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65話 女教師の苦悩

 週が明け、何事もなかったように学園は再開し、ゼノビア教官も、いつものごとくホームルームで点呼して出ていった。


 午後の魔法科実習では、園外演習の表彰式があり、メダルを受け取った。首から掛けるヤツではなく、直径10cmの円盤だ。

 俺達とは別に、男子だけのパーティーが、同率首位で優勝した。競技は減点方式だったので、ポストを全て見付け、観察の教官の手助けを求めず、ルール違反をしないという3項目が満たされれば、それが最高得点となる。


 少し困ったのは、1位のメダルが6枚しか用意されてなかったことだ。

 どうするかなと思っていたが。そのパーティーのリーダーが、あの禿げ山では一切戦闘がなかった。なので、俺達は2位のメダルで良いと申し出てくれた。

 男気有るね。感心して拍手したら、みんなが続いてくれたので、彼らの面目が立った。


 ところで、禿げ山の頂上付近で大きな人型の鳥類魔獣が飛び回っていたのを目撃しており、アレクズが全滅させたに違いないと言う話になりつつあるようだ。

 話に尾鰭おひれが付いたのだが、中には火属性魔法1発で焼き払ったと、真相に近いものもあった。こちらからは特に発信していないはずだが。


 それはともかくも。祝勝会をやりたいと言う話が、レダから伝わってきたので、我が館に招こうと言うことになった。

 ユリから、もっとお友達を招いて下さって結構ですと言われたからな。週末開催を前提に、用意する料理の量を見積もりたいので、明日中位を目処に、参加希望者をとりまとめておいてくれと、発案者のエマとレダに言っておいた。きっと親衛隊が仕切ってくれるだろう。


 実習終了後。フレイヤには遅くなるから先に帰るようにレダに伝えて貰うことにし、俺は教官室にやってきた。

「サーペント、入ります」

 宣言して中に入る。俺と教官の2人だ。


 扉を閉める。


「サーペント。今回の演習では世話になったな」

「いえ」

「そちらも言いたいことがあるだろうし、こちらも訊きたいことがある。どうしたら良い?」


「では先に俺から、教官がどういう状態だったかを説明しましょう。教官が知りたいところとも合っているでしょうし」

 教官は肯いた。


「まず教官が、演習で異常──意識が停滞しているようで、何事にも反応が緩慢で、判断が偏っていました。自覚はありますか?」

「正直に言えば、無いとは言えない。頭に霞が掛かったようになったことが、度々有った」


「そうですか。細かいことは一旦おいて、明らかに異常だと思われことですが。禿げ山の頂上付近でハーピィーに襲われた時に放置した件。我々が2日目に夜襲を受けたときに、教官は少し離れたところで失神していた件。その2件です」


「やはり、あの晩は襲撃を受けていたのか……何に襲われたんだ?」

「カレンには訊いてないんですか?」


 目を伏せて悲しそうな顔を見せる。


「なんだか、避けられている感じでな」

 まあ、今日も同席するとは言わなかったしな。

 待っているようなので答える。


「デミ・サイクロプスです」

 はぁっ……教官は、息を飲んだ。


「サイクロプス……魔獣階位4じゃないか。なぜそんな魔獣が、あの森に……」

 後で聞いた話だが、真性のサイクロプスは、長年確認されていないので、一般にサイクロプスと言えば、俺が斃したヤツのことを意味するようだ。


「居るはずの無い魔獣が、持ち込まれたと言うことでしょう」


「居たのもそうだが、おまえ達が斃したというのも、にわかには信じ難い。だが、事実として私が異常な状態になり、おまえ達が危機となったということだな」

「いいえ」

「んん?」


「逆です。俺達を危機に陥れるために、教官を呪いが籠もった魔法を掛けたと見ています」

「サーペントを? なぜだ? おまえを襲う理由があるのか?」

「分かりませんが、失神した教官を放置していたわけですから……」


「くぅ……不本意だが、説得力がある根拠だ……それから魔法と言っていたな。私の病気とかではなくてか?」

「紋章を使った継続的な魔法です。回復魔法を作用させた時に、教官の首筋に現れた文様が、これです」

 俺は、胸ポケットから、紙を取り出して見せる。


「ふぅむ。私も紋章魔法の造詣が深いわけではないが、禍々しいものを感じるな。これが、私の首筋にか」

「はい」

 重々しく目を閉じ、眉間に皺が寄る。


「おまえが言う、魔法の根拠は分かった。私に仕掛けたヤツの心当たりはあるか?」

「それは、こっちが訊きたいぐらいですが。そうですね。使われた魔獣から考えれば、そこそこの組織でしょうね」


「組織……」

「個人の手には余りそうですからね」

「確かにな」


「それで、教官の異常の兆候が見えたのは、演習の組み分けが終わった頃です」

「その頃から、おかしいと思っていたのか」


「多少ですが。その前後で、教官に誰か接触してきませんでしたか」

「接触?」

「演習を銀水晶で撮影しろと命じたのは誰ですか?」

 教官は、明らかにはっとなった。


「ヴァドー師ですか?」

「なっ、なぜ。そう思う?」


 真面目だなあ。人間的に悪くはないが……それでは、ランゼ先生にやられっぱなしになるよな。


「単純な消去法ですよ。教官の隙にすんなり入り込めそうな人物」

「ああ、いや。確かにそう言う気もするだけで、そうとは言い切れない。記憶が曖昧なのだ」

 教官の顔が真っ赤だ。


「では、疑惑の範囲に留めておきます……私の訊きたいことは以上です。教官から、何かあればどうぞ」


「じゃあ……いや。もう十分だ!」

 教官は項垂うなだれた。


「そうですか」

 俺は、きびすを回して扉を開けた。

 慰める言葉もないし、しても返って迷惑だろう。


「失礼します」


     ◇


 学園内の私室に戻り、扉を開ける。

 入った直ぐの控室に、レダに姿はなかった。一瞬不審に思ったが、奥の方に人の気配がある。短い通路を通り抜け、俺に部屋に入る。


「フレイヤ……先に帰れと伝えなかったのか? レダ」


 レダだけで無く、妹とその従者も部屋に居た。

 レダとイーリアが立ち上がる。


「お戻りなさいませ。お伝えしたのですが」

「アレク様。済みません。レダさんは、そのように言ったのですが、お嬢様が直ぐにお戻りになるから、一緒に帰ると仰られまして」


「ほら、10分でお戻りになったでしょう。お兄様のことなら、勘が外れたことがないんです」


 鋭い子とは知っているけど。少し退くね。俺自身、教官のもう少し話が長引くと思っていたのに。


「そっ、そうか。うん。じゃあ帰るか」

 まあ良い、馬車が往復していると、20分は待つ計算だからな。


 馬車に乗り込み、いつものように、フレイヤに腕を取られる。

「そうだわ。今日みたいに、あの部屋でお兄様を待たせて戴くというのはどうでしょう」


 何だと? 

また微妙なことを言いだしたな。しかし、この妹の満面の笑みには抗し難い。

 今は、ある時間になったら、出発することにしている。今のところ、そうなったの2回だ。親父さんからは、本館の馬車を使って良いと言われているから、それでもいいのだが。フレイヤが嫌がっているのだ。


「お嬢様。それはなりません!」

 おっ?

「イーリア。なんですって」

 ちょっと、怒ってるぞ。


「お優しいアレク様のこと。遅くなりそうであれば、きっとお知らせされるなど、心遣いをされるはず」


 イーリアの言葉に、フレイヤの表情が曇っていく。

「むう。そう言われると……」


 おっ。気持ちが揺れ出した。

「あと男子の私室に、その従者でない女子が立ち入るのは、学園の規則に反します」

 ンンン……と、フレイヤが凹んだ。


 イーリア、心得てるな。

 フレイヤの性格だ。規則の方から切り出せば、反発するだろうが。兄思いに訴える攻撃の後だと効く。おっとりに見えて策士だ。彼女に少し興味が沸いた。


「分かりました。あきらめます」


 けなげなので、フレイヤの頭を撫でてやった。

 そうこうしているうちに、屋敷が見えてきた。門を通り過ぎて、先ずは我が館に馬車が向かう。


 ん?


 馬車がロータリーを回り、玄関へ横付けした。

「では、お兄様。また夕食の折に」

「フレイヤ。今日は、ここで降りて寄って行け」


「はっ、はあ。お兄様がそう仰るのであれば」

 フレイヤは、今日に限って、なぜそんなことを言い出したか、やや不審そうだったが、玄関を入ると氷解した。


「おお、ようやく帰ってきたか。お帰り」

「お帰りなさい」

「えっ? お父様、お母様!? お越しになるとは聞いておりませんでしたが」

 両親を認めると、驚きを隠さず俺の方を向いた。


「父上、母上。ようこそ我が館へ。フレイヤ、言っておくが、お二人がいらっしゃるとは、ついさっきまで俺も知らなかったぞ」

「そうだな、来ることにしたのは、つい2時間前だからな……」


 セルビエンテの城内には、転送門があるからな。


「それにしても、アレックス。少し身体ががっちりしたか?」

「そうですね。たった数ヶ月なのに、アレクもフレイヤも見違える程大人になって」

「いやですわ、お母様。お兄様の方はともかく、大げさです」

「そうかしら、でも、アレクは婚約の申し込みが来ましたからね」


 フレイヤは、予想はしていたという感じだが、がっくりと肩を落とした。


「まあ、その話はあとだ。アレックス、早速案内してくれ」

「承りました」


 俺達が歩き出すと、妹が反応した。


「はっ? お兄様、お父様? どちらへ?」

「フレイヤ! お父様には時間がないの。すぐセルビエンテに戻らないとならないから。今は男同士にだけにさせて上げましょう」

「お母様?」


 母は穏やかに微笑むだけだった。

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