81話 山賊捕縛 (後) 尋問と阻害感
発動した滅劫は、レダの魔法を大きく超える冷気をゴーレムに浴びせ、物の数秒でその動きを停止させた。そして、周りの水蒸気を凝結させて真っ白に変わっていく。
周囲から歓声が上がった。
狙い通りだ。冷却系互換魔法で、ゴーレム全体を凍り付かせることができた。
「賊を全て引っ捕らえろ!」
意を強くした捕方と、消沈した賊達の乖離は大きく、簡単に召し捕らえられていく。
しかし、まだだ! 終わってはいない。
「ゾフィ、来い!」
「はっ」
駆け寄ってきた。
「槍で……いやちょっと待て!」
† ゾォールク ゼム ドゥク † 歪んだ六芒の剛き結実を ─ 牢固 ─
硬化と剛性向上の魔法を発動し、槍の穂先に付与した。そして、凍て付いたゴーレムの身体の一点を指差す。
「ここを槍で貫け! 全力だ!」
「承知!」
はっぁぁああ!!
裂帛の気合いと共にゾフィは槍を繰り出すと、狙い違わず、俺が指した位置を貫いた。
その瞬間、凍り付いたゴーレムに、何条もの亀裂が走る。
俺が軽く肯くと、ゾフィは槍を引いた。
直後、甲高い音を遺してゴ-レムは崩れ去った。その刹那、何か気のような物が、霧散していくのが見えた。
引き抜いた槍の穂先には、卵大の塊が刺さっている。ゾフィが、槍を持ち替えて何だろうと見ている。
「それを見せてくれ」
「はっ……あっ、えっ?」
槍から引き抜いた直後、核はまるで灰にでもなったようにグズグズと砕け、彼女の手から零れ落ちていく。
「もっ、申し訳ありません!!」
「いや、ゾフィの所為じゃない」
残った粉末を、手に受けると魔収納に入れた。
10分も経ったろうか。
賊共は、全て後ろ手に縄を打たれ、地べたに膝立ちにされている。
「おまえが頭目だな!」
「うぇぇ、ああぁぁ。いっ、命ばかりはお助け下さい!」
思いっきり狼狽してるな。
俺みたいな優男が、怖い訳ないだろうに。だが、この大男は何を勘違いしたか、ブルブル震えている。
「死ぬか生きるかは、これからの態度次第だな」
「はっ、はぁぁぁあ」
縛られているのに、平伏しようとしてる。
「おまえに訊きたいことがある。あのゴーレムの核、お前が投げたヤツだ。どうやって手に入れた?」
「えっ?」
眼をしばたかせる。
「あれは、山賊風情が手にできる物ではあるまい!」
腕をゆっくりと振り上げる。
「もっ、申します。申し上げますから、殺さないでくだせぇ」
「ああ。本当のことを言えばな」
「はい……あれは、もらったんです」
「ふふふ。そうかぁ、もらった……なぁ」
少し、にやけて見せる。
「誓って嘘じゃありません」
山賊に誓われてもなと思ったが、この汗の吹き出し様、演技なら大したものだ。
「誰からもらった?」
「そっ、それが……」
「どうした?」
「それが、わからないんで……」
「そうか、俺は暇ではないんだ」
頭目は小さい目を、大きく開く。
「うっ、嘘じゃありません。他人を売って助かるなら、何人でも売ります」
「ははは……面白いことを言う」
「黒尽くめのヤツが、あなた様の服に似たヤツが、これを使えと」
ローブ……魔法師なのか?
「ほう。そいつは随分と奇特なヤツだな。高価な核を只でくれたとでも?」
「只じゃありません。あなた様達が、きっと出て来るから拐かせと」
一応話の筋は、少しは通ってきた。園外演習の時といい、今回といい、俺を付け狙うヤツがいるようだな。
掌を頭目の額の前に持って行く。口角を上げる。
「あぅぇぁぁああ!!」
歯の根が合わないようだ
手首を伸ばし、手刀を擬す。
「あぁあぁ、嘘じゃ有りません、いっ、命ばかりはぁ」
どうやら、嘘ではないらしい。
「そうか。わかった。ドルス!」
「はっ!」
「存分に処罰せよ!」
数歩離れると、山賊が項垂れるのが目の端に見えた。
この館への引き込み路へ馬車を回してくれたようだ。俺とメイド3人が、乗り込む。
ん?
対面に座ったゾフィが何か変だ。小刻みに震えている。そう言えば、馬車の扉を開けるときに、珍しくもたもたしていたな。
「ゾフィ!」
「はひ! あて!」
立ち上がろうとして、天井に頭をぶつけた。
「どうした?」
「なっ、なんでもありません」
いやいや、そんなわけないだろう。
なあ、アンと言おうとして、そちらに目を向けると、彼女もびくっとなって自分の胸を抱いた。
あれ?
俺、なんかした?
隣のレダに聞こうと思ったが、彼女は目を瞑っていた。
雰囲気が重いまま館に戻った
◇
腹が減った。
何か喰う物をと思い、食堂に向かう。
「私が、アレク様に失礼だと言うのか?」
ん? なんだ?
厨房の隣の部屋。食料庫から話し声が聞こえてきた。
「その通りです!」
ゾフィとレダか?
「どういうことか、はっきり言ってくれ」
「わからないんですか……先程アレク様を怖がっていたでしょう!」
声を掛けようとしていたが、足が止まる。
「我々を護ろうとされて、とても頼もしく感じたのも事実だ。しかし、あの頭目に対したときの、何とも言葉にできない恐ろしさは」
「ああ、私も。少しチビリそうになった」
むっ。この声はアンだな。
「なるほど。2人とも、気当たりだったのね」
「気当たり?」
「魔法師でなくても、魔力を感じることができるわ。アレク様は、あの山賊の口を割らせようとして、恐らく魔力を放射したのだと思う。上級魔法師のやることね」
なるほどな。そう言うことか。まあ、俺の場合は、意図してないけどな。それにしても、アイツは少しビビり過ぎだと思っていたが、そういうことか。
「へえ……」
「大部分は、あの男に作用したのだろうけど、わずかに、広がって……」
「それが、私とゾフィに作用したってこと?」
「正解!」
「そうかぁ……では、何とかなると言うことか!」
「はっ?」
「本当に怖い人でなく、魔法が問題なら。修行とかで何とかなる。だってレダだって、大丈夫なんでしょ」
「さあ、どうかしら。ランゼ様にでも訊いてみることね」
おっと。立ち聞きしていたことがバレる前に、食堂へ移動しよう。
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