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「神の星渡し」(かつて勇者と呼ばれた男 その息子の道程)  作者: 聖 ミツル
第1章 現世界編
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第1話 ーーー吉敷 牽斗《キシキ ケント》という少年ーーー

 





 ケントは、いつもどおりの朝を迎える。目覚まし時計は、6時を指していた。

 眠い目をこすりながら、そそくさと着替えをすませ、ばーちゃんの作った朝食を平らげる。

 

 ケントの家族は、ばーちゃんと父親の3人家族だ。母親はいない。

 ケントが3歳頃まで一緒に住んでたらしいが、出て行ったらしい。

 理由を聞いたが、いつもはぐらかされていた。


 母親は、外国の人らしいが、日本の文化に合わなかったのだろうと自分自身の気持ちに折り合いをつけている。


 時々、夢で母親の優しい温もりを感じる時がある。とても、穏やかになる瞬間だが、眼が覚めると、淋しさがこみ上げてくる。


 ケントは、母親の遺伝子を色濃く継いでいるようだ。

 顔立ちは、イケメンというほどではないが綺麗な印象を受ける。

 髪は、薄茶色だが、 見方によると蒼く見える。瞳も同じだ。

 不思議な色合いを呈している髪と瞳は、周囲の人たちに注目される。


 小さい頃から、その見た目とケントの持つ独特の雰囲気に周りの子達はケントに対して途惑う気持ちが湧くらしい。

 良い感情を向けられるより、悪意を感じる方が多かった。


 立ち向かう勇気が少しでもあれば、少しは現在の状況が改善されていたのかもしれないが、それは、後の祭りである。

 そのため、ケントは、ボッチ街道をひたすら走っている。


 今でも、同年代の人と話すのは苦手だし、見た目も顔を隠すように、前髪を伸ばし黒縁の伊達メガネをかけている。

 マスクもつければ完璧だ。

 防御力はきっと高いだろう。

 髪の色も黒く染めようと思ったが、母親との絆が絶たれるようで、それだけはしないでいる。



 父親は、吉敷キシキ 辰巳タツミという。

 これが、どうしようもないダメ親父で、いつも家にいない。

 子育ては、ばーちゃんに頼りっぱなしだ。


(40過ぎでフリーターって、どんな思考してんだ。まともな定職につけよ)


(子は親を選べないとは、よく言ったものだ。先人達も苦労したんだな……)


 妙なところで納得している。

 ダメ親父への悪口は尽きることない。

 でも、ばーちゃんの前では、自重している。


(俺にとっては、ゴミダメカス親父でも、ばーちゃんにとっては、いつまでも可愛い子供らしいからな……)





 ーーーーーーーーーーーーーーーー




 食後は、 ダメ親父が所有する家の隣の賃貸アパートの掃除が朝の日課だ。

 2階の通路を掃き、1階へといつもの手順で仕事をたんたんとこなしていく。

 今日は生ゴミの日だ。アパート前のゴミ置場に先ほど掃除してでたゴミを袋に詰め込んで出す。


「あら、ケンちゃん おはよ〜〜ん」


「あっ、ダイゴさん おは……」


 いきなりダイゴが抱きついてくる。


(くっくるしーーぃ)


「ルミちゃんって呼んでって言ってるでしょ〜〜ん」


「わっ、わかりました。ル……ダイゴさん」


「ほんとに、も〜〜う、タッちゃんに似て強情なんだから〜〜」


 たっちゃんとは、あのダメ親父のことである。

 さらに力を入れ、キスをせまってくる。


(お、お酒臭い)


 夜のお仕事の帰りらしい。

 身をよじって、抵抗するもダイゴは、背も高く筋肉モリモリのマッチョだ。

 逃れるすべもなく頬っぺに熱い唇が押し付けらそうになる。


(なんとか死守しなければ……、キスの相手がダイゴさんなんて死んだ方がマシだ)


「ダイゴ殿、ケン殿が嫌がっておりますよ。でも、こっこれは、これで、なんとも.....ハァー 、デヘヘヘ........」


(とっ止めてくれるんじゃないのーー)


 声をかけてきたのは、アパートの2階に住む吉川 京子だ。

 ゴミを出しにきてこの現場に遭遇したらしい。

 因みに、真性の腐女子だ。

 この惨状は、京子にとって朝ごはんがわりらしい。

なんだか、身悶えている。


「ダメですよ。ルミさん。ケンちゃんの同意なしにそんなことしては」


 間に入ってダイゴ の暴挙を止めてくれたのは、アパートの1階に住む看護師の海野 幸枝だ。

 見かけは、大学生にしかみえないが、これでもアラサーの子持ちでシングルマザーだ。苦労人なのに、持ち前の明るさで、そのような雰囲気をまとわせない。


「キスしてる〜〜。ケン兄ちゃん、キスしてたの? ねーーキスしてたの?」


 大きな声で騒いでるのは、幸枝さんの子供だ。幼稚園年長組の可愛い幼女である。


「ミキちゃん声でかいよーー、ご近所に誤解されたらーー」


 優しく、そして、諭すように言葉をかける。


「ケン兄ちゃんは、男の人が好きなの?」

 

 幼女の言葉は、ど直球だ。

 京子さんの動きが、スライムみたいに激しい。


「そんなことはないよ。僕は、女の人の方が……」


「あら〜〜、ミキちゃん、私は女よ〜〜。ミキちゃんと変わらない純粋な乙女なのよ〜〜ん」


「ひっ!」


(ミキちゃんが怯えているじゃないか。いたいけな幼女に何を言ってるのだろう?)


(天と地がひっくり返るってもそんなわけ無い 。ミキちゃんの爪の垢でも飲んで、更生してもらいたい。できれば、殴りたい)


「三角関係?ミキちゃんを入れると四角……ふっ……修羅場、修羅場……デヘヘヘ……」


(京子さんが身悶えてながら、何か言ってるが聞こえないふりをしよう)


(これだから、ここの掃除は嫌なんだ。主にダイゴさんが、あっ京子さんは、空気だから……)


 海野親子は、1年前に越してきたばかりだ。

 まともな人が入居してくれて 喜んだのを今でも鮮明に思い出せる。




 このアパートにいるダイゴさん、京子さんはケントが産まれる前からここに住んでいる知り合いだ。ほとんど、家族同然といってもいい。


 因みに、 このアパートの住人は、みんなダメ親父の知り合いらしい。


(どうしたら、ダイゴさんや京子さんみたいなのと知り合いになれるのか?)


(類は友を呼ぶ、ということなのだろう)


 あのダメ親父の顔を思い出したら、妙に納得できる。


 6世帯入るアパートにこの3組しか住んでいない。


(このメンバーじゃ仕方がない。でも、海野親子は別だ )



「ケンちゃん、明日高校の入学式でしょーー」


「そうですよ。でも、すぐ近くだから今までと変わりないです」


「入学式、付いて行ってあげようか?」


(幸枝さんは、優しいーー)


「ママー。明日仕事でしょーー」


 ミキちゃんのツッコミ。


「そうだったわーー、残念 」


(あげておとすって……幸枝さん……)


「じゃールミ( ダイゴ ) が行ってあ・げ・る……」


「結構です。お気持ちだけ頂いておきます」


 即答した。


「ケンちゃんのイ・ケ・ズ……」


「ショタがいっぱい……入学式……入……」


「ドバァーー!」


 京子さんは、自己崩壊した。18禁レベルで


 俺が、残念ハーフ ボッチ(妙な称号つけるな)でも、

なんとかこの歳までやってこれたのは、このような人々が

近くにいてくれたからだと思う。感謝はするが、


(まともな人達なら良かったのに……)


と、思わずにはいられない。


 朝からHPが底をついた。回復は難しい。


(ポーションどこかに売ってないかなーー)




 ケントの朝は、いつも迷宮最下層レベルだ。






 

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