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76話 昔馴染み

 夏休み3日目。

 今日は曇りだが、外は暑い……ことだろう。

 だが馬車の中は、空調用の紋章魔法が効いていて、快適そのもの。

 

 最近、王都館の隠し部屋にあった魔法書を読み漁っていく中で、多くの魔法を習得した。まあ、大体は生活に役立つ地味な魔法だが。

 これらをできる限り使って行こうと考えている。なかでも、紋章魔法は重点対象だ。


 俺の乗っている馬車には、ユリとゾフィが乗ってる。

 前の馬車には、ランゼ先生、 レダ、アン、そしてロキシー。後ろには兵達が乗っている。さらに一番前と後は騎乗の兵だ。


 向かうはサーペンタニア──

 まだ見ぬ、我が一族発祥の地。


 道程は馬車で1日弱。セルビエンテの城から南東へ、海岸線伝いに行って、少し登った、おおよそ40km程の所にある。

 が、まあ急ぐ旅でもない、昼食や休憩を挟みながら日没までに着けば良い。


 それにしても、フレイヤがあんなに泣き叫ぶとは思ってもみなかった。

 彼女を連れず、サーペンタニアに行くことを告げた時。


『いやです! 私もご一緒します!』


 半狂乱になって訴えた。

 が、結局の所、彼女には学園が決めた神官課程の1年の奉仕活動を、セルビエンテの精霊教会で実施することになっていたため、イーリアとおふくろさんに説得された。

 ちなみに精霊教会は、ルーデシアや周辺国において事実上の国教だが、それほど力は持っていない。信者も半分以上は人族だ。


 うーん。兄離れさせないとなあ。まあ、何か土産を買って帰ろう。そんなことを考えていると。


「最外郭の土塁を抜けると流石に、田舎になりますね」

 ん?


「ハイエストに行ったときも、外に出たよな」

「あぁ……ええ。そうなのですが。あの時は景色など目に入らなかったので……」


「心配掛けたな、ユリ」


 がっと、ゾフィがユリの手を掴んだ。

「チーフのアレク様を思う心。尊敬に値します」

 おおう、何かウルウルしてる。


「いいえ。私はアレク様が唯々愛おしいだけです。ゾフィさんもいかがですか?」

「あっ、あのう。いかがとは?」

 おいおい。雲行きが怪しい方向に行っている。


「私、そしてレダさんと一緒に、アレク様をお支えしませんか? メイドの仕事とは別に、伽を!」


「とっ、とっ、伽!」

 ゾフィは目を丸くしている。


「おい、ユリ!」

「ねっ! ゾフィさんもアレク様が好きでしょう」

「それはもちろん……ですが、ああ、あくまでも、ご主人様として」

 焼けていて分かりづらいが、なんだかソフィの顔色が目まぐるしく変わっている。


「嘘ね。アレを飲んでいるよね?」

「の、飲んではおりますが……」


 アレとは、先生製作の避妊薬ピルのことだ。


「じゃあ。そういうことよね?!」

「まっ、まあ。そうなんですが……」

 大きい身体に似合わず、か細い声で応える。


「ユリ」

「はっ、はい」

 声音こわねの違いに気が付いたのか、今度は反応する。


「無理強いは駄目だ!」


 ユリは小さく首肯した。


    ◇


 昼前頃、セルークという町に着いた。

 遠浅の雄大な海岸沿いある。


 もう行程の半分は、大分前に過ぎた。


 予め連絡が行っていたのだろう、役人が出迎えに来た。

 まだ若い、細身の目の大きい男だ。

 町の境のところで、自らは下馬して、馬車にやって来た。御者と何事か話していたが、彼らの先導で町の公会堂に案内された。応接に通される。


「ようこそ。お出で下さいました。高貴な方々が、お越しになると連絡がございましたが。まさか子爵様とは。光栄でございます」

 掌を胸に当てて礼をする。


「造作を掛ける」

「替えの馬と土地の物で恐縮ですが、お食事を用意しております」

「それは、ありがたい。皆慎んで頂こう」


 料理が出され、皆で食べ始める。


「それにしても、ここの砂浜は綺麗だな」

 先生が褒めた。確かに砂浜が白くて美しいよな。しかも、この前海水浴した海岸より、十倍以上は倍も広い。


「それは嬉しい、お言葉。マルズ様も喜びましょう」


 言ってから、彼はしまったと言う顔をした。制限している感知魔法を解放する。

 シュペルター。副官か。


 ああ、この副官、俺達の接待を押しつけられたな。

 こんなのどかな町で多忙はないよな。さっきのマルズというのが代官か。


──マルズ!?


[なんだ、知り合いか?]


──多分。名前がゴドフリートなら


「ところで、ゴドフリートは元気かな。副官殿」


 シュペールは、眉根を寄せて慌てて戻す。

「申し訳ありません。代官のマルズがご挨拶すべき所……諸般多忙につき小官が代理で」


 当たりだ! アレックス。

 それにしても、この副官、落ち着きがないな。かなり額に汗を掻いている


「そうか……役所は? さっきの辻を左か?」

「そうですが。まさか、ご自身で?」


「ああ、ヤツは同級でな。忙しいのなら、表敬訪問でもと」

「あっ、あのう……」


「すまぬ。困らせたか」

「申し訳ありません。実は酷い二日酔いで、役宅で寝込んでいるかと」

「だらしのないヤツだ。アレックスが来たと伝えて、連れて来い」


「はっ、はい。ただいま」


 20分後。

 さっきの副官が、別の男を担いでやって来た。


「アレックス様……お久しぶりです。まさかお出でになるのが、御曹司だったとは」


 こいつが、ゴトフリートか。


──ああぁ。変わってないな。ゲッツ。


[ゲッツって、愛称か。アレックスの学友だったのか?]


──そうそう。子供の頃に城で、一緒にね


「なんだ。ゴトフリートとか言うから分からないのだ。悪たれゲッツじゃないか!」

「げっ! ランゼ鬼……じゃなかった先生まで、ウゲッゲホゲホ……」


 ゴトフリート・マルズ。準男爵バロネット、16歳。同い年か。

 先年、父親が亡くなり、家を継いで、この地に代官として赴任か……。


「乙女の顔を見て、吐きそうになるとはどういうことだ!」

 いや。先生、乙女って。


「ランゼ様!」

 ユリが進み出る。どうした?

 あぁと先生が頷く。


 ユリが、ゲッツの胸に手を翳した。

 

 ん?

 ユリの掌がうっすら輝き、金色の微粒子が湧きだす。男の胸に吸い込まれていく。


 ちょ!

 それは治癒トリート。なんでユリが魔法を使える?


 っていうか、先生がうんうんと頷きながらドヤ顔だ。


『これでも、お昼間も結構忙しいんですよ……』

 そういうことか……後でとっちめよう2人とも。


 ゲッツの表情が緩んでいく。

「ああ。すっかり楽になりました。ありがとうござ……い? ユリーシャの姉御?」

「やっと気が付いた? ゲッツ君」

 姉御? なんか、えらく親しそうだな。


「君? えっと、なんでその格好? 厨房キッチンメイドじゃなかったんですか?」

「ああ、ちょっとね」

 二人はこっちを見た。


「でも良かったですね。これで何時でも御曹司と一緒ですね」

「まあね」

 なんで、ユリに敬語?


──ああ、ユリはお転婆だったって言ったよね。で、ゲッツを餌付けしてたし


 餌付け(笑)。


「なんで、そこまで飲んだんだ?」

「面目ないです。それが。漁師達と飲んだんですが……荒くれ共でして。若い俺の言うことを聞かすには、酒の一つも飲まないと。それで、マセリ酒を飲んだんですが、どいつもこいつも強くて。御曹司が来られるの知っていれば、別日にしたんですが……」


 ああ、聞いたことあるな。マセリの蒸留酒アルヒス。まあそれほど美味くはないらしいが。


「言うことを聞かすとは、親父さんから、沿岸防衛の厳重化の触れが出ていたが、それか?」


「はい! その通りですが。まあ、ここはご覧の通り遠浅で、吃水の深い軍船は着けられませんから、深酒もできるという」


 ふむ。ちと弛んでいるな。


「底の浅い小さい船を多数仕立てて兵を分乗させ、この浜に大挙上陸しないとも限らんぞ」

「まさか……ああ、いえ。御曹司のお言葉肝に銘じます」

 本当か?


「ふふふ。我が主も面白いことを言うようになった」

「先生!」

 そりゃあ、思いつきだけどさ。いや、なんか前世の映画で見たか。


「では代官就任祝いに良い物を贈ってやろう」


 先生は、したり顔で何度か頷いた。


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訂正履歴

2017/07/09 精霊教会の位置づけ 国教→事実上の国教(111話に合わせた)

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