ーーープロローグーーー
琴美と莉里奈は幼馴染だ。
この春、同じ高校に入学したばかり。
この高校では、入学早々、人間関係構築と称した林間学校の課外行事がある。 創立以来続く伝統行事らしいが、2日目の山登りが結構きつい。
「もう足が疲れたーー」
リリナは、体力はあるが山登りは苦手らしい。
「私も、無理 」
コトミも根をあげている。
「まだ頂上まで半分よ。しっかりしなさい」
担任の若林先生が、水をがぶ飲みしながら指導している。
「先生、説得力なさすぎるよ」
「可愛い顔が台無しだよ」
確かに、若林先生は、可愛い先生だ。20代半ばだというのに、同じ歳ぐらいしか見えない。 本人は、その事を気にしてるらしい。いつも不釣り合いなスーツを着ている。
でも、今日はジャージ姿だ。山登りにスーツはさすがに着れないだろう。そのせいか、いつもより3割増しで幼い。
(私も年かな、3キロも太ったし…でも高校生に負けてられないわ...…)
ブツブツ何か言っているが、先生の名誉の為、スルーしておこう。
四月中旬だというのに今日の日差しは真夏並だ。
木々はまだ蕾のままで葉を身につけてないものもある。
鬱蒼とした感じは無く、登山道も初心者が安心して登れるように整備されている。
この中腹地点の休憩場所からは、勾配がきついらしい。
「ここで終わりでいいじゃん。もう戻ろうぜ」
「そうだよ。やってらんねーよ」
「ここで飯くって帰ろうぜーー」
やる気のなさそうな男子生徒達がさわいでいる。
「そんなこと言わないの。頂上でお弁当食べた方が気持ちいいでしょ。それにここには、お弁当がありません。他の先生が頂上まで車で運んでくれるんだから」
「チェッ!車かよーー」
「楽してんなーー」
余計に騒がしくなった。
(本当にもう、近頃の高校生はーー)
先生がまたブツブツ言いだした。
「あれ、コトミ、靴ひもほどけてるよ」
「本当だ。ありがう」
コトミは、くの字になってた靴ヒモを結び直す。
反対側も解けそうだったのでついでに結び直しておく。
「手が汚れちゃったから、洗ってくるね」
「私も行こうか?」
「ううん。大丈夫 」
コトミは、水道のあるとこまで歩き出す。
その時、
「何あれー!変な雲 」
女子生徒が山の頂上を見ながら叫びさだす。
そこには、確かにこの晴天には似つかわしくない薄暗い雲が渦を巻いていた。
コトミは、みんなが騒いでるのを聞いていたので、一目見ようと振り返った。
しかし、バランスを崩したのか、足下がふらつき、近くにあった50センチぐらいの石に手をついてしまった。
『 見〜つ〜け…た…』
突然、コトミの頭の中で、地の底から這うような言葉が広がった。
恐怖で身体が動かない。
すると、突然、足下が赤く光った。
コトミは、この世界から消えていた。