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79話 根回し

「警備が行き届かず、申し訳ありません」


 館に戻ってきた。会議室に居る。

 俺とユリが椅子に座り、後にゾフィが立っている。

 テーブルを挟んで村長ベスターと村の警備兵の隊長ドルスが揃って立っており、頭を下げ恐縮している。


「いやいや。我らこそ、随行を連れず外出したのだ。たとえ不埒者ふらちものが寄って来ようと、そなた達に責任など問わぬ」

「ありがとうございます。子爵様」

 

 ただ、果たして俺の親父も同じことを言うか? それが彼らの目下の関心事だろう。

 こんな若造が、偉そうに言ってるのに大変だよな。俺が前世で16歳のガキにそんなこと言われたら、ふざけるなと反発しそうだ。


 親父というか領主の権力は、領地の中においてはかなり高い。軍事指揮権、司法権、警察権、徴税権、さらに役人の人事権を独占している。まさにオールマイティーだ。

 もちろん、余りあくどいことをやっていて露見すれば、上位の王命で処罰を受ける。


 しかし、村長やら警備隊長の首を飛ばすなど容易いことだ。そんなことは、彼ら自身百も承知だ。戦々恐々としているのだろう。

 可哀想になあ。


「さて、その話はここまでとして。問題は、この後の処置だ」

「と、おっしゃいますと?」

 ベスターの額に汗が浮かぶ。


「山賊どもは、主に山間部の街道筋に出没するからと言って、放置して良いわけではない」

「お言葉を返すようですが、それは街道警備隊の任務では」

 彼らの後ろに、アンの姿が見える。

 頃合い良く帰ってきたな。目線を向けると自信ありげに頷いた。隣に立っているゾフィが怪訝な顔をしている。 


「そういう考えもなくは無い。しかし、山賊共の拠点が、街道から離れた場所にあればどうだ」

「それは、その地の首長にも責が……まさか子爵様は、このサーペンタニアにその拠点があると?」


「地図を、ゾフィ」

 はっと応え、60cm角程の地図をテーブルの上に広げた。


「アン!」

「失礼します」

 村長の脇から、アンが割り込んできたので、ゾフィが脇に避ける。


「湖からアレク様がわざと逃がした、賊1人を尾行しましたところ……」

 ユリとゾフィが驚いている。

 アンが、地図の一点を指さすと、釣られてベスターとドルスも頭を地図の上に持って行く。

「湖のほとりから、この脇街道を通り、こちらの丘を通り抜け、この林に古い館に潜んでおります」

 ざっと、ここから6km弱だ。


「はあぁ。こんな所に近くに……遺跡のごく近くの祖師様の館の一つで閉めた所ですな」

「盲点でした……ところでこちらの方は?」


「我が手の者だ!」

 はあぁと、結構簡単に納得している。


 俺も偉そうにしてるが、アンが間者ローグであることを知ったのは昨夜だ。

 言うまでもなく、レダが魔法師、ゾフィが戦士。そして昨日、ユリが巫女と分かった段階で、メイド達が戦闘職能をそれぞれ有していると想像が付く。アンだけ持って居ない方が不自然だ。

 スイカ割りの時も、抜群のバランス感覚を見せた。その時から何かあるとは思っていたが。

 昨夜、アンを呼びつけて問い詰めたところ。

『あら、バレちゃいました? いやあ、すみません。ランゼ様がみんなに黙っておけっておっしゃられたんで』

 あっけらかんとしたものだ。


 とは言え、そんなことだと思った。

 先生は、この日のために、5年以上人材を涵養していたというわけだ。執念というか、深謀遠慮というか。


『バレたらしょうがない。これからは、その手の仕事もしていきます。もちろんご主人はアレク様ですので、随時報告します』


 そう言って、今朝も俺とユリが外出した時に、しっかり尾行してきた。

 俺も気が付いていたので、ワザと山賊を1人逃がした。アンもしっかりと俺の意図を理解して、山賊の隠れ家を突き止めて帰ってわけだ。


「山賊達がどこに居るか分かった上は、一網打尽にしないとな。ベスター、ドルス」

「はぁ。しかし……」

 歯切れ悪い。


「私が指揮を執る。そして、連れてきた兵も出す」


「でっ、ではございましょうが……万一のことがございましては」」


──お前達が前にしているのは誰だと思っている?


 頭の中に響くような声が聞こえた来た。


「先生!」


 ランゼ先生が、黒いローブをはためかせてながら、部屋に入ってきた。

 表情がきりっとして、いつもの3割増しで格好いい。絵になるよな。

 俺がそう思っている程だ、他の者は度肝を抜かれたように、ぽかーんと口を開けて見つめている。


「はっ、子爵様の先生様?」

「ああ、私の魔法教師。ランゼ・ハーケン女史だ」


 えっと、再び驚く。あの名高きとか言っている。

 どうやら、村長も警備隊長も、その名を知っているようだ。


「私のことなど、どうでも良い。そこなるアレックス卿は、我が愛弟子にして、セントサーペントの再来だ」

「祖師様の再来ですと?」


「アレックス卿は、初陣にて竜属を屠られた」

「初陣にて竜属を!? まさか」


 いやいや。魔獣1匹相手に、初陣は言い過ぎだけどな。


「ああ、ベスター殿、真ですぞ。それがし聞いたことがございます」

「おお。ドルス殿……失礼致した」


「では、アレックス卿のご指示通りに」

「はっ!」


 皆がこちらを向く。


「では軍議としよう。そちらと、こちらの警備隊の主立った者を集めよ。それから松明を100本程用意してくれ」


 村長と村の警備隊長にカークスも、部屋を辞していった。



「なにやら、私が居ないうちに大事になっているな。が、まあ、良い処置だ」

「そうですか?」

「ああ、当地の警備隊を取り込んだのは良かったな」

 流石は先生! 俺の考えなどお見通しだな。


「私が山賊を打倒するのは、見方を変えれば親父さんの警察権を侵害することになりますからね」


 先生は、ふふんと笑う。

「アレクは相変わらず難しい言葉を使うなあ。だが、そういうことだ。村の警備隊は、伯爵様より権限を委譲されている。よって彼らを引き入れれば、伯爵様をないがしろにしたことにはならぬからな」

 そういうことだ。親父さんに限って、変なことにはならないだろうが。家臣はそうではない。


「はあぁ。そのような深謀があったとは……感服しました」

 ゾフィ、何か口調が戦士ぽいぞ。

 

    ◇


 夕方。


 隠れ家に派遣した、アンと村の警備隊から、山賊が居ることを報告を受け、本日検挙に向かうことにした。

 主立った者を、館の広間に集め、持ち場と作戦を説明する。


「我が手の者をご同行頂くとは言え、子爵様のご負担が重うございませんか?」

「今回の最も大事なことは、山賊の幹部以上を逃さぬことだ。急襲部隊も大事だが、包囲を担当する者も重要な役割であると認識するのだ」

「はっ!」


「ぐれぐれも、賊に悟られることのないように!」

「では行軍を開始します!」

 再び、警備隊長ドルスと配下が部屋を出て行った。


「ははは。ドルス殿、ああは言っていましたが」

「ほっとしていたな」

「ええ、厄介な役割を背負い込まなくて済んだと……」

「その分、お前達にも損な役回りをさせるが」


 カークスはにっこり笑う。

「いえいえ、御曹司。全く16歳には思えませんな。では、我らも進発致します」

「ああ、頼むぞ」

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