表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の星渡し」(かつて勇者と呼ばれた男 その息子の道程)  作者: 聖 ミツル
第1章 現世界編
6/78

第5話 ーーーコスプレ美少女二人とケントそしてーーー

 





 一瞬、時間が止まったような感覚だった。


「親父……」


 声が出てたかわからない。


「えっ?」


 シラトリさんがさらに詰め寄ってくる。


(近い、近い、顔がちかい)


「親父です。キシキ タツミは、俺の父親です」


 うまく言葉になっていたかわからないが、多分相手に伝わっただろう。

 その証拠に、

「キシキ君のお父さんなんだってーー」と、アマカワさんに話しかける声が聞こえる。


「お父さんと連絡取りたいんだけど、今日は何時頃、帰ってくるの?」


(そりゃそうだろうな。慰謝料の話とかあるもんな)

 

 と、完全にあのダメ親父を犯罪者扱いしながら


「ほとんど、家には帰ってきません。連絡もこちらかは取れないんです」


 本当のことを話す。あのダメ親父の悪口だと思ったら、言葉がスラスラ出てきた。


「そんなわけないでしょう。あんたのお父さんさんなんだから。連絡先ぐらい知ってるでしょ」


 いつの間にか、「あんた」呼ばわりされている。普通ならそうなんだろう。


「ほんとなんですよ。あのダメ親父 、親父ときたら、この間、帰ってきたのは、年末だし、連絡も一方的にメール送ってくるだけだし、いい歳してフリーターだし、ほんとあの親父ときたら……」


 親父を思い出したら、腹が立ってきた。そんな俺のことを見てさっしたのか、


「なんかあんたも苦労してんのね」


 と、同情されてしまった。

 何やら、二人でゴショゴショ話してる。


 周りをから見たら異様な光景だろう。痛いコスプレ少女二人に詰め寄られている、オドオドした少年。

 ダイゴさんや京子さんに見つかったら、どうなることか…想像したくない。


「あんた、ちょっと相談があるんだけど、時間いいよね」


 シラトリさんの矛先がこっちに向いた感じだ。

 親父と連絡取れない以上、その息子に話をつけるのは間違いじゃない。

 家には、ばーちゃんがいるから、心配させたくないし、さすがに、立ち話じゃすみそうもない。


「ちょっと来て」


 いきなりシラトリさんは、俺の制服のネクタイを引っぱりながら、どこかに連れて行こうとしている。


「リリナ、やめなよ。キシキ君に迷惑だよーー」


 アマカワさんの声が聞こえる。常識のある人のようだ。

 暴力的なシラトリさんとは違うのかもしれない。


「わかった。わかった。近くにファミレスがあるから、そこで話をしよう」


 このままじゃしょうがないので、提案してみた。


「じゃあ案内して」


 有無を言わず、案内させようとするシラトリさんは、さしずめ奴隷のご主人様のようだ。


 こうして、俺は、痛いコスプレ美少女に連行されるのであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




  ファミレスでは、一組の座席が異様な雰囲気をだしていた。

 楽しそうにメニューを見ながら、話をしているコスプレ少女と根暗そうな少年の組み合わせだ。


 周りの冷たい視線には慣れているのだが、ケントはこの二人のその格好にはどうしてもツッコミたい。趣味なのかどうなのか疑問がわく。


「ちょっといい? 何でそんな格好をしてるの?」


 つい、いたたまれず話かけてみた。


「あっほんとだ。忘れてた」


「やだー。恥ずかしい」


(忘れてたんかい!)


 脳内でツッコミを入れる。

 コスプレ衣装を 脱ぐと、やはりこの二人は綺麗だ。さっきまでとは雰囲気が違う。

 それに、「忘れてた」ということは趣味ではないようだ。


「これは、変装よ!変装。名刺の人がどんな人かわからなかったから……」


 シラトリさんが照れながら言い訳してる。何だか小動物みたいだ。


(どんな人かわからない?二人は、親父に会った事がないのか?)


「じゃあ、二人は親父を知らないの?何かされて、責任とれとか、慰謝料の請求とかじゃないの?」


「何言ってんの、あんた。 バカじゃない? 知ってたら、あんたのとこくるわけないじゃん」


 シラトリさんは容赦がない。


「違うの、キシキ君。ちょっと聞きたい事があっただけなの」


 アマカワさんがフォローを入れる。


「ちょっと、そんな言い方やめなよ」


 アマカワさんがシラトリさんをたしなめている。


「わかったわよ。わかった」


 シラトリさんは、きっと反省してないだろう。


 とすると、二人は、親父のことを知らない、会ったこともない、でも、連絡が取りたい、ということなんだと思う。

 あのダメ親父が犯罪を犯した、というのは、この二人のやり取りから俺の勘違いらしい。

 最悪の事態は回避された。


「ふぅー、 よかった」


 ケントは、安堵とともに疑問がわく。


「じゃあ、何で二人は親父と連絡とりたいの? 親父の名刺はどうしたの?」


「それなんだけど……」


 シラトリさんはアマカワさんの顔を見ながら、「いいよね」みたいなことを言ってた。



 ここからが、話の本題らしい。



 どれくらい時間が経っただろう。注文したドリンクバーのジュースは、底をついていた。

 窓の外には、買い物袋を下げた大人たちが行き交っている。

 空いていた店内の席も程よく埋まってる。


 二人の話は、林間学校の事件から発し、これまでの体験を包み隠さず教えてくれた。結構、辛く、重い話だ。

 俺は、この二人の体験の中で親父がどのように関わっているか、さっぱりわからない。

「とにかくあのダメ親父と連絡をとらなければ……」と思うようになっていた。


 すると、俺の後ろの席から、不意に話しかけられた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「悪いとは思いましたが、話を聞かせてもらいました」


「えっ! 京子さん!」


 見られたくない人に見られたショックと突然の出来事で、俺の口は開いたままだ。


「えっ〜と、どうしてここに……?」


「ずーっとここにいましたよ。ケン殿が入ってくるのが見えたのですが、お連れがいたようなので、声をかけなかったのであります」


「キシキ君の知り合い?」


 二人も驚きながら聞いてきた。


「ううん、えーと 、そのーー」


 ケントがゴニョゴニョつぶやいていると、


「自己紹介がまだでしたね。私は、ケン殿の隣に住んでます吉川 京子というものであります。ケン殿が産まれた時から知っている、言わば、お姉さん的立場のものであります」


「はっ初めまして、私は、キシキ君のクラスメートでアマカワ コトミと言います」


「私は、シラトリ リリナです。同じクラスメートです」


「これは、これは、お二方とも綺麗な方でありますね。ケン殿、青春ですなぁーー」


 京子さんの攻撃が始まった。これからどうなるか、考えるだけでも胃が痛い。

 京子は、そそくさとケントの隣に座った。


(肘で俺を突っつくのは、やめてくれ!)


「キシキ君、ケン殿って呼ばれてんだーー」


(アマカワさんのツッコミが怖い)


「ケン殿って、ケン殿って」


(シラトリさん、含んで笑うのはかんべんしてくれ)


「先ほどのお話の件なのですが、私なら協力できるかもしれません」


 京子さんが胸に手を置き自信ありげに言っている。


「ほんとですか?」


「キシキ君のお父さんと連絡とれるんですか?」


 二人は一筋の希望を見出したように、前に乗り出す。


「はい。本当であります。タツミ殿は、現在遠いところに行っており、直ぐというわけにはいきませんが、連絡先は心得ております。それと、アマカワ殿の不気味な声の症状も、何とかできると思います」


(何で、息子の俺より京子さんの方が親父の動向を知っているのか、思いっきりツッコミたい)


「声のことも何とかできるんですか?」


 シラトリさんは驚いたように聞いた。


「はい。今は持ち合わせがないのですが、帰りにでも私の家に寄っていただければ魔具、いや、お守りみたいのがありますので、それを身につければ、多分大丈夫です」


「よかった」とシラトリさんは自分のことのようにホッとする。


「京子さんは、キシキ君のお父さんと仲がいいんですか?」


 アマカワさんがいつになく積極的だ。


「タツミ殿とは、苦難の冒険を乗り越えた同志であります。あの頃のタツミ殿はすごかったです。まぁ、それは、今も同じですが」


 京子さんは過去の記憶を辿りながら懐かしそうに空間を見つめる。


「キシキ君のお父さんは 冒険家だったのかーー。言ってくれればいいのに」


 アマカワさんは、「何で言ってくれないの?」みたいな視線をケントに送る。


 俺だってそんな事実初めて知った。京子さんにいろいろ聞きたいが女子の会話に入ることができない。

 そういえば、俺は親父のことを何も知らない。ほとんど家にいなかったから知る必要もなかった。いつも突然帰ってきては、いろいろ問題を起こすダメ親父で悪い印象しかない。


 親父は、別次元の人だと思っておけば、自分の心を搔きむしられることもなかった。


 でもこれで、この二人の問題は解決できそうだ。

 京子さんにはマジ感謝しなければならない。

 これで、俺も平穏な生活に戻れそうだ。


 女子達は会話に花が咲く。


 俺のスペックでは、これ以上は無理だ。

 そうだ、ジュースのおかわりをしよう。

 ケントは、おもむろに席を立つのであった。


「ケン殿、私は、野菜ジュースを」


「キシキ君、私は、オレンジジュース」


「コーラでいいわ」


 ケントは、脳内でツッコミを入れる元気も無い。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ