64話 聖者の遺産
「そのようだなって……」
「ああ、私も入ったのは、初めてだからな」
はあ?
「いやいや。先生は、館に来たときに、ここを見付けていたんですよね?!」
なんだか、決まり悪そうな表情を浮かべた。
「見付けてはいたが、さっきの扉が開かなくてな。お前が触ったら紋章が光ったろ。私がやってもそうはならなかった」
「はあ……」
「聖者、要するに自分の子孫が来たとき以外は、開かないようになっていたとかだな。無論、私が本気になれば開かぬ扉などない。第一!」
「第一?」
「お前は、生娘が好きだろう。私が先に入っては、機嫌を損ねるかと思ってな」
ここで下ネタっすか。相変わらず下品だなぁ、もう。
「なにしろ私も初めて……」
「さて曾爺さんは、ここで何をやっていたのかな?」
皆まで言わせず、話を遮る。
「研究であろう……魔法、錬金術もか」
少しむっとしながらも答えてくれる。
声が遠いなと思って振り返ると、先生は俺とは反対の壁際に居る。
壁の書棚に寄ってみると、革装丁の豪華な本が、びっしりだ。
あれ? 国史?
歴史の本か? 魔法の本だけでなく色んな本がある。
「おい。アレク。ちょっと来てみろ」
「はい」
先生の所に寄ってみると、ガラスの戸棚がある。中には──
「防具だな」
「手甲ですか?」
ガラスの奥は暗灰色の金属製の防具が一対見えた。
「ああ、下には具足もあるぞ」
「確かに。でも曾爺さんは、魔法師だったんですよね」
「いや、この防具は戦士用じゃない。魔道具だ」
「へえ。俺が使えるということですか? 見た目重そうですけどね」
手を伸ばして、ガラス戸を引くと、音も無く開いた。
左手の手甲を持ち上げる。
「うわっ!!」
あまりの軽さに、結構びびった。
へえぇぇぇと情けない声を挙げながら腕を通してみた。
おおう。誂えたようにぴったりだ、しっくり来る。
「アレク。ここに有る物は問題ないだろうが。他では迂闊に装備するなよ」
「呪われるとかですか?」
「そうだ!」
何かのゲームの知識が当たってしまった。
「それを、装備するとどうなるんですか?」
「その物より装着者の格が低ければ、魔力を吸い取られ続け、外せないまま衰弱死に至る場合も希にある」
怖いんですけど!
まあ、気を付けよう。とにかく最近使えるようになった上級感知魔法で見てから装着しなとな。
それは、それとして。この防具の使い心地はどうだろう。力を入れて振ってみる。
へえぇぇ。
着けていること感じられないぐらいだ。
本当に金属かよと訝しく思う。おそらくアルミより軽い。板厚も普通の板金鎧より薄い位だが、叩いてみるとかなりの剛性を感じる。
「何で出来ているんだろう、これ?」
「ミスリルだな」
「へえ。これがミスリル」
「まあ、色んなミスリルがあるがな、それは黒ミスリルだ。炭素の含有量が多い」
ミスリルねえ。元素なのか合金なのかは明らかではないが、軽くて硬い。防具に使うような一般的なミスリルは銀色らしいし、チタンみたいだな。
「それに魔力を流すようにして見ろ」
「はあ?」
──魔力をその手甲渡すように
なるほど。
魔力を渡すように……っと。
おお、なんか微かに光った。できたのか?
止めると、光も消える。おもしろい。それを逆の拳で叩きながら、魔力を入り切りしてみる。
「音色が変わるな」
魔力が通じていると、澄んだ音色に変わる。剛性が変わっているようだ。
「いいですね」
「ふん」
正拳を放つと、ブンと唸り音がして心地良い。結構大きく筋力が増強しているのを感じる。気を良くして一頻り拳法の型をやってみた。満足した俺は外して戸棚に戻す。
「アレク。何で戻す?」
「いや。勝手に使っては、まずいかなと」
「何を言っている。それは、お前のものだろう。聖者の遺産なんだからな」
まあ、そういう考え方もあるか。ただ、赤の他人の先生に言われてもな
──アレクが使えば、曾御爺様もきっと喜ぶよ。そうだ! 何なら本人に訊いてみる?
曾爺さん、本人?
「おおっ!」
先生の声に振り返ると、机に誰か座っていた。
しかし、身体が透けている。画像? あのオーブが映してるのか?
「良く来たな、我が子孫よ。そなたはアミタスの子か?」
喋ったよ。
「ああ、いえ。孫です。曾御爺様」
「そうか、儂の曾孫か。名は何という?」
「アレックスと申します」
「……良い名じゃな。残留思念体では、この手に抱いてやれないのが、些か残念だが」
残留思念体?
──あのオーブに曾御爺様の記憶と疑似人格が納められていたので。魔力を通して復活してもらったんだ。
そういうことか。器用なヤツだな。
「曾御爺様に訊きたいことがあります」
「なんじゃ」
「こちらにあるもの。私が受け継いでもよろしいでしょうか」
「……吾死して五十年。そなたが初めてきた者だ。見れば魔法師のようだ。ここには魔法書、魔道具もある、好きに致すが良い」
「ありがとうございます」
「何かあれば、このオーブに魔力を通せ。応えてやろう。ただし、この部屋の外に出してはならぬ。ではな……」
ふーむ。まあ防具は、使わせてもらうとしても。早速親父さんに手紙で知らせておこう。
「ほう。なかなか興味深いな。どうやら、さっきのご老人は魔法の造詣が深かったようだな」
んん?
いつの間にか、先生は分厚い書籍を取り出し、パラパラページを繰っている。
「学園やアカデミーでは監修していない、古代魔法が載っている。呪文が音呪のままだ。しかも、おまえの好きな体技魔法が、たくさん書かれているぞ」
えっ。
慌てて寄って行く。
「ご老人は、おまえと嗜好が似ているな。血は争えぬ」
いや、違うだろうと思ったが、反論する気がしなかった。
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