70話 模擬戦再び (中) 奇を以って勝つ
「おぉ。メドベゼ選手の必殺の突きぃい!!! がっ、ああ! 横に反らし、返す一振りを弾きました! 信じられません! 今の打突で多くの戦士を下してきたのに! なんと!」
「凄いですね、避けるだけでなく、自らも反撃しました。とても魔法師とは」
「私、これでも戦士科ですので分かります。並の戦士を遙かに超える反射神経、機動! 羨ましい程の身のこなしです。なんなんでしょうか、サーペント選手」
「確かに」
「……おっと。一転して、両者動きを止め、睨み合いになりました」
「うーむ。あの棒、魔道具でしょうか?」
「と、言うと?」
「あの棒、とてもメドベゼ選手の打撃を受け止められるように思えません。おそらく魔法で強化しています」
「なるほど。今回も鋭いですね。ところで、サーペント選手は、前回も最初防御に徹しておいて,一気に反撃に転じましたね。なぜなんでしょう。普通不利ですよね」
「不利ですね。うーむ、魔力を溜めているんでしょうか……」
「なるほど。私、単純に格好を付けているのかと思っていましたが、流石に違いますよね……」
「さあ、もしかしたら、その通りかもしれませんよ。あっははは……」
「さて、おっと何時の間にか、メドベゼ選手がサーペント選手をコート際に追い詰めている。ピンチ! そして渾身の一振り! えっ! とっ、跳んだ!」
◇
メドベゼ先輩は、じりじりと摺り足で近寄ってくる。すぐ後ろに白線で描かれたコート際が見える。
それでも、気持ちに余裕がある。
ゾフィとここ数日実施した、対選手戦闘特訓の効果だろう。
彼女と、魔法防御抜きでやれと命じたランゼ先生に心の中で礼を言う。
敵はコートの中央から、こちらに踏み超えて来ている。追い詰めたと思ったのだろうか、獰猛な顔付きで、舌なめずりした。
依頼事項を果たすとするか。
その刹那、槍先が袈裟懸けに飛んできた。
─ 天駈 ─
脚の先に魔力を込めて、胸高程まで飛び上がる。
さらに──何もない宙を蹴った。
「なっ、なんだと!」
見上げたヤツの肩と首へ連打すると、ふらついて数歩後ずさった。
音も無く、コート中央に舞い降りる。
メドベゼが振り向いた。ブルンと首を回すと、こちらを睨む。
「面白い!」
流石にあれしきの打撃では、ダメージはあってないようなものらしい。
太い首が耐えるだけではない。鎧もまともじゃない。
対魔法紋様もそうだが、硬く弾性のあるミスリル製な上、構造もシェル構造で物理衝撃に強い。
「お気に召したようで光栄です」
「減らず口を。魔法を使って来い、そんな棒ッ切れで撃たれても効きはせん!」
「ふふふ……確かに。その鎧相手では力不足のようですね」
ゾフィとの対戦では、そこそこ戦力となった樫の棒を魔収納へ入庫する。まあ会長のご希望だった時間稼ぎは、これぐらいで良いだろう
メドベゼは怪訝な顔をした。
「無手だと! 何の真似だ?」
「無手じゃ有りませんよ。先輩」
◇
観覧席で、どよめきが起こる。
「跳んだぁぁあ! 驚きました、サーペント選手、なんとメドベゼ選手の頭上を遙かに超えて、後に降りました」
「天駈と言う魔法でしょう。通常魔道具と併用しますから、あの靴は魔道具に違い有りません」
「靴ですか、なるほど。そして跳んでいる間に、首と肩にそれぞれ攻撃しましたが」
「効いてないようですね」
「流石は、戦士科の雄と言うところでしょうか」
「それにしても、グラハムさんがさっき仰られたように、サーペント選手は今日の模擬戦に向けて、戦士に対する訓練を積んだと思われます」
「詳しく、お聞きしたいですね」
「通常、魔法師は懐に入られてしまった段階で、敗北です。凄まじい恐怖に襲われることでしょう。それを覆すために、近接戦闘訓練を積んで来てるはずです。おそらく配下の選手と」
「確かに、サーペント選手は、恐れを知らないようです。メドベゼ選手の鋭い槍先を、舞踊のように鮮やかに避け切っていきます」
◇
いずれも当たれば、大ダメージ必至の槍筋を至近で避け、弾いていく。
メドベゼは、自分から後に跳んで間合いを取ると、槍の石突で自ら靴をつついた。
むっ! 何だ?
ヤツの足下が明るくなる……靴か?
突進?!
考える暇はなく、俺は右に飛んだ!
これまでは余裕があって、手変わりをさせないよう寸前に避けていたが……今のは正真正銘で紙一重だ。
眼の端に次撃の溜めが映り、さらに右へ回避する。
速度が段違いだ!
メドベゼの攻撃が、ゾフィとの訓練のレベルを凌駕した。
3手、4手と一方的な攻めに曝されつつ、懸命に避けまくる。
しかし!
ウルゥァアア!!!
槍を腰溜めに携え、残像を引きずって突っ込んできた!
悠長に跳び上がっていてはやられる。
ダン!!
俺は、強烈な衝撃を受けた! いや、受け止めた。
咄嗟に左手甲へ魔力を通し、大部分の衝撃を相殺させたのだ。
一旦止めてしまえば、こっちのものだ。俺の全力、先輩の半分位の筋力でも対抗可能!
「貴様!」
兜に当たった腕の向こうから、睨まられた。
巨漢を止め、槍の懐に入ったわけだ。
見直したよ、先輩。
この大幅な機動向上は、その靴、魔道具に依るのだろうが。体力がなければ引き出せない技と見た!
ならば!
もはや遠慮は無用! いや、逆に失礼だ。
─ 金剛 ─
ハァァア!
左腕を引き戻しつつ、ガードに覆われた右肘を額にブチ込む。
ヨレてガラ空きとなった脇腹に膝!
持ち上がった背中へ、重ねた拳を叩き込む!
ノめって倒れかかるところを、右回し蹴り。
瞬く間の4連撃を受けて数m吹っ飛んだ巨躯は、土煙を上げて転がりながらコート外へ。
10m程のところで、ようやく止まった。
土に塗れ、兜は外れ、ガラガラと遠くへ転がった。
ふぅぅぅ。
永らく忘れていた、拳法が甦ってきた。
あのマッチョな師範が言っていた。
数限りなく叩き込め!
10歳まで、しかも数年しか通わなかったガキでは、拳法のなんたるかなど、さっぱりわかりはしないが。型は躰に染みつき、師の言葉は心に強く残っている。ああ、もっと続けておくべきだったんだろうな。なんで、辞めてしまったんだろうか? 思い出せない。
8! 9! ……
鎧の軋みと共に、メドベゼ先輩は起き上がった。
凄惨な笑顔を浮かべている。なかなかの面構えだ。
俺の拳と膝の当たった凹み、彼の胴に付いている。
場外乱闘してみるかと一瞬頭を過ぎるが……止めておこう。
ベッと吐き出すと、口の端は朱く染まっていた。
「サーペント、せめて魔法で斃してやれ」
教官は、何食わぬ顔で、カウントを再開した。
勝手なことを──アレを使うか。
† イェル イェル ヘゥストェイ ディルダム † 神威を我が手に……
ゆっくりとリングに歩み寄ってくる。そして、カウント18で白線を跨いだ刹那。再び突進!
彼は最後の力を振り絞った!
しかし、もう勢いが乏しい、どこか壊れたのか耳障りな鎧の音。
突いてきた槍先を躱した擦れ違い様、ヤツの首筋に──
─ 鉤爪紫電 ─
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訂正履歴
2016/08/24 脱字を訂正
2025/09/23 誤字訂正 (ゾンビじぃーちゃん ありがとうございます)




