タツミ殿ですね。ゲートを開いたのでしょう。行ってみますか?)
その頃、キシキ タツミは、頂上付近の東屋のベンチに女の子を寝かせていた。
「服だけは、元に戻らねぇーな。まっ、いいか!」
「タツミ殿ーー」
「おーキョン。悪かったなぁーー」
「いいえ、いいえ、容易いご用です。連れさられたのは、その女子ですか?」
「そうだ。あと数秒遅れてたら、間に合わなかったよ。ブラックウルフの群れに襲われてた。ポーション飲ませたから傷はふさがったけど、服がなぁー。キョン、何か持ってないか?」
「生憎持ち合わせが…。私の着ているもので良かったら、今ここで脱ぎますよ」
「それは、ダメだ。この世界は、科学技術が発展している。下手すりゃ、服からいろいろな情報がわかるんだぞ。面倒に巻き込まれるのは、勘弁だ」
「そうでありましたなぁー。ところで記憶はどうします」
「悪いけど、簡単な記憶操作をしてもらえると助かる。酷い目にあってたから下手すりゃ心が壊れちまうしなぁ」
「わかりました」
京子は、その女の子のひたいに手を当て、呪文を唱える。
「これで、大丈夫だと思います」
「おぉー、サンキュー! 俺はそういう細かい魔法は苦手だしな。助かるよ」
「タツミ殿は、とてつもない大きな力を持っておられます。こういう仕事は、私の役目です」
「可愛いことを言うなぁー。キョンは」
タツミはキョンの頭をシャカシャカ撫でる。
「でへへへへ……」
京子は、とても嬉しそうだ。
「 付与魔法を施した、名刺を挟んでおいたから、何かあったら訪ねてくるだろう。細かい話はまた今度と言うことで、俺は、まだ、やることがあるから任せてもいいか?」
「はい。お任せください。それと、ケント殿に会わなくていいんですか?近くにいますよ」
「あいつは、俺の事嫌っているからなぁ。それも、また今度だ」
「わかりました」
京子はどことなく寂しそうだ。
「おっと、誰か来たみたいだ。行こう、キョン」
「はい。ご主人様、じゃなくって、タツミ殿」
二人は、この場から去るのでした。