第2話 ーーー不審者、ストーカー、それともーーー
四月の下旬には、この高校恒例の林間学校の行事も終わり、手探りだったクラスの雰囲気もそれぞれの立ち位置を確立させて
落ち着き始めている頃、キシキ ケントは相変わらずだった。
林間学校では、クラスの女子が山登りの途中で行方不明になって、一時騒然としたが、頂上付近の東屋で、気を失っているところを無事保護され何なきをえた。
不思議な事に、その少女の服には血があちこちと着いており、ところどころ獣に噛み裂かれたところもあったが、少女に外傷はなく記憶もおぼろげだったらしい。
そんなことが起きたので、クラスの話題は、その少女のことが中心だった。
誘拐されただの、神隠しだの、キャトルミューティレーションされただのオカルトまがいの言葉が飛び交っていた。
話題の一端はそれだけでなく、その少女が、校内レベルで1、2位を争う美少女だったことも災いした。
確かに、アイドルといってもおかしくない黒髪ロングの可愛い子だが、話題にされている事に気を病んでいるのか、大人しい
印象を受ける。
その美少女の親友らしきこれまた美少女が、
「いい加減にして!コトミは被害者なんだから、空気よんでよ!」
クラスのみんなを一括したので、話題は段々と影を潜めるようになった。それでも、今度は「誰彼が告って玉砕した」だの「嫁にしたい」だの「叱られたい?」だの、二人の美少女の人気は高まる一方だった。
ケントは、無関心でいた。失踪に関して興味がなかったとは嘘になるが、そもそも自分とは違う人種だ。二人とも甲乙つけがたい 美少女でしかも、話題性もあるといったら、どんなけ目立つか。
関わったら、後でどんな目にあうか…経験上、 男子の妬みや、嫉妬はある意味女子以上の怖さがあるとケントは知っていたので
とにかく、無難に過ごせれば良いと本気で思っていた。
(健全な高校生がそれで良いのか?)
一般的なことはこの際どうでもいい。こっちは見た目がアレなのだから目立たず、 無難に、無難に……
お経のように心に念じ、ケントは空気と一体になろうとしていた。
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ある朝、いつものように隣のアパートの住人達との不毛なコミュニケーションをとった後、学校へ通うべく歩いていたら、背後に妙な視線があるのに気づいた。
(これは、あれかな? また、いつもみたいに怖い人たちに目をつけられたかな)
(中一の時のように、焼きそばパン買いに行かされるのか?)
(それとも、中ニの時のように、体育館の裏でボコられるのか?)
思い出したくない、記憶が走馬灯のように山ほど蘇る。
因みに、過去のイジメは、頼んでもいないのに、ほとんどダイゴさんの介入で無理やり解決してる。
(違う意味で、危ないやつだと認識されたが……)
(これ以上、面倒ごとに巻き込まれたくない)
と、思っていたケントは、歩く速度も、早くなる。
(とにかく、学校へ行って様子を見よう)
ほとんど走っている状態で学校に着いた。
背後の視線は、消えていた。
午後の授業が始まり、ケントは、朝の視線のことを考えていた。
(なんか、これまでとは違うような気がする)
以前なら、遅くとも昼休みには接触してくるはずなのに、今回の奴等は視線に卑しい人間の放つ冷たい悪意を感じがない。
しかも、なんか戸惑っているような、感じがする…。
それに、今も視線がケントに送られている。
(このクラスの人間なのか?)
視線は、周囲に二つある。
迎えられる視線だけで、ここまで判断できるとは、ケントのスペックが地味に高い。
(称号 視線マイスター を獲得した。だな)
厨二病ヨロシク、恥ずかしさがこみ上げる。
クラスの中に感じる視線をケントは、どうにかするつもりはない。
無難に過ぎ去ってくれることを願うばかりだ。
あくまで、無難にだ。
この高校の部活の加入は、入りたくない人は、入らなくてもすむというとても、ケント好みなので気に入っている。
もちろん、ケントは帰宅部だ。授業が終わり、ケントの班が今週の掃除当番なので、地味にそそくさとこなしていく。
「あいつ、なんかキモいよな」
「オタクなんじゃねーの」
(おいおい、聞こえてるぞ!本人近くにいるのに、普通言わねーだろ)
(よし、あいつは、いつか殴ろう)
気を取り直して、掃除を仕上げ、帰路につく。
(帰りは、視線を感じないな)
良かったと胸をおろし、家の側までくると、いかにも怪しい二人組が俺の家の前でウロウロしている。
(なんだ、あれは。名探偵コ〇ンくんか? もう一人は、トンボメガネのサングラスに、チューリップハット。あんなサングラスと帽子どこで売ってるんだ)
ケントは、妙なところが気になる。
落ち着いて、よく見ると、うちの高校の制服着ている。
(スカートを履いているから女子だと思う)
スカートを履く妖怪が知り合いにいるので、取り敢えず性別は疑わないと気が済まない。
物色するように家を覗き込む二人は、れっきとした不審者だ。
(警察に連絡しよう…うん。そうしよう)
一人で自問自答をしている時に、不審者の一人が俺を見つけた。 携帯に手をかけると、相手の一人が近寄ってくる。
名探偵コ〇ンくん登場だ。
「キシキ君だよね。私、同じクラスのシラトリ リリナ」
「えっ!」
ケントは、手を滑らして携帯を落としてしまった。
「キシキ君に話があるの」
シラトリ リリナの視線に、覚悟みたいな意思が見受けられた。トンボメガネ、チューリップハットさんは、うつむいたままだ。
きっと、アマカワ コトミだろう。
「この名刺のことで、聞きたいことあるんだけど」
その手には、あのダメ親父の名前が書かれた名刺を持っていた。
(あいつ、何やったんだ。 女子高生に手を出したのか?しかも、うちのクラスの女子に……)
(不審者と思ってたら、こっちが加害者の家族でした。なんて笑えない)
「吉敷 辰巳ってあなたの何? どんな関係?」
シラトリ リリナが鋭く詰め寄る。
(あぁーチェックメイトだ。取り敢えず、あのダメ親父を殴りたい…)
ケントの放課後は、鉱山奴隷の過酷さだ。精神的に…。