91話 人工生命体
「曾爺さんが、813号?」
──どういうこと、どういうこと?
アレックスがパニクっている。無理もない。
[ああ、うるさい。俺に任せろ!]
アレックスの意識が引っ込んだ。
「そうか。我がサンプルの生殖が成功したわけか。何例目かね、アリシア君?」
「6例目です、教授」
「喜ばしいな。アレックス君だったか。君は超越者なのか? 1つ肉体の中に2つの人格があるようだが」
あっさりバレてるし。
「いいや、このアレックスは、転生者が乗っ取っているが、超越者ではない」
「先生!」
「ああ、アレク。このアイザックに隠し事は無駄だ。関心を持てばの話だが。超越者の中でも、特殊なやつだからな」
むうぅ。やはり、この男も超越者か……。
「そうか、迎魂の儀をやったのか。思い切ったことをするな。ランゼ」
「ふん。あなた程ではないよ、アイザック。このアレックスとアレクには、大体のことは教えている」
「そうか、目を掛けているのだな」
「ああ、ええと。俺も発言良いですか!」
「構わないぞ」
「曾爺さん……813号は、ここで生まれたのですか?」
「そうだ。私が人工交配して生み出したのだ」
くう。やはりそうか。
曾爺さんより前の系図もなく、ありがちなハーフエルフの孤児と無理矢理納得はしていたが。真相はこれか。
「曾爺さんは、自分の子孫を残すことに異常な程、執着があったと訊きましたが」
「それは、ここを出て行く代わりに、任務として与えたことだ……813号と言えば、外に出てから一度戻ってこなかったかね? アリシア。いや、あれは645号だったか?
」
「アイザックは、自分の研究以外に余り関心が無くてな」
俺にだけ聞こえるような声で、先生が言った。ああ、分かる気がする。ずっと大学に残った研究員に似ている。
「いえ。813号で合っていますわ、教授。ほら、綺麗な身形で戻ってきた彼に、自分の子供が早死にすると訴えられ、教授は自分と同じハーフエルフではなく、人族を娶る方が良いと助言されました」
「ふむ。そうだったかな……余りよく憶えていないが」
「それが良い結果をもたらしたと言えましょう」
「ところで、教授の研究内容を聞かせて下さい」
「人工生命体に、3代以上続く生殖が可能かどうかというの命題だよ、アレク君。無論生物同士を掛け合わしただけのものは、私の定義では人工生命体とは呼ばない」
凄いことをあっさり言うなあ、この人。
前世の世界なら、極端な倫理問題になる。生き物が、別の種を作って良いのか?
神の所業の領域に踏み込んで良いのか? ……だが、この世界では違う。
「ところで、気のせいかも知れませんが、あなたは我が祖父に似ている気がするのですが……」
「ああ、813号……いや、その辺り、8百番台の前半の世代サンプルには、私の最後の肉体の遺伝子の一部を与えたからな。君は、813号にとても似ているし、ある意味では私の子孫ともいえる。まあ1%も遺伝子は残っていないと思うが」
何だ、このもやもやとした気分は。
いやいや、倫理観などここでは意味を成さない。先生で慣れてきたではないか。
「それで。教授は、ここで何をやっているのですか? 後に並ぶ保育器には何も入っていないようですが」
「ああ、もう何もしていない、研究はやめた。私の理論は証明できたからな。だから必要が無くなった肉体を捨て、思念体となったのだ」
「思念体?」
「俗に言う魂というか霊体だな。あとは、自然に還れば良いと思っている」
「教授!」
「腑抜けおったな、アイザック……と、言いたいところだが。前から変わらぬな」
「そういうことだ」
この人が、俺の……いや、アレックスの高祖父ねえ。
「時に、この仔。アレックスと言いましたか? ランゼ」
「そうだ。アリシア」
「あなたが育てたのですか?」
先生は、こちらを見た。
「育てた、とまでは言えぬな。家庭教師と魔法指南をやったに過ぎぬ」
「見たところ、魔力もかなり強い。法力も、恐いぐらいありますが。流石はリュ……」
「アリシア!」
突然教授が声を荒げた!。
この女。今、何を言い掛けた? リュ?
アイザックという超越者は、なぜ止めた。
「もう、それぐらいにしておけ」
「はい。教授……」
「わかった。我らも帰るとしよう。いくぞ、アレク! ……アレク?」
「最後に1つ。我が家が6番目の成功例と言っていたが、他の5例の者も、外に?」
「ああ、ここから巣立たせた」
「……了解した」
俺と先生は、無言で遺跡の屋外に出た。
「アレク。掴まれ」
「いえ、1人で帰ります」
「……そうか。ではな」
先生は音も無く舞い上がると、視界から消えた。
ふう…………。
[アレックス!]
──レダが、可哀想な境遇と思ってけれど。私も一緒だったとはね。
[良いじゃないか。別に。子供も作れるようだし]
──アレクは、切り替え早いね
[まあな、免疫ができてるからな]
──女の勘なんだけどさ……
誰が女だ! 誰が!
──先生、あのアイザックってヤツを好きだったよね。だから、私達を
[アレックス! 人には知らない方が良いこともある]
──うん。 歩いて帰るの?
「飛んで帰る」
─ 翔凰 ─
ふー。一発で成功したか。
おっ、おおーーーー。
舞い上がったは良いが、右に流れた。
やばいやばい。
急降下のあとは急上昇!しながら軸回転した
──こうだよ、アレク!
おお、急に安定した。
なるほどな。急に加速度を加えてはいけないってことだ。
翼がないのに、重力に打ち勝って飛んでいるのは、魔法で上昇力を作っているからだ。しかし、復元力がないから、しっかり重心を通さないと回ってしまう。
[ああ、段々わかってきた]
いつの間にか、森や丘陵を過ぎ、月夜に照らされた人家が目立つようになってきた。
──ちょ! ちょっと! アレク!
俺は着衣を全て、魔収納へ入れ……。
ザァァアンーーー。
頭から湖水に突っ込んだ。
フィィィィ。気持ちいい。
クサクサしていた気持ちが霧散した。全身の力を抜いて仰向きに浮かぶと、自分が作った波に揺らされる。
「ははは…………あはははぁぁ。月が綺麗だなアレックス!」
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