74話 海だ! 水着だ! (後)
「誠に畏れ多いです」
「気にするな、ゾフィ」
俺がやりたくてやっているのだから。
敷物を敷いた床に、ゾフィを寝そべらせ、ランゼ先生特製のオイルを塗ってやっている。
「ああっ……あふっ」
やや褐色がかった肌はなめらかだ。
首筋をオイル潤滑で行きつ戻りつしていると、艶めかしい声が上がる。思ったよりも、手が吸い付けられるもち肌だ。
それにしても、僧帽筋から上腕筋への流れが見事だなあ。
そう思っても、口にしてはいけない。ゾフィは、自身が女らしくないと、無用な悩みを抱えているからな。
首筋から肩に掛けては、万遍なく行き渡ったので掌を下げてゆく。
ふう。
脇の下方には肋骨と敷物に挟まれ、ひしゃげつつも素晴らしい弾力伺わせる乳房がはみ出している。
あちらを向いているが、すぐ近くにアンも居る。これ以上、煩悩吸引力に負けて指を下げては、取り返しの付かないことになる。腰の方へ……。
「あっああ、あん」
これまでとは少し異なる、痙攣混じりの嬌声に、ぴくっと後背の気配も動く。
「ああぁ。気持ちいいです。アレク様ぁ」
そうかそうか、脇腹が良いのか。さっきの首筋の反応と共に記憶して置かねばなるまい。
「ウキャ!こそばゆいよう。アンは下手! アレクと変わってぇぇ!」
隣に寝そべっているのは、ロキシーだ。
面白いヤツ。
「もう。子供が生意気言わないの! こんなのに上手いも下手もないわ」
それは違うぞ!アン。上手く塗らないと焼けムラができるんだ。そうすると、筋肉陰影の強調がだなあ……おっと、ボディービルダーあるあるは、この辺にしておこう
さてこっちは。背中に塗り終えた。お尻は後にして脚だ……。
「あっ。アレク様ありがとうございました。もっ、もう後は、脚と前は自分で塗れますから」
「そっ、そうか……」
無理強いは良くない。渋々オイルの瓶をゾフィに渡す。
それを見ていたアンが、クスッと笑ったので、脳天に軽くチョップをお見舞いしておいた。
さて、準備は万端だ。海辺へ出よう!
白い砂浜に、透き通る海!
波はあれども、そこは内海。さほどでもない。キラキラと陽光を照り返して幻想的なビーチを作り出している。
サンダル、サンダルと。
ワァァーーっと、元気いっぱい駆けだしていく少女。気が付いた時には、水辺に向かって10m以上先にいる。
「ロキシーちゃん、サンダル!」
すると、歩調が変わる。
「あちっ! 熱、あつつ、あちゃ……」
砂の熱さを、気合いで乗り切って、海へ頭から突っ込んで行った。
「あいつ、泳いだことあるのか?」
「さあ……」
あっぷ!
一瞬水面に顔を出したが、また沈む。どう見ても溺れているな。
─縮地─
「アレク様ぁぁあ!」
自己加速魔法で一歩で水際に届き、頭から飛び込む。
泳ぎは得意だ! 前世だが。
筋肉は乏しいが、筋力はある。中々の速度で潜っていくと、泡が切れてロキシーを見つけた。
眼を瞑ったまま、滅多矢鱈と藻掻いている。
溺れてパニックになってるな。
俺は、さらに深く潜ると、ロキシーの後背下方から忍び寄り脇に両手を差し込み、一気に水を蹴った。
ザッパー……。
ロキシーを持ち上げ、水面から肩まで突き出す。
「あばば……」
「おい、ロキシー。もう暴れなくて良い」
「あぅぅ……」
「もう、息ができるって」
「あふっ……あれ? 顔が出てる? 何で?」
「俺が支えてるからだ!」
ロキシーが、振り向く。
「アレク? アレクぅぅ!」
抱き付こうと、身体を捻るがそうはさせん。しがみつかれると俺まで溺れかねん。
「どうだ。海にビビったか?」
「ちょっと怖かっただけだもん」
いや、それをビビったというのだが。
アレク様ぁぁと、水際から聞こえて来た。
「大丈夫だ! 問題ない!」
拡声魔法を交えて応える。
「おっきい声」
結構けろっとしてる。
「落ち着いたようだな。自分で泳げるか?」
「わからない」
「正直だな。泳げるようになるコツを教えてやる。水の中でも、目を開けろ! そうしたら。怖くないぞ」
「ホント?」
「ああ、そうだ。すぐにやるぞ! 息を吸え!」
すうぅぅ……。
それに合わせて手を下ろす。ざぼっと彼女が没した。
10数えて、上げる。
「ぷはあぁぁあ。あひゃははははああ……」
ん? 息を吐いた途端、大笑いし始めた。
「アレクの足。変なの! 変な動き……あははは」
「これは、立ち泳ぎと言ってなあ……そうか。眼が、俺の足が見えたか」
「うん。見えた! 海楽しぃぃ!」
「よし! 泳ぎの練習だ!」
10分後。
俺は一人で波打ち際に上がって、大の字になる。
ふうっと一息吐くと、顔に影が差す。
「お疲れ様です」
ユリが正座し、頭を膝の上に乗せてくれる。布で顔の水を軽く押すように拭き取る。
「凄いですね。もう立派に泳いでますよ。あの子!」
「ああ、流石は野生児。まあ犬掻きだけどな」
うふふふ。
レダにアン、ゾフィもロキシーを追いかけながら泳いでいる。
「こっちは、のんびりできて良いな」
「そうですね。ここにはここの、王都には王都の良さがありますね」
「へえぇ。ユリは良いこと言うなぁ」
「まあ!」
ふふふ……。
──なんだか最近上品に笑うようになったよね、ユリは!
[そうなのか?]
──ロキシー程じゃないけど、昔はお転婆だったのにね
へえ。
先生がやって来た。
上体を起こす。
「アレク。何かやると言っていなかったか?」
「ああ。そうでした。皆喉も渇いてきた頃でしょうから。やりましょう」
水際から少し上がった場所に、最近先生に習っている、精密土魔法を使って台を作った。上面は、かっちかちで水を弾くぐらいになっている。
その上に、よく冷えたスイカモドキを据える。大きさはハンドボールぐらいで、名前も違う。まあ、皮が硬いが、中は瑞々しくて甘いのは共通だ。
「何です?」
レダか。
全体的にスリムな身体なのに、蒼いトップスに包まれた胸は、しっかり持ち上がり自己主張している。絶対的な大きさでは、ユリやゾフィに譲るが、アンダーは細いので、いわゆるカップでいけば、結構良い勝負かも知れない。
「ああ、海辺でやる遊戯だ。スイカ割りと言う」
「へえ、スイカ割りですか?」
アンも来ていた。
ふむ。
「手拭いに、棒?」
「そうだ、レダ。お前からやってみろ」
「はあ」
スイカから15m程の位置。手拭いで目隠しして棒を持たせる。
「それで? この棒で、スイカを叩いて割れば良いのですか?」
「そうだ。魔法は使うなよ」
「はあ。ただ、いくら目隠ししたとは言え、結構簡単だと思いますが」
「だから、こうする」
きゃっ。
レダの華奢な肩を持って、その場で回らせる。
1周、2周、3周。
「良いぞ、行け! レダ!」
はいと応えたレダは、2歩3歩と歩み出す。が、左に逸れた。
そのまま進んでいると、足に波を受けたので自分の方向感覚がずれていることに気が付いたようだ。
「みんな、レダに声を掛けて、スイカに誘導して上げてくれ」
「もっと右! そうそう」
「そこで、振り降ろして!」
ブゥン、ドス!
少し右に外して地を叩いた。
みんながどっと笑う。
「ははは、楽しいですね! これ」
確かにな。食べたくなくなるほど、破壊してしまう超体育会系でなければ、大体楽しいよな。
「あははは……。次、私、私!」
ロキシーは方向感覚は合っていて、スイカを叩いたが、力が足りず割れなかった。
ゾフィは、辞退したので悪夢は再現されず、アンがやることになった。
どうかなと思ったが……。
「おおーーー。やったね、アン!」
意外にも、危なげない足取りでスイカに歩み寄ると、サクッと割った。
「やるなあ」
俺が感嘆したとき、先生は意味ありげに笑った。
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