表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/224

70話 模擬戦再び (中) 奇を以って勝つ

「おぉ。メドベゼ選手の必殺の突きぃい!!! がっ、ああ! 横に反らし、返す一振りを弾きました! 信じられません! 今の打突で多くの戦士を下してきたのに! なんと!」


「凄いですね、避けるだけでなく、自らも反撃しました。とても魔法師とは」


「私、これでも戦士科ですので分かります。並の戦士を遙かに超える反射神経、機動! 羨ましい程の身のこなしです。なんなんでしょうか、サーペント選手」

「確かに」


「……おっと。一転して、両者動きを止め、睨み合いになりました」

「うーむ。あの棒、魔道具でしょうか?」


「と、言うと?」

「あの棒、とてもメドベゼ選手の打撃を受け止められるように思えません。おそらく魔法で強化しています」


「なるほど。今回も鋭いですね。ところで、サーペント選手は、前回も最初防御に徹しておいて,一気に反撃に転じましたね。なぜなんでしょう。普通不利ですよね」

「不利ですね。うーむ、魔力を溜めているんでしょうか……」


「なるほど。私、単純に格好を付けているのかと思っていましたが、流石に違いますよね……」

「さあ、もしかしたら、その通りかもしれませんよ。あっははは……」


「さて、おっと何時の間にか、メドベゼ選手がサーペント選手をコート際に追い詰めている。ピンチ! そして渾身の一振り! えっ! とっ、跳んだ!」


     ◇


 メドベゼ先輩は、じりじりと摺り足で近寄ってくる。すぐ後ろに白線で描かれたコート際が見える。

 それでも、気持ちに余裕がある。

 ゾフィとここ数日実施した、対選手戦闘特訓の効果だろう。

 彼女と、魔法防御抜きでやれと命じたランゼ先生に心の中で礼を言う。


 敵はコートの中央から、こちらに踏み超えて来ている。追い詰めたと思ったのだろうか、獰猛な顔付きで、舌なめずりした。

 依頼事項を果たすとするか。

 その刹那、槍先が袈裟懸けに飛んできた。


 ─ 天駈キャンター ─


 脚の先に魔力を込めて、胸高程まで飛び上がる。

 さらに──何もない宙を蹴った。


「なっ、なんだと!」

 見上げたヤツの肩と首へ連打すると、ふらついて数歩後ずさった。

 音も無く、コート中央に舞い降りる。


 メドベゼが振り向いた。ブルンと首を回すと、こちらを睨む。

「面白い!」


 流石にあれしきの打撃では、ダメージはあってないようなものらしい。

 太い首が耐えるだけではない。鎧もまともじゃない。

 対魔法紋様もそうだが、硬く弾性のあるミスリル製な上、構造もシェル構造で物理衝撃に強い。


「お気に召したようで光栄です」

「減らず口を。魔法を使って来い、そんな棒ッ切れで撃たれても効きはせん!」


「ふふふ……確かに。その鎧相手では力不足のようですね」

 ゾフィとの対戦では、そこそこ戦力となった樫の棒を魔収納へ入庫する。まあ会長のご希望だった時間稼ぎは、これぐらいで良いだろう


 メドベゼは怪訝な顔をした。

「無手だと! 何の真似だ?」

「無手じゃ有りませんよ。先輩」


     ◇


 観覧席で、どよめきが起こる。


「跳んだぁぁあ! 驚きました、サーペント選手、なんとメドベゼ選手の頭上を遙かに超えて、後に降りました」


天駈キャンターと言う魔法でしょう。通常魔道具と併用しますから、あの靴は魔道具に違い有りません」


「靴ですか、なるほど。そして跳んでいる間に、首と肩にそれぞれ攻撃しましたが」

「効いてないようですね」

「流石は、戦士科の雄と言うところでしょうか」


「それにしても、グラハムさんがさっき仰られたように、サーペント選手は今日の模擬戦に向けて、戦士に対する訓練を積んだと思われます」

「詳しく、お聞きしたいですね」


「通常、魔法師は懐に入られてしまった段階で、敗北です。凄まじい恐怖に襲われることでしょう。それを覆すために、近接戦闘訓練を積んで来てるはずです。おそらく配下の選手と」

「確かに、サーペント選手は、恐れを知らないようです。メドベゼ選手の鋭い槍先を、舞踊のように鮮やかに避け切っていきます」


    ◇


 いずれも当たれば、大ダメージ必至の槍筋を至近で避け、弾いていく。


 メドベゼは、自分から後に跳んで間合いを取ると、槍の石突で自ら靴をつついた。


 むっ! 何だ?

 ヤツの足下が明るくなる……靴か?

 突進?!

 考える暇はなく、俺は右に飛んだ!


 これまでは余裕があって、手変わりをさせないよう寸前に避けていたが……今のは正真正銘で紙一重だ。

 眼の端に次撃の溜めが映り、さらに右へ回避する。


 速度が段違いだ!


 メドベゼの攻撃が、ゾフィとの訓練のレベルを凌駕した。

 3手、4手と一方的な攻めに曝されつつ、懸命に避けまくる。

 しかし!


 ウルゥァアア!!!

 槍を腰溜めに携え、残像を引きずって突っ込んできた!

 悠長に跳び上がっていてはやられる。


 ダン!!


 俺は、強烈な衝撃を受けた! いや、受け止めた。

 咄嗟に左手甲へ魔力を通し、大部分の衝撃を相殺させたのだ。

 一旦止めてしまえば、こっちのものだ。俺の全力、先輩の半分位の筋力でも対抗可能!


「貴様!」

 兜に当たった腕の向こうから、睨まられた。

 巨漢を止め、槍の懐に入ったわけだ。


 見直したよ、先輩。

 この大幅な機動向上は、その靴、魔道具に依るのだろうが。体力がなければ引き出せない技と見た!


 ならば!

 もはや遠慮は無用! いや、逆に失礼だ。


 ─ 金剛 ─


 ハァァア!

 左腕を引き戻しつつ、ガードに覆われた右肘を額にブチ込む。

 ヨレてガラ空きとなった脇腹に膝!

 持ち上がった背中へ、重ねた拳を叩き込む!

 ノめって倒れかかるところを、右回し蹴り。


 瞬く間の4連撃を受けて数m吹っ飛んだ巨躯は、土煙を上げて転がりながらコート外へ。

 10m程のところで、ようやく止まった。

 土に塗れ、兜は外れ、ガラガラと遠くへ転がった。


 ふぅぅぅ。

 永らく忘れていた、拳法が甦ってきた。

 あのマッチョな師範が言っていた。

 数限りなく叩き込め!


 10歳まで、しかも数年しか通わなかったガキでは、拳法のなんたるかなど、さっぱりわかりはしないが。型は躰に染みつき、師の言葉は心に強く残っている。ああ、もっと続けておくべきだったんだろうな。なんで、辞めてしまったんだろうか? 思い出せない。


 8! 9! ……


 鎧の軋みと共に、メドベゼ先輩は起き上がった。

 凄惨な笑顔を浮かべている。なかなかの面構えだ。

 俺の拳と膝の当たった凹み、彼の胴に付いている。


 場外乱闘してみるかと一瞬頭を過ぎるが……止めておこう。


 ベッと吐き出すと、口の端は朱く染まっていた。


「サーペント、せめて魔法で斃してやれ」

 教官は、何食わぬ顔で、カウントを再開した。


 勝手なことを──アレを使うか。


 † イェル イェル ヘゥストェイ ディルダム † 神威を我が手に…… 


 ゆっくりとリングに歩み寄ってくる。そして、カウント18で白線を跨いだ刹那。再び突進!

 彼は最後の力を振り絞った!

 しかし、もう勢いが乏しい、どこか壊れたのか耳障りな鎧の音。


 突いてきた槍先を躱した擦れ違い様、ヤツの首筋に──


 ─ 鉤爪紫電アストゥラ ─

是非是非、ブックマークをお願い致します。

ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2016/08/24 脱字を訂正

2025/09/23 誤字訂正 (ゾンビじぃーちゃん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ