二枚目
まず場所を確認しましょう。僕の学校は割と歴史のある学校で「伝統」って言葉が集会のたびに出てくるようなところでした。もちろん覚えていますよね。
一年のころの話とか、二年のころの話とか、そんなのは今回の話には関係ないのでここには書きません。きっと未来の自分が一年のころや二年のころで覚えていることがあるなら、それは大切な思い出なのだと思います。そのまま忘れない方がいいと昔の僕は思いますよ。
さて、話をもどしましょう。さっき書いたことからもわかる通り重要なのは三年生になってからの話です。一応三年のクラスは五組だったんですが覚えているでしょうか。五組は三階の廊下の真ん中にある教室でグラウンドに面していて、今回語る出来事の始まりの日もそのグラウンドから運動部の声が聞こえていたと思います。
思い出せないなら、想像してください。夕日が差し込む教室に、自分一人。外からは運動部の「ファイト」とか「いっちに」とかが聞こえてくる、そんな光景を。多少美化されてもいいと思います。思い出なんてものはそういうものだってよくお母さんがこぼしてましたから。ちなみにそのクラスの人数は31人です。想像の参考にしてください。
その教室で一人だった僕は、なんとなく普段できないようなことをやってみようと思いました。今思うと本当にしょうもないことです。今の僕ですらそう思ってるんですからもしかしたら未来の自分はもっとその思いが強いかもしれません。
何をしたかというと、僕は教卓の上に立ってみたのです。そこから見下ろしたら三年になってからもほとんど変わらない教室が少しは変わって見えるかもとか、確かそんなことを思っての行動でした。結果は多少の新鮮さが感じられたくらいでしたけど、問題はそのあとのことです。
覚えていますか? その学校の教室には左斜め前、黒板の左側に収納式のスクリーンがあったんです。結局卒業まで一度も使わなかったそれは収納時四角い箱のようになっていて天井につるされていました。僕は教卓の上に立ったときその四角い箱の上に何かがあるのに気づいたんです。そのまま自然に僕はそれを取ってみようと思い立ちました。
教卓を近づけて、もういちどその上に乗ることでそれをはっきり視認することできました。今の僕はそれを最初に見たとき結構驚いたのを覚えています。なんてったってそれはテープで固定されていたんですから。しかも変色していてなんだか古めかしい感じがしました。明らかに人為的なそれに僕はなんだかワクワクしていました。
テープで固定されていたのはお守りでした。何のお守りなのかはその時はまだわかりませんでした。それでもお守りだとわかったのはそれに「お守り」と書いてあったからです。
今もそのお守りは僕の手元にあります。未来の自分もまだ持っていてくれないと昔の僕的には大変困るのですけど、ちゃんと持っていますか? なくしたなんてことがないことを祈っています。
それで、僕はお守りを握りしめたまま教卓を降りて、その教卓を元の場所に戻そうとしました。
前置きが長くなってしまいましたが最も重要なのはここからです。
僕は教卓をもどそうとして視界の隅に何かが映りこんでいるのに気が付きました。いつの間にか教室の中に女の子がいたんです。その子は窓の外をじっと見つめていたので僕に気づいている様子はありませんでした。この時のことは割と衝撃的だったので今の僕ははっきりと思い出せます。
お守りを握りしめて、僕はすぐにおかしいと思いました。その子の着ていた制服は僕の見たことがないものだったのです。しかも変な行動をとっていたであろう僕のことを少しも気にかけていませんでした。なんだか背筋が冷たくなって、僕は急いで教卓をもどして鞄を担いで教室から出ました。最後まで彼女は窓の外を見ていたのを覚えています。
帰り道でお守りを握りしめたままだと気づきましたが僕はそのままそれを鞄の中に入れて帰りました。このお守りをどうするかは帰ってから決めようとその時は思っていたと思うんですけど、そのあと僕はそのこと自体をすっかり忘れてました。
始まりの日の話はこれで終わりです。翌日学校に行って彼女がほかのみんなには見えていないようだということや、彼女の着ていた制服は昔のその学校の制服だったとかいう事実から僕はその女の子を幽霊と結論付けました。
次の話は彼女を観察していた時のことです。今思い返すと相手が幽霊じゃなかったらストーカーです。幽霊でもストーカーかもしれません。
では、自分が幽霊をストーカーしているところを目の当たりにする覚悟をしてから次の紙を見てください。