7話 女教師の誘惑 (後) 闇
俺の部屋のソファで、ランゼ先生と向かい合っている
「あのう…」
「なんだ!」
「そんなにゆっくり脚を組み替えないで下さい…じゃなかった。さっき聞き捨てならぬことを聞いた気が…」
「ふふふ。おまえの視線の動きが面白くてな…分かった分かった。おまえに隠すことはない。何でも聞くが良い」
くっ。弄ばれているぞ。負けるな負けるな。
「では。さっき年齢の方にびっくりして、聞きそびれたのですが…この躯では処女!って仰ったのはどういう意味ですか?」
「おまえは、細かいことに気が付くな」
いや、全然細かくないし!
「どうなんすか!」
「仕方ない。もう少し超越者の話をするか。私の本体は、おまえ達の概念で近いものは霊体だ」
「霊体?!」
「大まかにはな。この躯は借り物ということだ。元々ハーフエルフの娘だったのが、一旦溺れ死んでな。蘇生させて私が借りることにしたんだ」
「はあ」
これは、前の俺の記憶にも無い。
「そうやって、永く意識と記憶を保つのが超越者だ」
「そっ、そうなんですね。信じがたいですけど…俺も転生しましたから、信じます」
余りに話がぶっ飛びすぎて、一回りして冷静になった。
「そうか。それはよかった」
先生は妖艶に笑った。
「この身体には、私の意識しか無い。歳はともかく…どうだ。一旦死んだが、なんら変わらん、ほれほれ」
確かに。蘇生したんだから、ゾンビとかじゃ無くて、普通に生きてるんだよな。つやつやしっとりの肌だしな。
と言うか、襟ぐりの大きなローブで、前屈みになられると…その。艶やかで素晴らしいものが…。まあ見せてるんだろうけど。
「いっ、いや。先生とお手合わせしたいのは山々ですが…」
「ん?」
先生は怪訝な顔をした。
「先生は、良いんですか、俺なんかで…そ、そのう、処女なんでしょ!?」
「いいぞ。おまえは私の好みだからな…」
「そっ、そうなんですか!?」
げっ、年下趣味かよ。
自分を好きだと言われてるのに、複雑だな。
「何せ、あの伯爵に奥様だからな。美男美女の配合に、10歳手前から絶対太らないように、私が手塩に掛けて育ててきたからな」
…なんだって?
「ま、まさかと思いますが、アレックスの両親が結婚したのは?」
「意外と鋭いな。そうだ、私がそうなるように仕向けたんだ」
…恐っ!
どん引きです。先生。
「アレク。そんな顔するな。全てはおまえを最強魔法師にするための措置だ。伯爵の体力に血統的法力。奥様の潜在魔力量に魔法センス、3代前に大魔法師が共通先祖にいるしな」
インブリードかよ!!!
脳裏に蘇る父の顔。
『いいか、アレックス。私は戦士だが、我がサーペント家の初代、つまり私の祖父は、聖者と呼ばれるほどの大魔法師だったのだ。そして母さんの家系にも、同じ聖者様がいらしたのだ。だからおまえはきっと立派な魔法師に成れるぞ』
俺から言えば曾祖父と高祖父が、つまり父の父の父と、母の母の母の父が同一人物だったわけだ。
3×4のクロスだ。
って、競馬用語で言うな。
「いやあ、伯爵に娶せようとした奥様の血筋にも、セント・サーペントの血があると知ったときの、感激。おまえには分からぬだろうなあ」
分かってたまるか!
あああ、分かりたくもない。
「で、そう仕向けたことを、アレックスは?」
「ああ、私の記録ノートを盗み読みして、私を問い詰めてなあ」
「喋ったと…」
「ああ。嘘は嫌いだからな。特におまえには嘘を吐きたくない…」
いや、そこは嘘つきましょうよ!
「…だが、それもあって、心に大きな傷を負ったようでな。ふさぎ込むようになってなあ」
そりゃそうだ。
自分は、魔法師の野望のために生まされた。
まるでモルモットじゃないか!アレックスが可哀想だ!
それに自分を生ますために、あなた達は配合されたんですよ…なんて親にも相談できないしな。
「元々食が細かったのに、身体が食べ物を受け付けなくなって…」
「それで、アレックスが死にかけたので、俺を呼んだと」
「ああ、こんなに素晴らしい実験動物を喪うわけにはいかないからなあ…」
もうぅぅぅぅぅう。
聞きたくない。
アレックスも可哀想だけど、よく考えたら俺の方がもっと可哀想じゃないか!
モルモットの、さらにスペアパーツだったなんて。
「そんな眼をするな。だから詫びとして、私を抱かしてやると言っているだろう」
いや、流石にそれぐらいでは元が取れません。
ランゼ先生。
外見は、どストライクなのに…中身が黒すぎて引くわ。
俺の本能も、危ない!という警戒警報を出し続けている。
だが、なんだろう。嫌悪感が不思議と湧いて来ない。
あっけらかんと自分の所行を話すからか、俺に嘘は吐きたくないと言ったからか?!
それとも、もう俺は…。
「つかぬことを聞きますが?俺の意識を操っていませんよね?催眠術とか」
「大丈夫だ。それをやると、データが作為的になりすぎるからな。研究自体成り立たなくなる」
えーと、何とも言い難いが、なぜか信頼感だけはある答えだ。まあ良しとするか。
「分かりました、信じます。で、さっきの件は、まだショックから抜けないので、またと言うことで」
「ふふふ。また…か、良いだろう、何時でも言うが良い。私の愛し子よ。死ぬな」
絶望とか死にたいとか、思わないし。
そのためには、先生と絶縁はできない。
「はぁ…まあ、大丈夫です。せっかく転生したんですから、俺は生き抜きますよ」
※インブリード、クロス
近親婚による能力覚醒手段。優れた共通の祖先がいることで、その優れた能力を遺伝させやすくする手法。ただし、体質が弱くなるという副作用が現れることもある。競馬、サラブレッドの配合に使われる。
3×4のクロスとは、父方の曾祖父と母方の高祖父が同一人の場合の近親婚だが,人間の場合は、ほぼ赤の他人である。
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