80話 山賊捕縛 (前) 罠
騎乗し、山賊の隠れ家に向かう。
隣に同じく騎乗のゾフィが併走している。
アンは、昼過ぎから現場に詰めているし、レダは俺の警護隊に付けて先行させた。
先生とユリにロキシーは、館で留守番だ。
日が暮れたが、幸い月明かりで、松明を焚くことなく行軍できる。
隠密性を保つため、俺とゾフィの馬は、鼻革で口を縛り嘶かないように対策している。
”悪いねぇ!”と、特殊スキルの獣懐柔を使って、馬に言い聞かせたのが効いたのか、気持ち良さげに走ってくれている。
「それにしても、アレク様が……」
「はっ?」
「馬とあのように意思を疎通できるとは。お優しさが馬にも通じるのですねえ。またもアレク様に感服致しました」
ちと照れた。獣懐柔がパッシブで発動しているだけだ。
「いや、あのな……余り喋っていると舌を噛むぞ」
まあ、馬は速歩だから、慣れていればそういうことはないが。
ゾフィは、うれしさを抑えられない様子だ。
馬に言い聞かせ始めた時に、ゾフィが見ていた。最初は、まあ微笑ましいと言う顔をしていたが、馬が頷き理解してる素振りを見せたので、彼女は大いに驚いていた。
そんなことを考えつつ走らせていると。
影が近づいてきた。
一瞬にしてゾフィの表情が引き締まった。
「ゾフィ。あれはアンだ!」
ああと肩から力が抜ける。
「アレク様。先導致します」
「ご苦労! 頼むぞ」
いやあ、身のこなしと言い、脚力と言い、まるで女忍者だなあ。
何でこんな子がメイドをやっているんだろうと思ったが、先生が素質を見込んでサーペント家の間者部隊へ数年前から修行に出していたそうだ。ちなみにその部隊は、一応原型はあったものの、ヴァドー師の発案で大幅に増員されたようだ。
脇街道を離れ、踏み分け道に入っていく。さらに10分程走ると、馬を止められる。
恐れ入りますが。ここからは徒歩でと言われ、従う。
林を進んでいくと、やがて人の気配がした。
「御曹司様。賊はあの館におります」
林が少し切れた平地に石造りの建物がある。
曾爺さんの妾が住んでいたのだろうか。
向かって左側は健全のようだが、右の方は壁と屋根が一部崩れている。
警護隊が何人か、樹の影に潜んでいたので合流する。
「皆、ご苦労! 早速作戦開始だ」
「はっ!」
小さい紅い明かりがぽつぽつと灯る。そして松明に火が移り、明々と燃え始めた。俺達のすぐ脇だけではなく、所々で灯り、あっと言う間に館全体を包囲した。隊員に1人頭2本の松明を持たせてある。
「なるほど、遠目に見れば、こちらは大勢見えますね」
「まあ、そういうことだ」
館の中で気配が動く、突然現れた松明の壁の驚愕して居るに違いない。
拡声魔法を発動。
「賊共聞けぃ! お前達は包囲されている。今から10数える内に出てこい!!」
オンオン……と木霊する位の大音量だ。中にも聞こえているはずだ……が。
何の反応もない。
「1! 2! 3! 4! 5!」
その時、2階の窓が開く。
「おぁい!、数えきったらどうだって言うんだ!!」
「6! 7!」
「この野郎!」
右腕を上げて、館に向ける。
「そ、それがどうした!」
「8! 9! 10!」
矢を射掛けてきた!
構わず詠唱──
風の精霊の御名に拠りて 怨敵を叩きつぶせ ─ 潰榴弾 ─
ガッダドッドッッッダァァン!!
館の一角が吹き飛び、その周りも崩れ落ちた。
寸前に腕を右にずらし……まあ、照準は腕ではやるわけではないが、賊が居なさそうな方を撃った。威力は大幅に絞った。詠唱したのは制御しやすくするためだが、建物の劣化が進んでいたのだろう。思ったより派手に崩れた。
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉと鬨の声が上がる。
それが一旦静まるのを待つ。
「次はないぞ! 1! 2!」
「分かったぁぁぁぁあ! 出て行くから、やめてくれぇぇえ!」
待つこと、数十秒。
山賊達が館からぞろぞろと出てくる。
刀など大きな武器は持っていないようだ。
「案外、呆気ないですね」
「そうだな……」
自分で自分の発言が釈然とせず、反射的に上級感知魔法を発動!
最後に出てきたヤツの周りに、プレッシャーを感じる。
罠だ!
「警備隊下がれ!!」
賊達を捕縛しようと近づきつつあった、隊員の足が止まる。
「くそぅ、感づかれたか!」
山賊の首領だろう厳つい髭面の男が、手にした物を地面に投げつけた。
ドーーンと破裂音が響き、もうもうと土煙が上がる。
土埃の中から巨大な人形がせり上がってきた。身長にして3mはある。
「ゴーレムだぁ!!」
エマが使役していたのと違って、外観が岩ではなく泥もしくは粘土だ。
あれだ! クレイ・ゴーレムとかいうヤツ。
うわぁあと、悲鳴を上げて兵が逃げ惑う。まあ、無理もない、初めて見たんだろうしな。
右の方へノッシノッシと大股に歩いていく。足音は粘着性の音だ。
そこに居た兵は、蜘蛛の子を散らすように、林へ逃げ込んで行く。ゴーレムはうなりを上げながら腕を振るうと、木々が簡単になぎ倒された。
「やぁあああ!!」
ゾフィが走り込み長槍を突き込む。しかし、全く意に介することなく、樹齢数十年の幹をへし折った。
─ 氷礫散 ─
続いて駆けつけたレダが、風の榴弾を撃ち込む。
「くっ!」
着弾した部位はグズグズに崩れた!
しかし、瞬く間に修復される。
ノーダメージだ。
厄介だな。
こいつの攻撃力は大したことがないが、こちらの物理攻撃も受け付けない。
曾爺さんの蔵書に拠れば、おおよそゴーレムとは、核と生物の骨格や筋肉に相当する媒質から成る。核を壊さねば斃したことにはならず、再生が効く。特に媒質がこいつ不定形の場合は、即座に再生されてしまうのだ。
先程から、核を破壊すべく感知魔法を駆使しているが、捕捉できていない。
「媒質の中で、核が動いてやがるのか」
ある程度見えてはいるのだが、動きがランダムなのと感知に遅延がある。
どうすれば?
媒質中の核を止められれば──
「レダ!」
「はい!」
こっちを見た!
「ヤツの足を詠唱して凍らせろ」
「凍る……了解!」
[アレックス!]
──わかってるって!
……………… ─ 滅却 ─
──לא להקפיא כלום כדי לא להקפיא גם ………
──憶えた! 行くよ!
おう!
頭を無にして、聞こえてくる通り唱える。
深奥の凍土より なお凍えよ!永劫なる無明を讃えよ! ─ 滅劫 ─
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