86話 迷宮と視線
「ヤァァー!」
おおぅ。かっこいいな、ゾフィ。
遺跡地下第1階層で、槍を縦横に揮っている。やっぱり付け焼き刃の俺と違って、腰が入って力強い。
まあ今の敵に力は余り関係ない。もっと言えば必要ない。悪霊系だからだ。
「ふう」
額に浮かぶ汗を、拳で拭っている。
「アレク様、この上がり片鎌は良いです。普通斃せない不定型をこんな簡単にやれるとは……ありがとうございます」
上がり片鎌とは、槍の穂先にレ字状に小さい横刃が付いている形態だ。俺が工芸魔法で仕上げた。
聖属性の紋章を刻み、使用者の魔力を強制的に吸い上げ魔獣にダメージを与える。ゾフィは徒手では魔法を使えないが、魔力は持っている。有効活用だな。
青狼に変化しているロキシーもそうだ。先生が作った防具を肩に着け、四肢の先にブレスレットとアンクレットを填めさせ、物理力以外の攻撃力と魔法防御力を付けている。
今回の遺跡攻略には、メイド達に先生、ロキシー、それにランゼ先生を加えた7人パーティーで来ている。アンは先行偵察、前衛はゾフィ、中衛はレダに俺、後衛が先生にユリだ。あとロキシーは遊軍だ。陣形と言っても無理だし。
先生は後見で、ユリの緊急防衛以外は闘わないと宣言している。
サクサクと地下第2階層を越え、かなり高低差のある階段を降り、入ったことのない第3階層に踏み入れた。
明るいな。
壁や高い天井が、緑がかった燐光を発しており、視界が得られている。人為的な細工なのだろう。どういう意図かは分からないが。
これまで俺の出番らしい出番がない。
おおよその魔獣は、ゾフィとレダが斃してしまうし、数が多いときもロキシーが飛びかかっていくぐらいだ。ロキシーも先生の亜空間で鍛えられたようで、少女というか人相の時と打って変わって強い。とは言え、移動時は概ね俺にじゃれついている。先生が連れて行くと言わなければ、正直置いて来たろうなあ。
上2階層は建築らしい構造だったのに、この階層は、まるで迷宮のようだ。岩盤を刳り抜いたような通路。しかし、その断面は広い。直径3m以上ある。数十mごとに分かれ道があり鬱陶しいはずだが、アンのそつのない先導によって特段問題はない。
ん? なんだ?
誰かに見られている気がする。感知魔法を行使……が、俺達以外は感知されなかった。気の所為か?
そのアンが、下がってきた。
「この先に広間があって、自動発動の罠があります」
「ふむ」
「魔獣が封じられているはずです」
”はず”というのは、自分は発動させてないと言う意味だろうな。
「回避は?」
「皆さんには無理です」
「そうか、分かった」
広間と通路の境目には、人のような、蛮族の神のような3目の人型が、豪奢な浮き彫りで刻まれた門柱がある。随分高い天井だな。
ほう。確かに何か気配がある。
「みんな止まれ!」
─ 尖氷錐 ─
いつもは、腕の大きさ程度の氷銛を創り出して、射出するのだが。今回は二回り程大きく創り出し。時速30km程で前に投げ出す。
ギギギイィィ。
耳障りな音を立てて床を滑り、部屋の中程で止まった。
「えーと。アレク様?」
ゾフィが不審がっている。
「前を見ろ」
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りと共に、床からせり出してきた。
蹲っていたヤツが立ち上がる。
巨人──
感知魔法がそう知らせてくる。確かにでかいな。身長が6mぐらいあるだろう。とにかく毛深い、髪も髭もぼっさぼっさだ。腕には俺の背丈ほどの棍棒を握っている。
天井が高いのは、こいつが動けるようにか?
まあ、わざわざトラップを発動させて正解だ。正直、この巨人はさほど脅威ではない。ただ、腹背から出てきて、ユリが襲われるのだけは勘弁だからな。実際には俺が不意を突かれても、先生が何とかしてしまうのだろうが、それでも避けられる不確定要素は、できるだけ避けたい。
その時。後方から日差しのような暖かさを感じた。
おおう。
ユリがゾフィ、それにロキシーに付与魔法を掛けている。
金の微粒子が2人?に掛かると、意を強くしたのかゾフィが真っ向から、そしてロキシーが右から回り込みつつ、巨人に突っかかっていく。
─ 焔陣 ─
すかさずレダが左に走り腕を敵に伸ばす! その瞬間ゾフィを射線から外して顔面に炎を浴びせる。一気に髭が、髪が燃え上がったから堪らない。
巨人は、棍棒を取り落として、慌てて顔やら頭を両手で叩いて居るが、火は消えない。
「ハァァ」
走り寄ったゾフィは、気合いもろともに飛び上がると、槍を一閃。
グガアァァ。
脇腹から鮮血が噴き出し、床を染める
そして、ロキシーは、地を蹴ると、巨人の膝、腕と伝って首筋に噛み付いた! そのまま身体を捩って錐動し、そのまま食い破った。
うわっ、えげつない。
巨人がぐらっと体勢を崩したところを。
「ヤァァー」
ゾフィの突きが、巨人の左胸を貫いた。ふんと引き抜くと、巨人はどうと倒れた。
そのまま事切れたようだ。
いやあ、巨人を秒殺かよ。
強いね、我がメイド達。
ハッハッハッっと息を切らしながら、ロキシーが戻ってくる。
「ロキシー待て!」
「ああ、レダ構うな!」
ロキシーは、真っ赤に染まったまま俺に飛びつく。
「おお。よしよし。良くやったな、ロキシー!」
手荒く、喉と頭を撫でてやる。うーん濡れて、モフモフ感が落ちている。
抱きついた俺の白いローブが血に染まっていくのを、あーあと元ランドリーメイドのゾフィが頭を振っている。
大丈夫だ。
よく見ると、ロキシーが何か咥えている。
「ああ、ロキシー。そんな物食べると、お腹壊すから……ペッしなさい、ペッ!」
理解したのか、何かを吐き出す。それは巨人の核たる魔石だった
「よしよし、良い子だな」
撫でられて、こっちを見たロキシー。自分が俺を巨人の血で汚したことに気が付いたようだ。
クゥゥンと喉を鳴らす。
「気にするな! ロキシー」
─ 御祓 ─
俺達のの身体に、青い光が降りて、汚れが飛んでいく。便利だなこれ。
「ほら、おまえも綺麗になったぞ」
再び、ロキシーが抱きついてきた。
頭を撫でてやっていると、巨人の屍体は、薄く光って床に吸い込まれていく。普通の魔獣とは違うのか?
まあいい。
「えーと、アレク様
「なんだ、アン」
「お楽しみの所、申し訳ありませんが……」
存在を消していたアンが、俺の横に立っている。俺は、それほどモフ好きではないが。ロキシーは特別だ。
「罠を突破しましたので、この先が通れるようになりました。偵察がまだですので。30分程、お休み下さい」
「ああ、いや待て。既に昼を回った」
先生も頷く。
「うむ、アレク殿。食事を取ると良いだろう。どうした?」
俺が周囲を伺っているのに気が付いたようだ。また誰かの視線を感じた。後に感じてそちらを見ると、気配が消えた。
「いえ、なんでもありません」
是非是非、ブックマークをお願い致します。
ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2016/10/2 微妙に変更




