67話 自治生徒会からの呼び出し
翌々日。
自治生徒会から、手紙が届いた。
呼び出し状だ。
初めて来た校舎──生徒会室に続く廊下に出ると、巨体が遠ざかっていく姿が見えた。
あれは……。
無骨な楓の一枚板、その扉をノックして入る。
「サーペント、参りました」
会長1人だ。
「ああ。よく来てくれた。アレックス子爵様に、ご足労頂いて申し訳ないね」
絶対思ってないな。
それにしても整った顔だ。笑うと少し口が広がり、妖艶になる。
「いいえ」
「まあ、座ってくれ給え」
大きな古びた革張りの椅子に腰掛けると、体温が残っていた。
「ふむ。一昨日は、しっかり眺める暇がなかったが……噂通り男前だね。まあ、言われ慣れているだろうけど」
とりあえず流す。
「ああ、済まない。来て貰った理由は、他でもない。昨日生徒会で投票した結果を知らせ、君の判断を訊きたくてね」
「ああ、模擬戦実施の件は承知しました。実施予定日は、いつですか?」
「ほう……賢い子は好きだよ。実施日はまだ決まっていないけど」
決めていないではなく、決まっていない……ね。
「メドベゼ先輩は、賢かったですか?」
「いいや、驚いていたぞ。生徒会にそんな権限があるのか!? とな」
模擬戦を実施するには、教官の承認が必要だが。例外がある。生徒会役員の3人の内、2人の賛成があれば実施できるのだ。
無論そんなことは知らなかったが、レダというか、ランゼ先生から聞いた。
「こちらからも、質問させて貰いたいのですが」
「ああ、もちろんだ」
会長は鷹揚に頷いた。
「会長と呼ばせて戴きますが。会長はなぜ、メドベゼ先輩に、便宜を図られたのですか?」
「ふふふ。別にメドベゼ君に便宜を図った訳じゃない。まあそうでないのは、質問した段階で分かっているのだろう? 理由ねぇ……君は、学園生活は楽しいかね?」
んん? 何を言い出した?
「ええ、まあ」
「去年、全校生徒にアンケートした結果、おおよそ、楽しい10%、まあまあ楽しい15%、どちらでもない60%。余り楽しくないと楽しくないが合わせて15%だ」
ふむ。大体分かってきた。
「それで?」
「もう言わなくても分かっているのではないか?」
「俺達を娯楽に使おうと言うことですか?」
「正解だ!」
正解ねえ。美人が、腹黒く笑う姿には慣れてきたな。
「別に、俺はやりたいことをやるので、構いませんが。娯楽になる、ならないは保障しませんよ」
「うーん。問題はそこなんだよね……」
あぁーと何か閃いたと言う顔をした。ベタな演技だ。
麗しい唇が、開き切る前に先回りする。
「お断りします」
「えぇー。まだ何も言ってないよ」
「どうせ、手を抜けとか、長引かせろって仰るんでしょ」
「何で分かるんだ?」
「このところ憶えたスキルです」
ウーンと会長が腕組みした。
「まあ、手を抜いてくれ! は、立場上ないけど、時間を多少伸ばして欲しいところだよね……」
余り違いが分からないが。
「君の噂が本当……いや、話半分でも、ラウール君だとなあ。そうだ、ハンデを付けよう。模擬戦は10mの敷地内で、外に出たら……」
彼女は手で四角を描いた。10m角のコートか……2、3歩歩いたら、彼の槍の旋回範囲に入ってしまうが。
そこで、姫は、はたと考え込んだ。
「うーむ。即反則負けにすると、ラウール君に返って不利かもね。何秒か以内に戻らないと駄目ぐらいにする?」
「20秒位でよろしいかと」
プロレスの例を言ってみる。
「うん。じゃあ、それで。実施日は追って知らせるよ。もうすぐ夏休みだけど、その前だね」
「わかりました。ところで、むしろ俺としては、別の方とも闘いたいのですが」
「ほう!? 誰とだい?」
「会長、あなたです」
エリーカは、目を丸くする。
「妾と? あははは……。嫌だよ! 知ってる? 私は宗教学科生。正義と安寧を愛するエルフなんだからね」
手を振って却下の素振りを見せる。
「そうですか? それは失礼しました。でも、神学者ではなく、執行者たる神官なんですよね。結構武闘派とお見受けしますが」
そう、この人の法力は、恐ろしく強い気がする。
「確かに神官課程だけどね。こんな、か弱き乙女と戦ったら、君の信奉者が減るって。とにかく勘弁して欲しい。それはともかく、戦闘での娯楽要素は君に任せるとして。ああ、ラウール君に勝ったら、次期生徒会長に推薦するよ」
「勝敗にかかわらず、推薦は必要ないです」
「ふーん。まあ、君が立候補すれば、女生徒からの絶大なる支持が集まるだろうからね。不要か」
沈黙しておく。何を言っても良いことはない。
「ふふふ。君のような子は久しぶりだ。せいぜい仲良くさせてもらいたいが、どうかな」
「はい、是非に」
「そうか。うん。ああ、ラウール君は妾の幼馴染みなんだ、呉々も殺さないでくれよ」
「気をつけます」
「ふう」
「姫様、お疲れ様です。くくく……」
エリーカは、従者の呼びかけに、一瞬視線を向ける。遮光器眼鏡をつけたスリムな女性だ。
腹を抑えても、笑いが堪えられないようだ。
「何、笑ってるのよ」
「いえ、か弱きって言葉がツボで」
「もう! それにしても、綺麗なだけのお坊ちゃんかと思えば、中々の難物だね」
「ええ、オーラも強く綺麗でしたね」
「へえ」
「これを着けていても、結構眩しい程で……」
会長は、ややあきれた表情だ。
「あれ? 好きになっちゃった? 惚れっぽいよね、パトリシア」
「流石に、それぐらいでは惚れませんが」
「そりゃ良かった。オーラって、魔力が溢れてくるものだからさ……」
「眩しければ良いものではないと」
「そうそう。あのヴァドー師だって、そんなにまぶしくなかったのでしょう?」
「まあ、そうなんですけど。あの方は例外でしょう」
「ふふふ。でも、さっきの麗しの君も例外の1人かもよ。なにせ、聖者の曾孫だし、従者は魔女の姪だからね」
「それにしても、10mの範囲ってメドベゼ様に肩入れし過ぎじゃありませんか?」
「そうかなぁ? 確かに少しふっかけ気味ではあるけれど」
「普通の魔法師なら、呪文を唱え切る前に終わりますよ」
「でもさ。軽く承諾したよ、麗しの君!」
「大胆ですよね……ところで、止めませんか? その呼び方」
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